自室は、自宅の2階の東南角にあった。
出かける時に締めていったままで、部屋に入ると空気はひんやりとしていた。
カーテン越しに薄く太陽が差し込み、朝整えたとはいえ、シーツが少々乱れたベッドに一条の光が落ちている。
部屋に入った途端に、背後から抱き締められて、手塚は息を詰めた。
全身が、──熱くなる。
身体が細かく震え、その震えが真田に伝わったのか、彼が耳元で低く笑う。
「緊張、しているのか…?」
項に息を吹きかけられ、ちり、と首筋が燃えた。
どうして、こんなに。
俺はどうしたのだろう………信じられなかった。
「こっちを向け、手塚」
ぐい、と乱暴に身体を反転させられ、顎に真田の無骨な手がかけられる。
力を入れて掴まれて、痛みに僅かに秀麗な眉を寄せると、真田が微笑んだ。
「いい表情だ。…痛みを耐える、お前は、……そそる」
ねっとりと、真田の厚い唇が覆い被さってきた。
息が、できない。
弾力のある唇に、押されつぶされて、堪えきれず口を開くと、それを待っていたかのように、熱い舌が軟体動物のように入り込んでくる。
手塚の舌を捉え絡みみつき、吸いあげ、表面のざらりとした突起で、咥内中を舐め回される。
「んは……」
漸く解放された時には、眩暈がした。
蹌踉めく身体を、がっちりと抱き締められる。
股間に……堅いものが当たるのを感じて、手塚はさっと青ざめた。
自分のものも、既に堅く張り詰めていた。
そこに、自分のよりも更に大きく堅い物体が、ぐい、と擦りつけられる。
「ぁ……」
不意に下半身が蕩けて、背骨をなんとも言えない快感が走り抜け、手塚は喉を詰まらせて喘いだ。
「随分、乗り気だな、手塚。…この前とは、大違いだ」
真田が、笑いを含んだ声で言ってきた。
「心境の変化でもあったのか?なんにしろ、俺は嬉しいがな…」
出かける時に一応シーツを整えていったベッド。
その白いシーツの上に押し倒される自分を、まるで他人事のように頭の隅で眺めている自分がいた。
これから、どんな事をされるのか。
息を飲み、期待して股間を膨らませている、浅ましい自分を、もう一人の自分が、眺めているようだった。
「……んく、ッッ」
「力を抜け」
真田の、腰に来る響く声が、背後からする。
手塚は、全裸で、ベッドの上で四つん這いにされていた。
背後から、ぴったりと身体を覆い被せるようにして、真田が囁いてくる。
ベッドに押し倒されると、あっという間だった。
最早抵抗する気などない手塚の衣服をやすやすと脱がせ、自分も逞しい裸身を露わにすると、真田はゆっくりと手塚にのし掛かってきた。
首筋に口付け、手塚の苦しげな息づかいを聞いて満足げに笑み、平たい胸に息づく突起を指と厚い唇で舐る。
慣れた手つきが、手塚を戦かせた。
真田は、男と経験があるのだろうか。
例えば、幸村と……。
そう考えると、全身が戦慄いた。
熱くなり、下半身がむず痒く我慢できなくなる。
無意識に股間を擦りつけると、真田が漆黒の双眸を見開いた。
「……まるで、別人だ。こういう淫乱なお前もいいがな…」
くす、と笑われて、全身に火がつく。
く、と唇を噛み顔を背けようとする所にねっとりと唇を奪われ、そこからまた熱が全身に波及していく。
既に股間は堅く漲りそそり立ち、先端からとろりと透明な涙を溢れさせていた。
「俺も我慢できん。まず、お前を満足させてから、と思ったが……すまん」
上擦った掠れた声で言われると同時に、身体を乱暴に反転させられた。
四つん這いにさせられ、背後からぴったりと身体を押し当てられる。
真田の無骨な大きな右手が、手塚自身をきゅ、と捻るように扱いてきて、手塚は思わず背筋を仰け反らせた。
脳天まで、電光が突き抜ける。
「くっっ!」
喉を詰まらせて呻くと、更に自身を節くれ立った指で握られる。
ぬるり、と先端から滴り落ちる先走りが、シーツに落ちそうになるのを左手で受け止め、ねっとりとぬめった左指を、真田が手塚の後孔に押し当ててきた。
(………!)
男同士のセックスではそこを使うのは当然知ってはいたが。
さすがに羞恥で、手塚の身体は震えた。
「どうした……今更、恥ずかしがることもあるまい」
真田が含み笑いをして囁いてくる。
「ここも、俺を歓迎してくれそうだ…」
つぷ、と指が蕾に埋め込まれ、手塚は背筋をぐっと反り返らせた。
その動きに乗じて、指があっという間に埋め込まれる。
嘔吐感なのか、快感なのか分からない、形容しがたい感覚が込み上げてきた。
中でく、と指を折り曲げられると、激烈な衝撃が自身を襲った。
「うくッッ!」
呆気なく、手塚のものは真田の右手の中で弾けた。
「…早いな、手塚…」
真田の言葉が羞恥を煽り、全身が上気する。
「そんなに飢えていたのか…?意外なものだ…」
真田の大きな掌が、柔らかくなったものを握りしめてくる。
ぽたぽた、とシーツには雫が滴り落ち、染みを作る。
その濡れた右手を真田は、既に指の挿入された後孔に押し当てた。
左手の指と共に、濡れた右手の人差し指が押し込まれる。
「ふふふ……いい、感触だ…」
真田の声が、身体の下から響いてくる。
ぐいぐいと差し込まれ、指で内部を掻き回され、手塚は喉を詰まらせて呻いた。
「う、んッッ…あ、あぁ…ッ!」
今し方達したばかりだとう言うのに、即座に堅く持ち上がってきた自身から、精液と先走りのまざりあった粘液が滴る。
「なんだ、もう元気になったのか、……外見に似合わず淫乱だな、手塚」
揶揄めいた言葉に、羞恥と屈辱がない交ぜになった感情が手塚の身体を震わせる。
「もう、準備万端だな……いくぞ」
不意に指が引き抜かれたかと思うと、指などとは比べ者にならないほど大きく堅い異物が、一気に後孔に突き刺さってきた。
「………ッ!!!」
激痛が背骨を走り、手塚はシーツを千切れるほど握りしめた。
重く鈍い水音を立てて、真田の凶器が体内にめり込んでくる。
「力を抜け」
言われて首を振り、震える尻をぱし、と叩かれて息を飲む。
こんな扱いを受けるなど。
尻を叩かれるなど、……しかも、男に…。
屈辱に、一瞬にして体温が上がったような気がした。
それがまた更に手塚を追い立てる起爆剤となり、下半身がバターのようにとろけていく。
叩かれたことで肛門の締め付けが緩んだのを見逃さず、真田は一気に怒張をめり込ませた。
「ぐっっっ!」
吐き気がする。
胃が迫り上がり、喉から出てきそうだった。
異物がめりめりとめり込んできて、身体が中心から、二つに裂けていきそうだ。
それなのに、ぞくぞくと、どうしたらいいのか分からないような快感が、異物のめり込んでいる部分から手塚の脳に襲いかかってくる。
「く……うぅ……よ、せ…」
頭を振り、さらりと流れる髪をシーツに乱して、手塚は喘いだ。
真田がすっぽりと、入り込んでいる。
真田に、今、犯されている──その認識が、手塚を更に燃えさせた。
「ふふ……」
真田が低いテノールを響かせて笑う。
「いい眺めだ、手塚。お前は本当に、美しい……動くぞ」
「うぁッッ、…ぐッッ……あ、あぁッッ1」
突然激しくずっずっと抜き差しが始められ、腸が外に捲れ上がり、また押し込められる感触に、手塚は喉を枯らして喘いだ。
突っ込まれる痛みと、抜けていく喪失感と、そこが充足されるえも言われぬ快感。
腸内に何か特別に感じる部分があるらしく、そこを突かれると、手塚の身体は陸に上がった魚のように跳ねた。
脳天まで何万ボルトという電流が流れたようで、思わず唇を噛み、背中にしっとりと汗をかき、シーツを千切れるほど握りしめる。
あっという間に自分自身に血が流れ込み、重く堅く膨らんでいく。
「手塚……」
真田の声が、耳を擽り、脳を更にとろかしていく。
「あ…く…、うう…さ、なだ……ッ!」
いつの間にか、ひっきりなしに、真田の名前を呼んでいた。
全身が、ふわ、と宙に浮く。
どこまでも飛翔して、そして……。
真田が一際深く怒張をたたき込み、そこに欲望を迸らせた時、手塚も同時に二度目の欲望を浅ましく放っていたのだった。
「遅くまで失礼した。帰る事にしよう」
放心していたらしい。
ふと我に返ると、自分はベッドに仰向けに寝ており、目線を動かして声のした方をみると、真田がすっかり衣服を整えて、ベッドの自分を覗き込んでいた。
「……真田…」
重く怠い腕を上げると、その手を真田が恭しく取り、手の甲に厚い唇を押しつけてきた。
そんな事をするとは思わなかったので、手塚は微かに強張った。
羞恥が頬を微かに染める。
「身体に負担を掛けたな、すまん」
真田が黒々とした瞳を細めた。
「だが、素晴らしい時間だった。手塚…」
甲に押しつけた唇で、ねっとりと肌を濡らしていく。
「お前を理解できるのは、俺だけだ。……そうだろう、手塚…」
不遜な言葉。
だが、反論できなかった。
呆けたように目をただ見開いていると、真田がふっと笑って、身体を起こして立ち上がった。
「では、また。お前と試合ができるのを、楽しみにしている」
告げると、さっと身を翻し、手塚の方を振り返らずに部屋のドアを開けて、出て行く。
とんとん、と階段を下りる音がし、玄関の扉を開ける音が微かに聞こえて、その後はしん、と静まった。
カーテン越しの窓から、夕方の柔らかな陽射しが、ひっそりと刺しこんで来た。
「……真田……」
ぼんやりと天井を虚ろな瞳に移して、手塚は呟いた。
手の甲に、まだ真田の厚い唇の感触がした。
そっと自分の唇に当てて、手塚は瞑目した。
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