生贄
 《5》












「じゃ、俺は後ろから」
「そうか」
自分の身体の上で交わされる声を、手塚はぼんやりと聞いた。
と、不意に身体が持ち上げられ、俯せにさせられる。
「…うっ」
ズキン、と秘孔が痛んで、思わず秀麗な眉を顰めて呻く。
四つん這いにさせられ、腰を高く上げられ、そこにひたり、とまた別の熱を持った肉の器官が押し当てられたのを感じて、手塚は戦慄した。
息を飲んで肩越しに振り返ると、跡部と視線が合った。
自分の腰を掴み、まだじくじくと痛んでうずく秘孔に押し当てられた熱量。
「……よせ!」
背筋が凍った。
無意識に逃れようとしたが、遅かった。
「そういやがるなよ」
笑いの混じった声を共に、ずずっと衝撃が手塚を襲った。
「…うッッッ!」
思わず背中を反り返らせ、シーツをきつく握りしめる。
跡部は一気に入ってきた。
灼熱の楔が根元まで深く打ち込まれる。
「すげえな、手塚…」
背後から聞こえる跡部の声に、手塚は弱々しく首を振った。
「やめろ…」
絞り出した声は掠れていた。
「イイ声でなけよ」
跡部の声はどこか陶酔したようだった。
「…いくぜ?」
「は…ッ……うッッッ……ッッくッ!」
目の前に火花が散った。
跡部が激しく腰を動かし始めたのだ。
もう、耐えられない。
身体の中心から放射線状に衝撃が全身を駆けめぐる。
重く激しい痛みとも快感ともつかない衝撃。
甘く下半身がどろどろにとけていく気がした。
こんな感覚は知らない。
自分が恐ろしかった。
痛みだけではなく、快感を感じている。
───まさか。
手塚の懊悩が跡部にも伝わったのだろう、跡部がくすくすと笑った。
「いいじゃねえか、手塚、感じろよ。敏感でいい身体だぜ」
熱い粘膜が擦れ合い、どこか柔らかな部分を突かれる。
そのたびに目の前が真っ白になり、全身から汗が噴き出る。
「は、よく締まるぜ。…お前、絶品だな…」
跡部が唇を噛み締めて呻く。
「もちそうにねえ。……くそっ!」
悪態とも撮れる言葉を吐いて、腰をがっちりと抱え直し、激しく手塚を揺さぶる。
「う……くっっ……うううッッッ!」
既に手塚は何も考えら得なくなっていた。
先ほど全身を焼いていた羞恥も、悔しさも、何もかも消えていく。
脳の中が今、跡部から与えられる感覚のみに支配され、全身がとろけ、甘く痛む。
どうにかなってしまいそうに爆発寸前になる。
ただただ顔を振り、シーツに顔を埋め、手の指が白くなるほどシーツを握りしめる。
「く……!」
跡部が低く呻き、手塚の体内を貫くがごとく、深く怒張を叩きつける。
最奥でそれが爆発するのを、手塚は薄れ行く意識の中で微かに感じた。













次に意識が戻った時、既に部屋は綺麗に片づけられていた。
榊の姿もない。
跡部が一人、ソファに座って足を組み、手塚の覚醒を見守っていた。
「起きたかよ?」
ぼんやりとしたまま顔を上げる。
ずき、と下半身が疼いて自分の置かれた状況を思い出す。
はっとして身体を起こすと、全身がきしきしと痛んだ。
「う……」
秀麗な眉を顰めて呻く。
縛られていた手や足は解かれ、衣服も身につけていた。
「ほらよ」
跡部が手塚に眼鏡を差しだしてきた。
眉を寄せ、跡部を呆然とした虚ろな瞳で見つめたままで眼鏡を受け取り、それをかけるとはっきりとした視界が戻ってきた。
「書類は確かに監督に渡したからな?」
跡部がしれっとした雰囲気で言う。
「じゃあ気を付けて帰れよ?」
呆然とした手塚の目線を背に、跡部はその部屋を出て行った。
頭が混乱した。
何もなかったように振る舞う跡部。
まるで本当に書類だけ受け取ったかのようだ。
手塚は何度も深呼吸した。
そろそろとベッドを降り、部屋を出る。
歩くたびに下半身が痛んだ。
信じられなかった。
自分の身に起きたことが現実とは思えなかった。
額に手を当て、蹌踉めきながら歩く。
他の部の生徒だろうか、青学の制服を着た手塚に一礼をして数人がすれ違っていく。
手塚は下を向いて唇を噛んだ。
視界がぼやけた。
涙が眼鏡にぽたっと落ち、更に視界がぼやける。
泣き出しそうだった。
唇を噛み締めたまま、俯いて手塚はふらふらと歩いた。













「ああいう姿もそそるな……」
氷帝学園を出て行く手塚の後ろ姿を、窓から眺めて榊が呟いた。
「そうですね、いかにも傷つきました、という感じがたまりませんね」
榊の背後から跡部も小さくなっていく手塚の背中を眺める。
「きっと悪夢だとか思って忘れようとするんだろうな、彼は」
「まぁ、そうでしょう。俺たちにも今まで通り接してくるでしょうね。ま、監督はそういう手塚をまた犯すのがいいんでしょうが」
「ふん、なんだ。お前もだろう?」
「まぁ、そうですが…」
跡部がくすっと笑った。
「彼が今回のことを忘れかけた頃にでも、また氷帝に呼ぶか」
「手塚のことだから、部長として呼ばれたら来ざるを得ませんね」
「そうだな、いやだとか言えば、来なくてすむものを、彼はそうは言えないだろうな」
「じゃ、監督、今度は俺を最初にしてくださいよ?」
「ま、いいだろう。…今回はお前のお陰で思いがけない素敵な時間を過ごさせて貰ったからな」
「お互い様ってことで」
手塚の姿が見えなくなっても、二人は彼が消えていった方向を眺めながら楽しそうに笑い合った。