枕から頭を上げ、灰翠の目を張り裂けんばかりに見開いて顎を仰け反らせ、下半身の衝撃に耐える。
ずうんと、身体の中心を二つに裂かれるような、痛みとも快感ともつかぬ衝撃が襲ってきた。
背後から山本の激しい息づかいが聞こえる。
自分の尻を痛いほど掴まれ、シーツが皺になるほど引き上げられて、その分内部へと異物が深く侵入してくる。
腰全体の重い痛みと、内臓を押し上げられる吐き気と、鋭い錐で突き刺されるような痛み。
獄寺は初めてそこで後悔した。
───一体なんでこんな事をやってるんだ。
なんで山本はオレに突っ込んでんだ。
オレの事、……そうだ、山本はオレの事、好きだって言ったんだ。
じゃあ、オレはどうして山本にこんな事やらせてんだ。
山本の事好きだからか?
いや、山本の事なんか好きでもなんでもない。
(じゃあ、どうしてだ………?)
「動くぜっ」
低い声がして、次の瞬間、視界ががくがくと揺れた。
喉元から胃の内容物が出てきそうなぐらい内臓が揺さぶられ、下腹部に熱く堅い異物がめりこんできては抜ける感触が、リアルに感じられる。
時折どこか鋭く感じる部分に当たるらしく、全身が震える。
「─ア、ッ…あ、アッッ……く、ッん…─く、そッッ…!」
必死に食いしばった唇から喘ぎが漏れる。
堅く目を閉じて、頭を枕に押しつけて堪えようとしても、揺さぶられるたびに、鋭い痛みとともに甘く表現しがたい快感が脳髄を侵し、とろかしてくる。
「ぁ…っ、ぁッッ……く、ッッッッ……て、めッッッ…!」
気持ちいいのが癪だった。
痛みより、全身を蕩かすような快感が自分を酩酊させてくるのが、自分が果てしなく負けを認めたようで、いやだった。
しかし、身体は意志の言う事を聞かず、獄寺自身は再度堅く勃ち上がって、先端からしとどに蜜を垂らしている。
そこも山本の骨張った手で擦られて、獄寺はもはや勝ち負けの問題ではなくなっていた。
山本から与えられる快感の虜となって、山本の動きに合わせて腰を振る。
自分の快楽を貪り、動物のように激しく息をする。
「……………く、ッッッッ!!」
不意に絶頂が来た。
背後から激しく抉られて、固く閉じた目の前が真っ赤になった。
一瞬ふわっと身体が宙に浮いたかのように感覚がなくなり、全身が解放感に包まれる。
ほぼ同時に山本もイったらしく、急に背中に重みがかかった。
ベッドには、獄寺が放った精液が、特有の匂いを立ち上らせていた。
(くそ……なんで、こんな事に…)
情事の後は、ひたすら気怠い。
獄寺はベッドに仰向けになって身体の力をぐったりと抜いて弛緩させ、ベッドに沈み込んでいた。
すぐ隣では同じようにのんびりとした様子で、全裸の山本が肘をシーツにつき、獄寺の顔を覗き込んでいる。
既に山本自身は体内から抜き取られ、ゴムもつけずに性交した後孔にはティッシュが押し当てられていて、下半身がなんだか自分のものでないかのように甘く重く不思議な感じがした。
シーツに飛び散った獄寺の精液も綺麗に山本が拭き取ったらしく、少し冷たく染みにはなっているものの、さほど気になるほどではない。
(……あとでシーツ洗わねぇとだめだな…)
精液がついたままのベッドに寝る気にもなれない。
獄寺はシーツを取り替える面倒さを思うと溜息が出た。
独り暮らしは何かとこまごました仕事がある。
「あ、シーツやっぱ気持ち悪いか?俺が取り替えて洗濯しておいてやるよ」
獄寺が染みのある部分にあたった肌を捩って眉を寄せたのが分かったのか、すかさず山本がフォローに入る。
「身体も拭いてやるぜ。…でも、今はもう少しこうしていたいな…」
「はぁ?余韻に浸るような関係じゃねぇだろ…」
「まぁそう言わずにさ……すげぇ気持ちよかったから、まだ離れるのが勿体なくてなー」
「キモイ事言ってんじゃねぇ…」
とは言うものの、実際は獄寺ももう少しこのままセックスの余韻に浸っていたかった。
随分と久し振りだからだろうか。
それとも男相手は初めてで目新しい体験だったからだろうか。
それにしても。
(相手が山本とはなぁ……)
しかも、初体験のわりには結構いい感じでできてしまった。
痛みよりも快感の方が多かったし、終わったあとは後孔がじんじん痺れるように痛むが、不快ではない。
それより、身体中が解放されてすっきりした得も言われぬ充足感がある。
獄寺はそんなふうに感じる自分にも戸惑って、乱れた銀髪を払い除けながら、うっすらと浮かんだ額の汗を拭った。
「獄寺………好きだぜ…」
山本がにっと笑いながら、低い声で囁いてきた。
「………それは返事が欲しいってやつかよ?」
「いや、返事はいらないよ。お前の返事は分かってるし…」
微かに肩を竦め苦笑する。
「オレが言いたいから行ってるだけだしな。……言うぐらいいいだろ?それからさ…」
山本の顔が近づいてきて、汗で湿った頬に軽く唇が押し当てられる。
ふんわりとした感触が心地良くて、獄寺は顔を逸らさずにそれを受けた。
「こうして、たまにオレと寝てくれると嬉しいんだけど…」
「………」
「…いいだろ?獄寺だってたまるだろうし。…オレのこと、性欲処理って思ってくれていいからさ」
「随分と殊勝な心がけだな…。お前、この事は10代目には内緒だぜ?」
「勿論だ。ツナにこんな事言ったら、ツナ卒倒しちゃうって」
山本がくすっと笑った。
「ぜってぇ10代目には言わねぇって誓うんなら、まぁ、相手してやってもかまわねぇがよ…」
と、妥協したのは、実のところ獄寺自身、山本とセックスしてみて予想外に気持ちよかったからだ。
日本に来てから他人と交渉を持たず、欲求不満になっていたのかもしれない。
10代目に触れるとか、そんな大それた事は到底叶わないが、山本が秘密厳守で、というのなら、少し気晴らしをしてもいいか、という気持ちになっていた。
「え、いいのか?獄寺、サンキュっ!」
獄寺の返事に山本がぱっと顔を輝かせた。
そのまま顔を近づけて、キスしてこようとするので、ふざけんな、と一喝しようかとも思ったが、なんとなく山本の嬉しそうな顔に負けて、獄寺は唇へのキスを許してしまった。
山本が、獄寺に軽く触れて、柔らかく唇を押し当てて、そっと離れる。
「なんか、夢みたいだなぁ…」
「おい、いい気になるなよ?今だけだからなっ…」
眉間に皺を刻んでぎりっと山本を睨むと、山本がその眉間の皺にもキスを落としてきた。
「まぁ、今だけでも嬉しいからなー…有難うなっ、獄寺」
(…そんな爽やかに礼を言われてもな……)
どうにも調子が狂う。
渋面を作ったまま、獄寺はなぜこういう事になってしまったのか、という根元的な問題に立ち返ろうとして、肩を竦めて考えるのを辞めた。
山本相手に真面目に考えてもしかたがない。
なるようになれ、だ。
「獄寺…可愛いな…」
勝手に言ってろ、と思いながら、山本の腕の中で獄寺はいつしかうとうとと眠っていた。
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