◇thanatos   







誰でも良かった。
ふと顔を上げたとき、後ろ姿が目に入った。
外は激しい雨で、夜中の突然の驟雨に窓枠がびりびりと振動し、雨音が硝子を激しく叩いていた。
ソイツは大した用事でもない、定期報告をしにきただけだった。
確か、スクアーロの部下だったか…。
カス鮫が任務に行っていていねぇから、代わりに来たんだろう。
別に誰でも良かった。
雨が窓を叩いていて、その原始の太鼓のような音が、オレを興奮させていた。
夜中で、疲労も溜まっていた。
疲労はそのまま性欲に繋がる。
「こっちに来い…」
声の調子でオレの言わんとするところが判ったんだろう。
ソイツは青い目を見開いて息を飲んだ。
それからふらふらと操り人形のようにオレの前まで来る。
組んでいた足を解し、ソファを回してオレは立ち上がった。
ソイツを舐めるように眺めて薄く笑えば、ソイツはびくっと身体を震わせた。
……イイ感じだ。
すぐにオレの身体もぞくりとしてくる。
ベルトのバックルを外して中からソイツのものを取り出すと、ソコは既に勃起しやがってそそり立っていた。
思わず、唾を飲み込んだ。
堅くて美味そうだ。
すぐにでも───ナカに欲しくなる。
下半身が疼いて、ずきんと快感が背骨を駆け抜けた。
銜えて一気に喉奧まで飲み込み、上目遣いに相手の顔を睨め付けながら舐めると、ソイツは情けねぇ声を上げ、瞳を固く閉じた。
カス鮫の部下の中でも精鋭のやつで、青い目に金色の髪、落ち着いた風貌のやつだったが。
情けねぇ声も悪くなかった。
一舐めして口を拭うと、オレはソイツの目をじっと見つめながら薄く笑いを浮かべたまま、ゆっくりと見せつけるようにベルトを外した。
ブーツを足から無造作に脱ぎ、ボトムを下着ごと降ろし、床の上に脱ぎ捨てる。
それからソファに座り、足を大きく広げ、机の引き出しからローションを取り出してピンク色の液体を掌に垂らし、その指を尻の孔へ突っ込んで見せた。
グチュグチュ、とわざと湿った音を上げて、尻の孔の中まで見えるようにソイツの前で限界まで脚を広げてやる。
ソイツはむしゃぶりつくようにオレに覆い被さってきた。
ハッ……そう来ねぇとな。
「…ウッッッ!」
太く熱い、堅い塊が押し入ってくる。
ぐっと内臓を押し上げて、オレの中を蹂躙してくる。
───いい、感じだ。
たまらねぇ。
もっと、深くまで……来い。
「ザンザス様っ……っく…ッッ!」
あんまり声あげんじゃねぇ。
興ざめだ。
まぁ、動きがいいから大目に見てやる。
褒め言葉の代わりに、オレはソイツの首筋に唇を押しつけて吸い付いてやった。
「はっ、あ…ッッッ、ザ、ンザス、様ッッッ!」
感極まったような声を上げて、ソイツが更に激しく動き始める。
嗚呼、たまらねぇ……もっと──。
もっと、オレを揺さぶれ。
……オレを壊せ。
何も考える隙間がねぇほどに。
……オレを壊してみやがれ。
目の前に閃光が散る。
迫り上がってくる快楽に、身体全体が火照り、下半身がどろどろに溶けていく。
「く、……ッッう、ぁッッッッ!」
一瞬のブラックアウト。
それは───…オレを一瞬でも、現世から遠ざけてくれる、麻薬。
一瞬だけでもいい。オレを。
オレを、壊してしまえ。
オレを───殺せ。







「う゛お゛ぉい、何やってんだぁ!」
折角忘我の境地に浸っていたのに、一気に現実が戻ってきた。
霞む目を向けると、銀色の髪が室内照明にうぜぇぐらいに光ってやがった。
「も、申し訳ありません!」
あっと言う間にオレの中から抜けだして、ソイツは下半身剥き出しの情けねぇ格好のまま部屋から走り出ていってしまった。
クソ。…もう少し、浸っていたかったのに。このカス鮫が。
「う゛お゛ぉい、ボスさん……アンタ、オレの部下にまで手ぇ出すなぁ…」
呆れかえったような、どこか悲しげな声。
目を瞬いてカスを見ると、カス鮫は俯いて拳を握っていた。
「そりゃ悪かったな…」
別に悪いとか全く思ってねぇが。
言葉とは裏腹に鼻で笑って見せる。
カス鮫の傷ついたような様子が笑わせやがる。
「じゃあ、テメェが続き、やるか?」
足を広げて誘ってみると、カス鮫はふらふらとオレに近づいてきた。
さっきカス鮫の部下が射精したと同時にオレもイっていたから、オレの尻や腹は精液で白くべとべとになっていた。
それを見るカス鮫の目は、悲しいのか興奮してるのか、よく判らねぇ色をしていた。
銀白色に光った目で一点を見据え、物も言わずにベルトを外してオレにのし掛かってくる。
「……ッぁ…ッッ!!」
カス鮫のモノも悪くねぇ。
悪くねぇどころか、実のところかなり気に入っている。
ずぶっと一気に奧まで突かれて、オレは気持ち良さに顎を仰け反らせた。
首筋の傷跡にカスが吸い付いてくる。
強く吸われ、腰を突き入れられ、揺さぶられる。
さっきまで燃え盛っていた情欲の火がいとも簡単に再び燃え広がり、全身を侵していく。
「ボス…ッッ、ボスッッ!」
カス鮫の声と、激しい息づかい。
執拗なキス。
首筋から顎に掛けてぬるぬるに吸われ、腰をぐりっと回して突き入れられる。
何もかも、忘れる。この瞬間。
もっと……もっと、来い。
「カ、スッッ……!」
「ボスっ、愛して…ぅッ」
カス鮫がろくでもねぇ事を言いそうになったから、オレはヤツの唇を塞いだ。
ンな台詞は聞きたくねぇんだ、スクアーロ。
興冷めしちまうじゃねぇか。
唇を吸って舌を絡め合わせ強く吸えば、カスは口の中で呻いて、更に腰を突き入れてきた。
そうだ。それでいい。
陳腐な台詞なんざ、吐くんじゃねぇ。
テメェは、黙って腰を振ってりゃいいんだよ。





誰でも、いいんだ。
別に。
オレを一瞬、忘れさせてくれるなら。
オレを一瞬でも殺してくれるなら。





深い酩酊と、浮遊感。
脳裏に浮かぶ閃光。
全身が震え、オレは悦楽の虜になる。
身体全部がペニスになって、精液を噴出し、身体全てが尻の孔になって、他人のものを受け入れる。
オレは一個の人格から、ただの本能に任せた動物に成り下がる。
嗚呼、もっと、……犯せ。
犯して、オレを壊せ。



───誰でも、構わねぇから。



永遠に、壊してくれるなら、テメェの陳腐な台詞も、聞いてやる…。









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