◇heartthrob  3  







「………」
「ちゃんと用意もしてあるんだぜ?」
突然ベッドから降りて、山本が自分のバッグの中をごそごそとあさって、そこから薄いピンク色をしたボトル状の液体を取り出したので、獄寺は快感に霞む目を凝らした。
「ローション。獄寺とこういう事できる時のためにって用意しておいたんだよな」
「………やまもと…」
さすがに唖然として言うと、山本が更ににっこりと笑い掛けてきた。
「て、めぇ……果てろ!」
「まーそう言わずにさ……獄寺、大好きだぜ…」
大好き、といわれて胸がきゅん、となった。
考えてみたらこの数週間というもの、山本の事で苛立ったりがっかりしたり、山本が原因で感情が揺れ動いていた。
それというもの、山本の方から自分に好きだ、と言ってきておきながら、自分をほおっておいたからだ。
勝手に好き、とか言ってきて、気になり始めた自分を放置して……
もしかして、それが山本の作戦だったのだろうか。
放置すれば、自分が山本に靡くだろう、と。
(…なんてそこまで頭の回るヤツじゃねぇか…)
「もっと、言えよ」
「なんだ、可愛いなぁ、獄寺。……大好きだ…獄寺の事、全部オレのモノにしちまいたいぜ…」
「じゃぁ、しろよ…」
嬉しくなって、ちょっと甘えた声を出してしまった。
山本が眉尻を下げて笑う。
「すげぇ、可愛い。…じゃ、獄寺は俺のモノ、な?脚、もっと開いてくれよ」
そろそろと脚を開いていく。
山本にじっと中心を見られて、かぁっと頬が熱くなる。
先程舐められて吸われたから、もう、羞恥心などなくなっているはずなのに、それでもやはり恥ずかしかった。
「お前も脱げって…」
山本がまだ服を着たままだったのに気付いて、獄寺は拗ねた。
足先で山本のシャツを引っ張る。
山本が苦笑して、獄寺の銀髪をくしゃっと撫でると、立ち上がって無造作に服を脱ぎ始めた。
野球バカ、というぐらいの、筋肉の綺麗についた均整の取れた裸が獄寺の目に飛び込んできた。
逆三角形の引き締まった上体に、いかにも筋肉でできていそうな締まった尻、太く堅そうな太腿──と眺めて山本の下半身に目が止まり、獄寺は灰翠色の瞳を思わず逸らせた。
頬が紅潮して、心臓がばくばくする。
下半身を惜しげもなく晒して、山本が自分に近づいてくる。
その中心のペニスが、山本の腹につくほどに反り返って存在を主張しているのを横目でちら、と眺めては獄寺は忙しなく瞬きをし、自分が興奮しているのを悟られまいとした。
あれが、自分の中に──。
考えただけで、頬が火照る。
胸がドキンドキンと高鳴って、全身が熱くなる。
(おい、何考えてるんだよ、まるでこれじゃ初体験でもするオンナみてぇじゃねぇか…)
と思ったが実際そうなのだからしかたがない。
本当に───胸が高鳴って、全身が震えて、ドキドキして、恥ずかしかった。
それとともに、身体が熱くなって、見られてぞくぞくして、反対に山本を見て、身体の芯がずきんと疼いた。
さっき達したばかりだというのに、また自分のペニスに血がどっと集まっていく。
ギシ、とベッドを軋ませて、山本が獄寺の脚の方へと上がってきた。
両膝に手を掛けられてぐっと脚を割り開かれ、羞恥に一気に体温があがる。
「…随分、うぶな反応するのな、…獄寺」
「テメェー…恥ずかしい事、言うんじゃねぇ」
とはいうものの、確かにそうだ。
恥ずかしくて、山本の事がまともに見られない。
顔を背け、仰向けになって獄寺は両手で顔を隠した。
膝裏を掴まれぐっとあげられて、股間が尻の方まで余さず山本の眼前に晒される。
「……綺麗なのな…」
山本の感嘆するような声が聞こえてきて、獄寺は更に羞恥で全身が震えた。
恥ずかしいのが、嬉しかった。
もっと、山本に見てもらいたい。
触って貰いたい。
ローションを垂らしたのだろう、濡れた指が獄寺の後孔に触れてきた。
「──ぁ、ッッッ!」
触れられた途端、稲妻のように衝撃が背筋を駆け上って脳髄まで達し、獄寺は背中を反り返らせて呻いた。
呻いたところに間髪を入れずに指がぐっと押し入ってきた。
「…やまもとッッッ!」
そんな所、誰にも見せた事もなかったし、まして指が入ってくるなど……一度だってない。
異物が外から入ってくる感触は、不思議なものだった。
焦れったくて、むずむずして、もっと中に入ってきてもらいたいような、思わず尻が動いて強請ってしまうような、そんな感触だった。
その通りに尻を動かしてしまうと、山本がくすっと笑う気配がした。
「獄寺のここ、生き物みたいだ。……すっげぇ可愛い…見てたら興奮して、オレも我慢できないかも」
上擦った、情欲を堪えた声だ。
聞いていると、獄寺は自分も堪えきれなくなってきた。
早く、欲しい。
疼いている部分に、もっと太く堅いものが。
──山本自身が。
指がさらにぐっと入ってきて、内部を掻き回してきた。
ローションで濡れているせいか、スムーズな挿入に全く痛みはなかった。
指が更に増やされても痛くなかった。
それよりももっと、という疼きの方が大きくなった。
「─…く、ぁッッッ…あ、あっ…や、まもとッッ!」
山本の指がどこか感じる部分を突いたらしい。
びくん、と身体が痙攣して、堪えきれず獄寺は顔を覆っていた手を離してシーツを掴んだ。
眉根を寄せぎゅっと堅く目を閉じて快感に耐える。
指ではとても足りない。
もっと深く激しい衝撃が欲しい。
涙で潤んだ眸を開けて、山本を眺め、欲しい、というように震える手を伸ばして山本の頬を撫でると、山本が男らしい眉を寄せて微かに笑った。
「…獄寺って天使みたいに可愛いのな…」
「ば、バカ言ってんじゃねぇ……つうか…来いよ…」
掠れた声を漸く振り絞り、脚を更に大きく広げて山本を誘う。
山本がごくっと唾を飲み込んで、真剣な顔になった。
「そんな事言われると、我慢できねぇぜ…」
「あぁ、いい。……早く、こい」
急に指が引き抜かれて、ほんの一瞬の喪失感のあと、ぐいっと脚が掴まれ、山本の肩に担ぎ上げられる。
指が抜けたアナルに、熱く堅い肉棒がぐっと押しつけられた。
熱さに眩暈がした。
はぁはぁと息を吐き、目許を赤くし、灰翠色の瞳で山本の目を見る。
山本が微笑んだ。
「大好きだ…」
「──ッッッッ!!!」
山本は一気に侵入してきた。
指で馴らされ解されたとはいえ、指とは比べものにならない太さと堅さの怒張が、獄寺の柔らかい襞を限界まで押し広げて体内へめり込んでくる。
鋭い痛みが脳天まで突き刺さり、獄寺は無意識に身体をずり上がらせて逃れようとした。
そこを強く抱き締められ、更に山本が内部を穿ってくる。
体内深く熱いペニスが突き入れられ、内臓が迫り上がって肺を圧迫するような気がした。
「あ、あっあっ、や、まもとッッッ!!」
──表現しようのない激情が襲ってくる。
気持ちが良くてどうにかなってしまいそうだ
痛いはずなのに、その痛みが快感にすり替わって、獄寺の全身を支配する。
入ってきた山本に合わせて腰を振ると、山本がくすっと笑い、獄寺をきつく抱きしめてきた。
「獄寺、好きだ」
「あ、あぁっ、オレもだぜっっ、も、っと来いよっ!」
焦れったくてたまらない。
下半身がぐずぐずに蕩けて、そこを山本に掻き回されて、脳が沸騰する。
大きく脚を広げて山本を強請り、痛みと快感がないまぜになった激烈な悦楽に獄寺は腰を浮かせ、激しく頭を振って、山本を歓迎した。
繋がった部分が熱い。
熱くて火傷しそうだ。
内部に入り込んだ山本が中を縦横無尽に掻き回してくる。
掻き回されて自分が作り替えられるような気がする
山本の好みに。
山本にぴったり合うように。
「あ、あぁぁ、んっ、…やまっ、もとっっ……す、きだッッッ!」
自分の部屋だから、遠慮為しに声を上げ、獄寺は山本にしがみついた。
首筋に顔を埋め、山本の爽やかな男らしい匂いを鼻孔一杯に吸い込めばくらりと眩暈がした。
「あ、ッはっ…はっ、く、…も、もうッッ!」
山本の左手が獄寺のペニスを握ってきた。
後から刺激されて再び勃起し堅くなっていたそれを掴まれ獄寺は顎を仰け反らせて呻いた。
気持ちが良くて、どうにかなりそうだ。
痛いはずなのに、それさえも底なしの快楽に自分を引きずり込んでいく。
山本がもっと欲しくて、身体の奧で感じたくて、たまらない。
足を大きく開き山本の腰に絡みつけて、腰を振って強請ると、山本が応えて激しく抽送を強めた。
脳内にぱっぱっと閃光が走り、爆発が起きる。
身体が宙に浮いたようにふわっと酩酊し、意識がふっと遠くなる。
身体全体が性器になってしまったようで、山本と繋がっている部分の刺激が全身を凌駕する。
「あ──あ、あぁぁぁぁぁッッ!!! 」
前立腺を抉られて、目の前に花火が散った。
勢い良くペニスから白濁を迸らせながらアナルをきゅうっと締めあげると、山本が低く呻いて腸内でびくびくと脈打つ。
山本の熱い愛情の迸りを、獄寺は薄れいく意識の中で感じ取っていた。









「あれ、今日は仲直りしたの、二人とも?」
次の日、山本と話している所にツナがやってきた。
「えっ、別に喧嘩とかしてないっすよ、10代目」
「へー、そう?まぁ、いいけどさ…」
意味ありげににやにやされて、獄寺はかぁっと頬を赤らめた。
自分たちの関係をツナに悟られたようで、恥ずかしくてたまらなくなる。
「お、ツナ分かるのか?実はオレたちさー」
「テメェっっ、何言いやがるっ!」
山本がへらっと口を滑らせそうになったので、獄寺は慌てて山本の口を塞いだ。
「うわっ、ここ教室だしっ… 獄寺君も山本も、ほんと進んでるだからー」
「進んでるってなにもないっすよ!」
「嘘吐かないこと、獄寺君……キスマークついてるよ?」
しれっとツナに言われて、獄寺ははっとして首筋を隠した。
「あははっうそっ!でも獄寺君、身に覚えあるんだね?」
「って、10代目っっ!!」
ツナにからかわれたことを知って獄寺は真っ赤になった。
「ツナ、獄寺のことあんまりからかうなよ、こう見えて純情で可愛いんだからさー」
「あ、惚気てるー。ぇ、もう、ラブラブなんだからぁ」
「ラブラブって、10代目っ、誤解っすよ誤解!」
「もういいよっ、でも学校では控えてね、山本」
「あーそうだな…学校じゃ我慢すっか…。可愛くてたまらねぇから難しいけどなー」
「確かに獄寺君が可愛いってのは当たってるけどね」
「お、ツナもそう思うか?でも獄寺はオレのもんだからな」
「アハハ、別に山本から獄寺君取ろうとか思わないから大丈夫。獄寺君だって山本ラブラブじゃん?」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、ツナっ、実はオレもそう思うんだよなー」
「か、勝手な事言ってじゃねぇ!」
などと顔を赤くしていってはみたが、全く説得力がなかった。
山本によしよしと頭を撫でられ、獄寺は更に顔を赤くして俯いてしまったのだった。







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