「あらボス、どうかしたかしら?」
ザンザスが難しい顔をしているに気付いて、ルッスーリアが困惑して首を傾げた。
ザンザスの重厚な執務机の上には、いくつか新隊服のデザインが仮縫いされて置かれていた。
それはルッスーリアが幹部の意見を入れてデザイナーに依頼しデザインさせたもののうち、ルッスーリアのお眼鏡に適った数着である。
「お気に召しません?」
ザンザスの眉が寄せられているのに気づき、ルッスーリアは恐る恐る問い掛けた。
「……いや、悪くねぇが…」
どれも皆洗練されたデザインだった。
機能重視で動きやすく、前回の隊服についていた首回りのファーはなくなっているが、デザイン的には短い上着にシンプルなボトムで如何にも戦闘向きである。
色は黒以外に白も入れ、軽快な感じになっている。
「どこか直します?」
ルッスーリアの問い掛けに、ザンザスは暫く思案してから、さり気なく切り出した。
「そうだな…首は…ふわふわしてんのが、いい…」
「あらボス、前の隊服がお好みでした?あれ、全然ボスが着ないから、お気に召さないのかと思ってたわ」
「…まぁ、気に入らなくはないが、…腰がな…」
「腰…?」
ザンザスはゆっくりと顎に手を掛けた。
「腰回りが寂しい気がした。ここにあるのも同じだな。……昔の服のように、コートが長いといい」
「ま、そうなの、ボス?じゃあ、昔の隊服みたいに長くしてベルトで締める形がいいのかしら?」
「あぁ」
ザンザスは重々しく頷いた。
「首はふわふわ……なのねぇ…」
「…あとは、リング争奪戦の時の、レヴィ戦の時みてぇに雨が降っている場合だ…」
「え、雨?」
「…頭に被るヤツだ」
「あぁ、フードね。ごめんなさい、ボス、私、レヴィが闘った時にはいなかったから分からなかったわ。…で、ボスはフード付きがお好き?ちょっと機能性に欠けるけど…」
「あぁ、そのフードだ。それにふわふわしてんのがいい」
「そ、そうなの……フードにファーが付いてる形ね。じゃあ、ちょっと待っててくださる?ボスの意見入れて直してみますから」
「見本が出来たらカスザメに着せて寄越せ」
「え……はいはい、分かりました。スクちゃんね。了解よん」
ルッスーリアがくすっと笑ったのは分かったが、ザンザスは敢えて見ないふりをした。、
「う゛お゛おぃ、ボスさん、どうだぁ?新しい隊服だぜぇ!」
翌日。
デザインを直して仮縫いされた新隊服を着込んで、スクアーロがどかどかと執務室に入ってきた。
「結構派手だなぁ!オレぁこういうの好きだけどよぉ、フードつきだと髪がちっとばらけるがなぁ!」
「フード被ってみろ」
「お、おお!」
長い銀髪を隊服の前に持ってきて、スクアーロはフードを被った。
ふわふわのファーが白く小さな顔の周りを覆い、そこから煌めく銀色の髪が流れ落ちる様に、ザンザスは深紅の瞳をゆっくりと細めた。
「おい、ズボン脱げ」
「ああ?……なんだぁ?」
「煩え。脱げ。靴も全部だ」
「おお…」
戸惑いながらスクアーロが新隊服のズボンを脱ぐ。
ブーツも脱いで生足になると戸惑いながらザンザスを見上げた。
「こうかぁ?」
裸足に白く引き締まった生足が、コートの裾から盛り零れるように眩い。
「こっちにこい…」
「…おお」
大股に近づいてくるスクアーロは、フードを被り、ふわふわのファーと銀の髪を揺らし、ベルトで締めて広がったコートをスカートのように翻し、眩い白い生足をきわどいところまで惜しげもなく晒している。
(…………)
可愛い。
はっきり言って、たまらなく可愛い格好だ。
レヴィ戦の時に、合羽を着ているスクアーロを見て、コイツの頭にこういうのを被せたいと思っていた。
昔の隊服のロングコートがベルトできちんと閉められてひらひらしている所が良かった。更に言うと、その下から細い足が覗く様が素晴らしかった。
前の隊服のふわふわのファーはスクアーロに似合っていて、そこは気に入っていた。
(やっぱり、隊服はこうじゃねぇとな…)
漸く自分の思うとおりの隊服になったと、ザンザスは満足げに唇を綻ばせたのだった。
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