◇お正月 2   








「つっくん、あけましておめでとう!」
元旦。快晴。
すがすがしい新年の朝だ。
元気の良い奈々の声に起こされて、綱吉は寝不足の目をごしごしと擦った。
昨日は自室に戻ってから気分直しに自室のテレビで「ガキ使」を見て、それでもまだ寝る気分になれなかったからゲームをしていたら、夜が明けてしまった。
夜明けにうとうとしただけだったので、眠い。
「おはよー、ツナ!初詣、行くのなー!」
玄関で元気の良い声がした。
「あー、山本、もう来たんだ…」
目を擦りながらパジャマのまま階段を降りる。
「おー…あけましておめでとう!」
「う゛お゛おぃ、ヤマモトぉ!アケマシテオメデトー!」
突如背後から大声が聞こえて綱吉はぎょっとした。
「お、スクアーロっ!」
山本がぱっと顔を輝かす。
「スクアーロ、あけましておめでとうなのなー!」
「山本、似合ってんぞぉ!」
山本は羽織袴を着ていた。
渋い紺地の袴が山本の雰囲気を更に男っぽくしている。
「スクアーロも格好いいのなー!」
山本の声にはっとして、綱吉は振り返った。
スクアーロは長い銀髪を後ろでひとくくりにして、男物の黒い着物を着ていた。
「ナナに着せてもらったんだぜぇ…似合うかぁ?」
「あー似合う似合う!すっげぇ似合うのなっ!」
(ナナって……もう呼び捨てですかー!)
「おー、ザンザスも格好いいのなー!」
(えぇー、ザンザスもー!)
なんとザンザスも着流しのように少しはだけて着物を着ているではないか。
「お父さんの着物がねー何枚かあったからどう?って言ってみたのよ。似合うわね。お父さんそっくり」
(って、お父さんとザンザスって仲悪かったよね……お父さんのとか着せて怒らないのかな)
と、綱吉はひやひやしたが、ザンザスは機嫌良さそうにスクアーロと連れ立って玄関に歩いていく。
「ほら、ツナ、早く用意しろって」
「あ、うん、ちょっと待ってて」
「つっくん起きるの遅いから、着物きせらんなかったわね」
「いらないってば!」
(着物なんか着た日にはこの人達と仲間だと思われちゃうから!)
ツナは勢い良く頭を振って部屋に戻った。










綱吉はいつも通りの格好をして、一人だけ洋装、あとの3人は和装という出で立ちで、恐る恐る家を出発する。
近所の並盛神社へと足を運ぶと、そこには善男善女が大勢参拝に来ていた。
「わー、綺麗な外人さん。着物似合ってるわね」
「ホント、俳優さんみたい……」
スクアーロとザンザスを見て、周囲の日本人がざわざわとする。
(目立ってるー……離れて行こう…)
にこにこして傍についている山本からも離れて、一人ひっそりと後からついていく。
「う゛お゛おぃ、お神籤引くぜぇ!」
初詣と言ってもスクアーロやザンザスは参拝はしない。
山本と綱吉が参拝している間に、二人は御札売り場の方へと行っていた。
腕組みをして御札を見つめている鋭い深紅の瞳をした頬に傷のある外人と、銀蒼の瞳を輝かせてお神籤を見ている長い銀髪の外人。
それを取り巻く周りの参拝客。
(一緒だと思われるとやだなー目立つー)
「う゛お゛おぃ、ツナヨシぃ、早く来い!」
しかし思いきり名前を呼ばれて、綱吉はがっくりして項垂れて二人の元へと近づいた。
「オミクジ買うぜぇ!金払ってくれぇ!」
「ええ、また!?」
「日本円持ってねぇからよぉ!あとでユーロ払いするからいいだろぉ!」
ユーロとか持っててもしょうがないし……とは思ったがスクアーロに逆らえるはずがない。
しぶしぶもらったお年玉の中からコインをスクアーロに渡す。
スクアーロがコインを入れて、お神籤を取りだした。
「ボスさん、こうやってコイン入れてオミクジ出して、広げて中を見るんだぁ…」
「煩ぇな、それぐれぇ分かる…」
と言いつつ満更でも無さそうにザンザスが引いたお神籤を広げる。
そこには『中吉 油断すれば災い起こる 色に溺れず不義をするな』と書かれていた。
続いてスクアーロと山本も広げた。
山本のには『大吉 目上の人の思いがけない引き立てで心のままにととのい仲良く暮らせる』
スクアーロのには『吉 時がくれば思うままになる。特に男女の間をつつしめ』とあった。
「う゛お゛おぃ、悪くねぇだろぉ、これは」
スクアーロが自分で引いたお神籤の紙をひらひらさせながら山本に問い掛ける。
「そうだな、吉はまぁまぁって所だな」
「つうかよぉ、つつしめってなんだぁ!」
「あー、大丈夫」
山本がにかっと笑った。
「これは男女の間をって書いてあるから。スクアーロの場合男同士だろ?」
「おお、そうかぁ!良かったぜぇ」
そういう事大声で言わないで欲しいんだけど……と綱吉は周囲を見回して俯いた。
そんな綱吉に委細構わず、スクアーロがザンザスのお神籤を覗き込む。
「ボスさんのは地味だなぁ。でも色に溺れず不義をするなだとぉ?」
「してねぇ」
「色に溺れたら駄目なのかぁ…?」
「そう残念そうな顔すんなってスクアーロ。色はともかく、ザンザスは不義とかしてねーだろ?」
「ボスっ、不義してねぇよなぁ!」
「……今のところテメェしか相手はいねぇ」
「そうなら良かったぞぉ!!」
スクアーロがにこっとしてザンザスに抱き付き、ザンザスの唇にぶちゅっとキスをした。
途端に周囲からわぁっと歓声が起こる。
(あーこれだから……)
一般人の自分にはとても居たたまれない雰囲気だ。
「オレのは目上の人の引き立てで良くなるだってよ。スクアーロの事かなー」
まるっきり周囲の事など気にしていない山本が、二人を見ながらにこにこした。
「ツナはどうだった?」
「え?う、うん…」
綱吉は自分が引いてまだ広げていなかったお神籤を開いてみた。
そこには『末吉 身を慎んでいないとすることなすこと災いの種となる 色と酒に溺れるな』とあった。
「えー……」
(まぁ、どうせオレなんて、末吉がちょうどだよね。…凶じゃなかっただけマシ…)
綱吉は元気なく項垂れた。
「へー、ツナ、色と酒に溺れるなだって」
「う゛お゛おぃ、ボスさん、これあたらなくて良かったなぁ。あぶねぇあぶねぇ、ツナヨシは大丈夫だろぉ。色も酒も関係ねーだろぉ!」
(そう関係ないって断言されると、その通りだけどなんだか面白くないんだけど…)
色も酒も確かに関係はないから、いいんだが、自分が子供だ、と言われているようでしゃくに障る。
(それにしても、スクアーロとかイタリア人なのにお神籤信じてるのかな…)
「ボスさん、これ持って帰ってルッスーリアやベルに見せようぜぇ!」
「そうだな…」
なんだかんだ言って楽しそうな二人を見て、綱吉はなんとなくほっとしたのだった。










「う゛お゛おぃ、ツナヨシぃ、有難うなぁ」
次の日の朝。
ようやく二人がイタリアへ帰国するというので、綱吉は今度は電車で空港まで行くように詳しく説明した。
手を振りながら去っていく二人(といっても手を振っているのはスクアーロだけだが)の後ろ姿を見送ると、綱吉はなんとなく寂しくなった。
──結構賑やかで、楽しかったかもしれない。
また来年、来てもらってもいいかな。
……っていうか、オレがイタリア行ってみようかな…。

などと綱吉は見送ったあと、良く晴れた青い空を見上げて思ったりしたのだった。








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