◇Lascivia 2   








「…ふ、ざけんな…」
声が震える。
睨み付けたつもりだったが、山本は全く動じなかった。
唇が近づいてきて、ねっとりと塞がれる。
顔を逸らして逃げようとすると、顎を骨が軋むほどに掴まれ、顔を固定された。
唇が押しつけられ角度を変えて深く交差して、濡れた舌がぐっと咥内に入り込んでくる。
粘膜を擦るようにして舌先が這い回り、ぬるっとした感触に思わず目を瞑ると、強く吸われて舌を噛まれる。
為す術もなく唇を蹂躙されて、ザンザスは呆然とした。
──まさか。
まさか、山本が自分を……。
「は、なせ……」
「おっと、逃げたくても無駄なのな…。身体、動かないだろ?それにスクアーロもいねぇし。炎も出ねぇだろうけど、もし出たとしてもそれはナシな。ツナがすぐ気付いて駆け込んできちまうからさ。あんた、こんな姿、ツナに見られたくねーだろ?」
唇が離れたと思うと、耳元に熱い吐息とともに卑劣な台詞を吹き込まれてザンザスは息を飲んだ。
悪寒がする。
総毛だって、眩暈がする。
確かに、スクアーロとは他人ではない関係を結んではいたが──それは相手が自分に忠誠を誓ったスクアーロだったからだ。
スクアーロとは長い付き合いだったし、彼ほど自分を敬愛してくれる存在はいない。
スクアーロは特別な存在だった。
スクアーロにとって長かったであろう8年の空白の後、彼が自分を求めてきた時にもそれを許したのは、それがスクアーロだからだ。
スクアーロ以外の人間とそういう関係を結ぼうなどとは微塵も思っていない。
そんな事、想像もできない。
それなのに、今、山本に無理矢理にそういう関係を結ばされようとしている。
こんな事を承諾できるはずがない。
自分の矜持にかけても絶対に許容できない。
が、身体が動かず、抵抗もできない現実が、ザンザスを打ちのめした。
背筋が氷水を注ぎ込まれたように冷たくなり、がくがくと震える。
「震えてんのな、可愛い…」
耳孔に囁かれて悪寒が全身を襲う。
「よ、せ……。出てけ…」
「そういう風に嫌がられるとますます興奮するのな…。あんた最高だ…」
抱き締められて首筋に軟体動物のような温かく濡れたものが這い回る。
ぞくりと背筋が震える。
身体を捩ろうとしても全く動かなかった。
憤怒の炎は──身体の力が抜けてはいたが、微弱なものなら出せない事はない。
が、炎をこのボンゴレ本部で出せば、炎にすぐ反応する綱吉がいる以上、彼が超直感で気付いて駆け込んでくるのは確実だった。
綱吉に自分が情けない屈辱を受けているのを知られるのは……究極の選択ではあったが、それの方がザンザスにとって耐え難かった。
「ザンザス……」
若い男の情欲に塗れた低い押し殺した声と、シャツの裾を捲って傍若無人に脇腹に入り込んでくる手。
「う………ぁ……ッ」
「いい声、出すのな…」
興奮と欲情の滲んだ声音にゾクッとした。
気持ち悪いはずなのに。
山本に良いようにされるなど屈辱以外の何物でもないのに。
それなのに、身体の芯がずうんと甘く疼いた。
「さっき酒に入れた薬、媚薬でもあるんだ。…もう、勃ってるぜ…」
股間を無造作にまさぐられて、息が上がる。
身体が熱を持って火照り、しっとりと汗が滲む。
まさぐられた部分が蕩けていくようで、ズキン、と脊髄を痛みにも似た快感が走り抜けてザンザスはくっと眉を寄せ唇を噛んだ。
「あんたのチンコ、すげぇ感度いいんだってな。…それに、尻もすげぇ具合イイって……入れっと咥えこんできて離してくれねぇって。天国みてぇだってな…」
下品な言葉が屈辱感を更に煽ってくるのに、それも火種となるのか、ますます身体が熱くどうしようもなく疼いていく。
「ク、ソ……ッん…ぁ…ァあ……ッ」
寝着のズボンをやすやすと引きずり下ろされる。
脚を広げられ、露わになった下肢に節くれ立った剣士の指が絡み付いてくる。
ふさふさと生えそろった陰毛をまさぐられ、中心の敏感な肉塊を容赦なく握られ、根元からぎゅっと圧を掛けられ扱かれる。
身体には一切力が入らず、それでいて送られてくる快感は脳髄をぐずぐずに溶かし侵食してくる。
「ィ、あ……ッ、あぁ…ッ、く、…はッッン…ッ」
全身ががくがくと震える。
グチュッ、と湿った水音を響かせる自分の股間に、眩暈がした。
スクアーロの手ではない、他人の、それも10も年下の男に触られて感じるなど…どれだけの屈辱と辱めか。
──そう思うのに、その認識も更に自分を煽り立てる起爆剤にしかならないのだろうか。
ペニスが瞬く間に勃起していく。
身体中の血液がそこに集まって、発火しそうだ。
ぐっと搾るように扱かれて、瞬時に身体の中を快感の電撃が走り抜ける。
身体を折り曲げ、唇を血の出るほどに噛み締めて堪えようとするが、漏れる声は抑えきれない。
「すげぇのな、あんた……なぁ、どうしてそんなに色っぽいんだ?スクアーロに仕込まれたから?それとも、生まれつきなのか…?どこもかしこも色っぽくて誘ってんのな…。チンコもでかくてすげぇ…」
山本の上擦った声。
下卑た内容が耳に入れば、それも興奮をいや増しに増してくる。
「尻も……もう、大丈夫みてぇ…」
ぬるり、と指が竿から袋へ、袋から会陰を伝ってアナルへと這っていく。
敏感な襞をなぞられて、さすがに視界がじわっと潤んだ。
屈辱からなのか快感からなのか分からない涙が目尻から零れ落ち、傷の残る頬を伝っていく。
「なぁ、泣いてんのか?そんなにいや?……じゃねぇよな。気持ち良さそうだもんな、ここ。…あぁ、もしかして、気持ちよくて泣いてんのか、ザンザス」
ずぶり、と指が侵入してきた。
それは腸内の粘膜を擦り上げ、内部で折り曲げられて、ザンザスの弱い部分を直撃した。
「うァッッッ!!」
スクアーロに開発されてすっかり感じるようになっていた内壁を刺激され、媚薬の効果も相俟って絶大な快感がザンザスを追い詰めた。
前立腺を擦られて、傷跡を直接弄られるようなそんな鋭い快感が脳髄を貫く。
堪えきれず、ザンザスは喉奧から枯れた悲鳴を漏らしながら、射精した。
自分のペニスから熱い粘液が勢い良く迸るのを感じる。
青臭い精液の匂いが立ち上り、股間がねっとりと濡れる。
「やっぱり感じやすいんだな。…あんたって色っぽくて最高…。スクアーロの言った通りなのな…」
上擦った若い男の声が聞こえる。
羞恥も、屈辱も……もう、溶けて消えていってしまった。
全身にしっとりと汗を掻いて、意識を茫洋とさせ、ザンザスはただただ射精の快感に酔いしれた。
脱力してベッドに沈もうとした所を、しかし、指が一気に増えてぐぐっと体内をこじ開けてきた。
「うあァ─ッッ!」
再び脳髄までぎりぎりと快感が突き刺さってきた。
目の裏が赤く染まる。
柔らかな内部を不規則に掻き回され、広げられた脚を閉じようとしてもままならず、反対に山本によって更に広げられる。
グチュグチュと指を出し入れさせられ、ローションだろうか、ぬるりとした甘い匂いのする液体が尻孔に垂らされる。
火照った股間は疼いてどうしようもなく、ザンザスは目を閉じ顔を左右に振りながら、淫らに尻を揺らした。
綺麗に揃った肉襞がぱくぱくとひくついて開閉し、ペニスは再度すぐにそそり立ってくる。
「あんたの中、すげぇ赤くて綺麗なのな。…見てるだけで興奮する…。もう我慢できねーよ、…オレ」
掠れた低い声と、それについで、ひた、と熱く堅い肉棒が押し当てられる感触。
快感に酔いしれていたものの、ザンザスはさすがにはっとなった。
まさか───本当にヤられるのか。
………なぜだ?
なぜオレがそんな目に遭わなくちゃならねぇ。
いやだ……。
いやだ…………スクアーロ!!
「……ぐゥッッッッ!!」
次の瞬間、柔らかな入口を引き裂くように灼熱の楔が深々と打ち込まれた。
背中を海老のように反り返らせて、ザンザスは深紅の瞳を目尻が引き裂けるほどに見開いた。
ズウンと重く深い衝撃。
全身貫かれる甘い戦慄。
全く痛くなく、それどころか気持ち良くてたまらなかった。
蟻地獄に引きずり込まれるような、そんな深い酩酊感が全身を浸す。
「あ、あぁ………、はあ……ンッッッ…い、ァあ─ッッッ」
深々と根元まで凶器を突き入れた山本が、そのまま間髪を入れず激しく動き始める。
ベッドがぎしぎしと軋む。
シーツに後頭部が擦れる。
力のない手を動かそうとしても動かない。
揺さぶられ、両脚を高く掲げられ、恥ずかしい格好を晒して浅ましく喘ぐ。
両脚を山本の肩に担がれ、尻を浮かせそこに山本の肉棒が深く突き刺さっている体勢。
後頭部がシーツに沈み、傷のついた浅黒い肌の上を山本の手が這い回る。
胸筋を撫でられ乳首を摘まれ、臍を擽られ再度勃起したペニスを弄られる。
「あんた、サイコー……ッ、す、げぇイイ……ッッ」
身体をきつく折り曲げられ胸が圧迫される。
上から山本の声が降ってくる。
耳を塞ぎたくなる声と、音。
結合部分からのぐちゅぐちゅと淫靡な音。
それなのに、興奮と快楽に犯された身体は悦び悶え、脳髄の細胞一つ一つに至まで悦楽が浸透している。
気持ちよくて、死にそうだった。
はぁはぁと息を切らせ、顔を左右に激しく振る。
身体がふっと宙に浮くようだった。
全身が浮かび上がり、絶頂に向かって駆け上っていく。
楔が打ち込まれるたびに身体ががくがくと揺れ、鋭い快感がずきんと身体の中心を貫く。
前立腺を擦られるたびに、やけつくような刺激が脳に突き刺さり、全身が痙攣する。
……いやなのに。
スクアーロ以外の男に突っ込まれるなど、…ましてや年下の、綱吉の部下などに。
なのに、突かれてよがっている自分が居る。
貫かれる快感に酔いしれている。
どんなヤツでもいいのか。気持ち良くなってしまうのか。
そう思うと、どうしようもなく情けなくて涙が溢れた。
涙は後から後から溢れ、頬を伝い、シーツへと吸い込まれていく。
山本の動きが更に激しくなる。
ガクガクと揺さぶられて、少しの快楽も逃すまいと身体は自然と山本に合わせて動き、腰も淫靡に揺れて山本のペニスを歓迎する。
結合部分からグチュッと淫猥な音が響き、滴ったローションと腸液、それに山本の先走りがまざりあってそれもシーツへと吸い込まれていく。
気持ち良くて、どうにかなりそうだった。
屈辱なのに、それすらどうでもいいぐらい、身体は喜んで山本を迎え入れている。
「あっあッあッあァッッ!」
目の前に閃光が散る。
全身が溶けて、山本の楔を深く深く迎え入れようと腸壁が蠢く。
「ッす、げぇっっ……も、イく……ッッ!」
ずぶり、と容赦なく突き入れられ、内臓が押し上げられる圧迫感と得も言われぬ深く甘い快感にザンザスは瞬時堅く目を閉じた。
「あ、あァ──ッッッ!」
目の裏が赤く染まる。
血が逆流していく。
尻肉をきゅっと締めれば、山本が内部で激しく弾ける。
身体がベッドの上で数度バウンドする。
ザンザスは再度身体をぶるぶると震わせながら、勢い良く白濁を自分の腹の上にぶちまけた。










深い満足と甘い酩酊が全身を浸す。
酔いしれて呆けた顔をしていたのだろう。
山本が焦げ茶の瞳を細め、ザンザスの乱れた黒髪をそっと撫でてきた。
「今日の事は秘密な?あんたさえ黙ってれば、スクアーロにも秘密にしとくし、ばれねぇから…。オレもあんたの事一度抱ければいいんだし。スクアーロから取ろうとか思ってないし…。薬も明日の朝になれば抜けてると思う。…にしても、ホントあんたってすげぇよ。あんたと付き合ってたりしたら、オレなんか骨抜きになって使い物にならなくなっちまうな。スクアーロもすげぇよなぁ…感心するのな…」
情事の余韻に浸っているところにそう囁かれる。
何を勝手な事を……とは思うものの、心地良い気だるさと薬のせいで、全く身体は動かない。
されるがままに髪を撫でられ、頬にキスをされる。
傷跡をなぞるように唇が動き、涙に汚れた頬を舐め取っていく。
「ホントすごかったぜ…あんたのすごさがよく分かったのな…」
揶揄まじりなのか、それとも本心からなのか。
そう告げて、山本が苦笑する。
それからゆっくりとザンザスの中から自分を抜き出し、後始末をすると、部屋を出て行った。










部屋に一人になると静寂が戻ってきた。
山本が身体を綺麗に拭いていってくれたので、情事の心地良い余韻のみが残った。
身体がだるく熱く、温い湯に浸かっているかのようにゆらゆらとする。
そのまま深い眠りに入ってしまいそうになる。
どうしてこんな事に……と思うものの、頭は働かず、それよりも余韻に全身が痺れていた。
久し振りに深い身体の満足を覚えている自分に、ザンザスは密かに戸惑った。
もしかして、誰でもいいのか?
スクアーロでなくても。
無理矢理犯されたのに。
薬で身体を動け無くされるなど、我慢できない屈辱であるのに。
自分が分からなくなる。
いや、媚薬のせいだ。決して自分の本意ではない。
あんな事をされて気持ちがよいなど……スクアーロ以外の男と関係してそれが快感だったなど。
……全て薬の所為だ。
オレは誰でもいいような淫乱じゃねぇ…はず。
無理矢理ヤられて気持ちいいなんざ、……薬の所為に決まっている。
そうでも思わないと、自分の事が分からなくなりそうで怖かった。
力無く頭を振って、ザンザスは目蓋を閉じた。








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