◇午睡  








長い廊下を歩いていると、廊下の先で階段を降りていく後ろ姿が見えた。
黒と白のツートンのコートがひらりと靡き、真っ赤な羽根飾りが窓の光を受けて一瞬鮮やかに煌めく。
ザンザスが降りていったのだと知って、スクアーロは主の出て行った部屋へと向かった。
扉をそっと押し開け、するりと身体を中へ滑り込ませる。
「う゛お゛おぃ、お疲れさんだぁ…」
スクアーロが入るとすぐに大型の猛獣がのっそりと立ち上がった。
それまで、ザンザスの肘掛け椅子の前に寝そべっていたらしい。
まっ白な、巨大なライオンのシルエットが絨毯に長い影を作る。
猫科特有のしなやかな足の運びで足音など全くさせずに巨体が近寄ってくる。
「ガウ……」
スクアーロの前まで来ると、その500キロを超える巨体は頭を猫のようにスクアーロに擦りつけてきた。
「よしよし、ボスのお守りで疲れたかぁ?」
スクアーロが銀蒼の双眸を細め、ライオンのふさふさとした鬣を撫でる。
「ん゛ん゛、どうしたぁ?甘えんぼだなぁ…」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら頭を擦りつけてこられて、スクアーロは微笑した。
頭を撫でながら窓際に置かれたソファへと座ると、ライオンはスクアーロの足元に踞って寝そべり、足を投げ出して腹を見せてきた。
純白の美しい毛並みに覆われた腹を掌で撫でてやると如何にも心地良い、というように低く唸って深紅の目を閉じる。
その腹に鼻を押しつけて顔を動かすと、ライオンがグルグル唸りながら前足の肉球をスクアーロの頭に押しつけてきた。
「ボスさん当分帰ってこねぇと思うからなぁ…いっぱい甘えろぉ?おまえも、いつもボスさんの相手じゃ疲れるだろ?」
自分の顔よりも大きな足裏が頭から頬に掛けてぷにぷにとした肉球を押しつけてくる。
爪を出されたら一瞬にして顔など引き裂かれてしまうだろうが、そんな心配は微塵もない。
スクアーロは瞳を閉じてライオンの腹を更に撫でた。
午後の穏やかな光が縦長の格子窓から差し込み、ライオンの毛がふんわりと暖かい。
日向の匂いがするようで、スクアーロは瞳を閉じたままいつしかライオンの腹の上で眠ってしまった。










「………」
地下のトレーニングルームで筋トレをし、シャワーを浴びてさっぱりとして戻ってきたザンザスが見たのは、ライオンの脚の間に身体を丸めて横になって、腹の上に頭を乗せ、ぐっすりと眠っているスクアーロの姿だった。
近寄って、ライオンの純白の毛並みに乱れ広がっているきらきらとした銀髪を見下ろす。
ライオンが顔を上げグルル、と喉を鳴らした。
「そのままでいい。寝かせとけ…」
主の言葉にライオンが長くふさふさとした尻尾を揺らす。
スクアーロの白い頬にそっと指を這わせると、ライオンがその手に尻尾を絡めてきた。
「起こすんじゃねぇぞ?」
主の穏やかな物言いにライオンが分かっているとばかりに低く唸る。
「ったく、緊張感のねぇ野郎だ。ベスターはテメェの匣兵器じゃねぇぞ。これじゃどっちのものだか分かりゃしねぇな…」
苦笑しつつザンザスは瞳を細め、銀髪を一掬い手に取ると、そっと口付けた。








back