◇Irritazione 4   








一方スクアーロは、ザンザスが最後まで抵抗してくると、そう予想していた。
だからこそ、快楽に弱そうな彼をなんとしても素早く自分のものにしてしまおうと内心焦りがあり、ザンザスを思い遣る事など微塵も考えられなかった。
自分のどうしようもない耐えきれない疼きをなんとかして鎮めたかった。
しかし、今、自分の身体の下でザンザスは抵抗せずただ横たわっている。
右手で握りしめたザンザスの股間は指の中で熱く蠢き、そこが勃起している事をスクアーロに知らせてくる。
力を抜いたザンザスの上に圧し掛かって、漸くスクアーロは身体の下のザンザスをまじまじと眺める事ができた。
彼は、ザンザスは、──これから自分のものになろうとしている。
まだ信じられない。
しかし。
「ザンザス……」
上擦った声で名前を呼びながら、体重を掛け、ザンザスの首筋に顔を埋める。
どこか甘く身体の芯が疼くような匂いがスクアーロの鼻孔を刺激し、スクアーロはたとえようもなく興奮した。
今までは暗がりから隠れるようにしてひっそりと見るしかなかったその姿を、彼が乱れ悶えようとする姿を、今、すぐ目の前で見て、これから味わう事ができる。
そう思うと、心臓が飛び出そうなほど打ち響き、期待に身体中が震えるとともに、まだ半ば信じられない思いだった。
首筋に唇を押しつけ強く吸うと、ザンザスの身体がぴくりと動いた。
それだけでスクアーロは、下半身にどっと熱い血が流れ込むのが分かった。
すぐにでも彼を蹂躙したい。
あの、いつか見た男たちのように。
大きく脚を広げさせ、彼の中心に自分の欲望を打ち込んで、彼を所有したい。
───そうだ。
ザンザスを、自分のものにしたいのだ。
顔を上げて窺うと、間近にザンザスの、血よりも美しい赤く深い色をした瞳が、じっと自分を見つめていた。
ルビーのように赤く、宝石よりも煌めくその深い色の瞳から目が離せない。
そのまま吸い込まれて全てが溶けてしまえばいいのに、と思うほどである。
ザンザスがふっと瞳を伏せ、視線を逸らした。
「勝手にしろ…」
吐き捨てるような言葉に傷付く自分がいる一方で、これからザンザスを抱けるのだという途方もない悦びに全身が湧き立つ。
スクアーロは、ザンザスの衣服を乱暴に剥ぎ取っていった。
シャツの釦を引きちぎるようにして外し、ズボンのベルトを緩め、下着ごとザンザスの身体から引き剥いでいく。
ほどなくしてスクアーロの眼前に一糸まとわぬザンザスの裸体が晒け出されると、もうスクアーロは堪えきれなかった。
均整の取れた、逞しく浅黒いすらりとした身体。
股間の黒く柔らかな陰毛の中に、彼の欲望が頭を擡げている。
見た瞬間、脳が沸騰するような気がした。
無我夢中で自分も服を脱ぐと、物も言わずにザンザスの両脚を乱暴に広げる。
ザンザスは全く抵抗しなかった。
スクアーロにされるがままに脚を広げ、無防備に自分のペニスや陰嚢、それからその下の奥まった蕾までスクアーロの眼前に露わにする。
「ザ、ザンザスッッ!」
ザンザスのそのような姿を見て、もうスクアーロは一瞬も我慢ができなかった。
既に自分のペニスは腹につくほどに反り返り、先端からはしたなく先走りを零している。
ふとザンザスの手が動き、ベッドサイドからローションのボトルを取りだした。
食らいつくようなスクアーロの目に視線を合わせ、何処か冷めた薄笑いを浮かべると、ローションのキャップを外し、自分の股間に思いきりそのとろりとした液体を振りかけていく。
「ほら、来い、カス…」
ザンザスがゆっくりと脚を広げ、その脚をスクアーロの肩に掛けてきた。
自分から後孔を晒し、深紅の瞳を眇め肉厚の唇を歪めて、茫洋とした笑いを浮かべながら、スクアーロのそそり立った肉棒を指で弾く。
「ボスッッ!」
ザンザスに敬遠されていない、と思うと、もはや一刻の猶予もできなかった。
肩に担いだザンザスの両脚をぐっと折り曲げ、ザンザスの身体をきつく抱き締める。
のしかかるようにしながら右手で、ローションでぬるぬるになった後孔をまさぐる。
義手の左手で不器用に自分のペニスを掴むと、柔らかく窄まった入口に押し当てる。
そこから先はもう、何も考えられなかった。
「…ッッ!」
一気に押し入ると、熱い蜜壺がうねうねとうねりながら、スクアーロの男根を迎え入れた。
入口はきつく、其処をぐっと腰を突き進めて突破すれば、その先は軟体動物のように蠢きながら中へ中へとスクアーロを誘い込む。
熱く蠕動するその動きに、スクアーロはひとたまりもなかった。
「ボ、ボスッッ!」
ぐっと突き入れたと同時に、スクアーロは弾けてしまった。
今まで女とは結構経験があり、セックスにはそれなりに年齢よりも慣れていたはずのスクアーロも、さすがに自分の醜態には恥じ入って顔を真っ赤にした。
「ハッ…早漏だな…」
ザンザスの声に更に羞恥で全身が赤くなる。
「ク、クソッ」
どうしていいか分からずザンザスの体内に精液を流し込んだままの体勢でいると、ザンザスが腸壁を絶妙に蠢かせてきた。
「ウッ……クッッ!」
その動きにぞくりと脳に快感が駆け上り、若いスクアーロの雄はすぐにまた堅くなった。
自分が持ち直したのを知るやいなや、スクアーロは反撃とばかりにすかさずザンザスの腰を抱え、激しく前後に抽送を始めた。
「くっ……あ…ッ…あ、ぁ……う……ッ」
女の嬌声でもない、男の呻き声なのに、どうしてこんなにそそられるのだろうか。
ザンザスの声を聞く度に全身がかぁっと燃え上がって、脳が蕩けていく。
繋がった部分の感覚が脳を支配し、頭の中がぐずぐずにとろけて、自分自身が性欲の塊になったような、そんな気がする。
一度射精したからか、今度は先程のような醜態を曝す事もなく、スクアーロは快感に耐えながらひたすらザンザスの体内を貪った。
深く穿ち、腰を回して内壁の其処此処を抉っていく。
ある箇所を刺激すると、ザンザスがウッと呻き顎を仰け反らせ、体内がきゅっと引き締まった。
それとともに自分の腹を押していた堅いザンザスの怒張がびくびくと脈打つのが分かる。
そこを重点的に擦りながら、スクアーロは夢中で腰を動かした。
「クッ…う、…、ぁ、ああッッ」
ザンザスの、濡れた色めいた呻き。
それがすぐ耳許で聞こえる。
耳が侵され全身が震え汗が噴き出す。
はぁはぁと激しい息づかいと、ぐちゅぐちゅという濡れた淫靡な粘着音が部屋に響く。
脳が痺れ、何も考えられなくなり、全身にそれが伝播して瘧のように震える。
右手を腹の間に入れ、ザンザスの欲望を握りしめ、自分の腰の動きに合わせて乱暴に扱けば、ザンザスが内股を強張らせ、ベッドのシーツを強く掴み、発達した胸の筋肉を大きく上下させ苦しげに顔を左右に振って熱い吐息を漏らす。
今、ザンザスを犯しているのはオレだ。
───ザンザスはオレのものだ。
途轍もない至福感が押し寄せてきて、スクアーロは感極まって涙ぐんだ。
その激情のままに腰を突き入れ、深く抉りながらザンザスの怒張を搾るように扱き上げる。
頭の中でぱっと閃光が散り、どくんと全身の血がザンザスの中に流れ込んでいく。
と同時に自分の右手に熱い粘液の迸りを感じ、それがまたたとえようもない幸福感を増長させ、スクアーロを有頂天にさせた。










激しいセックスが終わると、全身を浸していた幸福感はゆっくりと消えていく。
あとには気まずい沈黙が残った。
「ボス……」
夢中でしてしまったとは言え、そして自分の行動に悔いはないとは言え、ザンザスの反応が恐ろしかった。
「抜け…」
冷然とした声に項垂れて、スクアーロはザンザスの中から性器をずるりと引き抜いた。
名残惜しくそのままずっと入っていたかったが、ザンザスの命令にはもう逆らう気概もなかった。
いつもの主人と部下に戻ってしまったのである。
「終わったら出て行け」
気怠く低い声が聞こえる。
はっとして顔を上げると、ザンザスがまだ情欲に潤んだ深紅の瞳を細めてスクアーロを見上げていた。
脚は広げたまま、しどけなく身体をベッドに投げ出し、腹の上はザンザス自身が放った白濁が、後孔はスクアーロが流し込んだ欲望の液体が溢れ出ている。
その様は、たとえようもなく扇情的で、スクアーロは事が終わったばかりだというのにごくりと唾を飲み込んだ。
「ボス……」
途轍もない喪失感に襲われて、スクアーロは呻いた。
ザンザスの身体を知ってしまった今となっては、それに対する渇望は彼を犯す前よりも酷くなっていた。
ザンザスを抱きたい。
他の奴らに渡したくない。
あの身体を好きにしていいのはオレだけだ。
不遜な考えだとは分かっていたが、どうしてもそう願わずには居られなかった。
固唾を飲み込んでザンザスを見つめると、ザンザスがふっと唇の端を歪めた。
「カス、悪くなかった…。これからオレが呼んだらすぐに来い…いいな?」
「ボ、ボス、それは…オレがボスを…」
「いちいち聞くんじゃねぇ、煩ぇ…出てけ。オレは寝る」
「わ、分かったぜぇ…ボス…」
何かもっと声を掛けたかったが、ザンザスが顔を背けたまま自分の方をちらりとも見ようとしないので、スクアーロは脱ぎ捨てた服を身に着けると、押し黙ったままザンザスの部屋を出た。
部屋を出てしまうと、さっきまでの事は現実にあった事なのか、と我が身に起こった事ながら信じられない心持ちがして、スクアーロは深く息を吐いた
逃げるようにして部屋まで戻ってきて、ベッドに突っ伏す。
右手を鼻に近づけると、確かにそこはザンザスの精液の匂いがした。
それだけでスクアーロの身体は再び火照り、先程の表現しようのない快感が脳内に再現される。
「ザンザス…」
口に出すと身体が蕩けるように熱くなるとともに、どこか脳の隅では取り返しの付かない事をしてしまったのではないか、という居ても立ってもいられない恐怖感が込み上げてきて、スクアーロは激しく顔を振った。
何も考えたくなかった。
今はただ、ザンザスの残り香を嗅ぎ、彼を抱いたこの感触だけに浸っていたかった。
これからどうなるのか。
それは分からない。
けれど、もう引き返せない。
自分の心の中の渇きは前よりももっと酷くなっているのだから。
「ボス……」
彼を初めて見たとき、その純粋な炎に心を奪われた。
彼のためならどんな事でもできると思った。
そして今も彼のためならどんな事でもできる、……しかし、それだけでは我慢できない。
ザンザスを全て自分のものにしたい。
そうしなければ飢え乾いて、自分はおかしくなってしまう。
そういう恐怖感を覚えて、スクアーロは戦慄した。
この戦慄を忘れるように、スクアーロはズボンの中に手を突っ込み、自分のペニスを乱暴に扱いた。
忽ち先程までの快感が再び全身をとろかし、ザンザスの反応を思い出せば脳もとろける。
「う……うう……!」
先程ザンザスの中に出してきたばかりだというのに、既にそこは熱を持って堅く張り詰めていた。
「ウッッッッ!」
ザンザスを自分のものにするのではなくて、自分がザンザスのものになって彼に囚われ、既に絡め取られているのだ。
ふとその事に思い当たり、スクアーロは唇を歪めて目を閉じた。
手の中のペニスからの悦楽に、脳が霞む。
絡め取られて本望だ……うっすらとそう思いながら、スクアーロは三たび射精した。
薄暗い部屋に、押し殺した喘ぎと淫靡な水音だけが響いていた。








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