次の週、学校に行っても山本はいつも通りで全く態度に変化がなく、ツナはほっと胸をなで下ろした。
笹川は何をされたのか、よく訳が分かっていなかったと思うし、ランボはまぁ論外。
山本はセックスをしても今まで通り。
助かった。ちょっとほっとする。
しかしその後の残りの3人が問題だった。
どうするのだろう。
リボーンは自分でなんとかしろとか言っていたが、とても自分でなんとかできるとは思えない。
(やっぱりここはリボーンに頼むしかないよなぁ、だってオレホントなんにもできないし…)
休み時間に、机に肘を突いて、ツナは溜息を吐いて考えた。
(たとえば雲雀さんとかさ。……ちょっと話すだけでも怖いのに、そんな絶対、無理無理!)
ぼんやり、窓の外の明るい青空を眺めながらそう思う。
(雲雀さんとセックス…?いや、リボーンが頼んだって無理じゃないかな?)
どう考えても無理な気がする。
山本は自分の親友だったし、獄寺は自分が頼めばなんでもやってくれそうではある。
でも雲雀は自分の守護者とは言え、元々は自分の事を仲間とも何とも思っていない、一匹狼のはぐれ雲だ。
骸に至っては自分の事を敵だと思っている。
そんな二人と、…普通に何気ない会話をするのだってどう考えても無理な気がするのに、会話よりももっとずっとハードルの高い、……セックスをするとか…。
どうするのだろう。
全く予想がつかない。
想像も付かない。
(あー考えてもしょうがないよね、無理無理…)
いろいろな事が無理に思えてきてツナは授業が始まっても、殆ど授業の内容など聞かずに、窓の外を眺めて呆けていた。
その日、ツナが学校から帰ると、自宅に客が来ていた。
「よっ、ツナ、久し振り…。元気にしてたか?」
にかっと笑う端正な顔、背が高く金髪がふわりと漂う。
「…ディーノさんっ…あれ、どうしたの?何か、仕事…?」
「オレが呼んだんだ、ツナ」
ただいま、と力無く言って玄関を上がりかけた所で、応接間から出てきた人物にツナは目を丸くした。
ディーノの背後からリボーンもちょこちょこと出て来る。
「リボーンが?……って、あの、アレ…に関係するの?」
この間ディーノに会ったのは、リボーンが、ツナのセックスの先生として呼んだ時だった。
あの時は、ディーノに抱かれて気持ち良くて、セックスがこんなにいいものだったとは、と目から鱗が落ちるような思いをしたものだが。
……などという事を思い出して、ツナは頬を染めた。
さすがに、こう面と向かって相対すると、恥ずかしい。
ディーノは大人だし、そういう事はいちいち気にしないだろうが、自分は恥ずかしいと思ってしまう。
…が、考えてみると、ディーノとの情事の後に、自分は数人、自分の守護者とセックスをしてしまったのだ…、それも恥ずかしい…。
自分がなんだか微妙に汚れた大人になってしまったような気もして、ツナはますます顔を赤くした。
しかしディーノはそんなツナの様子をにこにこと眺めながら、ツナの肩をぽんと叩いてきた。
「まぁ、上がれよ、ってここ、お前の家だったかっ」
ははっと明るく笑って顔を覗き込んでくる。
邪気のない陽気なディーノの様子にツナはちょっと救われたような気がして、肩を竦めつつ上がった。
そのままディーノやリボーンと共に自分の部屋へと階段を昇る。
「ツナ、次の契約のために、ディーノをわざわざ呼んだんだぞ?ありがたく思えよ?」
入るとリボーンが偉そうに言ってきた。
「……え、…って、なんでそう偉そうなの?…っていうか、ディーノさん、わざわざごめんなさい…」
「いやぁ、ツナのためなら別になんてことねーよ。それに日本は楽しいしさ?」
ディーノがあぐらをかいてにかっと笑う。
「あ、そうそう、ツナ、順調に契約が済んでるんだってなぁ?さすがオレが教えただけあるぜっ。ツナはこっちでも優秀なんだなぁ。これならさ、ボスになったらもうその辺の男でも女でも、食いまくりじゃね?」
「ディーノさんっ、そんな事しませんったら!そんなことするの、ディーノさんの方でしょ…」
ディーノの物言いに慌ててそう抗議する。
「えっ、オレそんなに魅力ねーもん。まぁ外見は悪くねーとは思うけどさ、でも実際あんまりモテねーんだよなぁ、なんでかな?」
ディーノが肩を竦めて苦笑した。
まぁなんとなくディーノがモテない理由は分かる。
ちょっと見には外見は完璧、格好良くてしかも金持ちのマフィアのボスだ。
モテないわけがないだろうが、ちょっと付き合ってみるとドジばかり、第一印象と実際との違いにみな幻滅してしまうのだろう。
……などと言うと可哀想だから黙っておく。
まぁそのドジな所が魅力的だと言えばそうなので、そういう所が分かってくれる人にはモテそうではある。
でも自分は…
(オレなんて、全然モテもなんもしてねーよな…。今回のだって契約だから、っていうか、まぁ義務みたいなものだもん…)
笹川とかランボは殆ど騙して犯したようなものだし、山本は…彼もちょっと変わっていると言えば変わっているし、自分の事は親友だから人助け、という気持ちからだろうし。
「ま、とにかく、ディーノが来たからには、次の契約にとりかかるぞ、ツナ」
「あ、う、うん。……って、次どうすんの?…誰…?」
「ツナは誰がいいんだ?」
「ええー、オレ、別に誰でも…っていうかさ、あと、なんとかなりそうなのって、獄寺君ぐらいしかいなくない?」
「まぁそうだな。そこでディーノの登場だ」
「……ディーノさんに何してもらうの?」
「なんだ、さすがのツナでもちょっと困ってるんだな?ツナだったら無敵な気がするのになぁ?」
「な、なに言ってんの、ディーノさんっ…」
「だって、ツナってなんだかんだ言っても結局なんでもできちまうだろ?さすがボンゴレの次期ボスだよなってオレなんかお前の事尊敬してんだぜ?」
ディーノが真面目な顔をして言ってきたので、ツナは思わず目を見開いてしまった。
「まぁ、それはいいとしてだ、ツナ。次は雲雀だぞ?」
そこにリボーンが割って入ってきた。
「………え、ひ、雲雀、さん?」
「そうだ、ディーノがやってきたって事は次は雲雀だって事ぐらい想像つかねーか?」
「え、…う、うん、そう言えば…」
そうだった。
ディーノは雲雀の家庭教師として彼とは因縁浅からぬものがあるのだった。
そのディーノが来たという事は、雲雀をなんとか説得するためなのだろうか…。
(……で、でも、雲雀さん……)
あの雲雀が自分とそんな事をしてくれるだろうか。
……どう考えても想像つかない。
まず、雲雀がそういう性的な事に関心があるようには全く思えない。
そういうのは軽蔑していそうだし、興味もなさそうに思える。
更にはもし興味があったとしても、同性相手、しかも自分相手にそういう事をする気になるとは……到底思えない。
雲雀の性格を考えれば火を見るよりも明らかだった。
絶対、無理。
「……ディーノさんが来ても、どう考えても、無理だと思うけど…」
「はははっ、まぁあの雲雀だもんなぁ。まず断りそうだよな。全く、お前みてーな可愛いやつとエッチできるのに勿体ないよなぁ?」
「…………」
やはりディーノもそう思っているわけか、と思ってツナは項垂れた。
「やっぱり、そうだよね。……もしかして、お兄さんの時みたいに、騙して襲ったりするの?」
……それは避けたい。
笹川の時は、笹川があんな天然で明るい性格だし、もし騙したのがばれたとしても、きっと彼は怒らないで笑うだけだろうが、雲雀に同じようなことをしてもしばれたら……。
それは当然、ただではすまない。
守護者だって止めるとか言い出しそうだし、それよりなにより、自分が半殺しに遭いそうだ……。
「まー、人生、なんでもなんとかなるもんだぜ。ツナ。とりあえずここは長期戦っていうか、そんな焦らなくてもいいみたいだからさ、オレ長期休暇取って日本に来たんだ。少し日本を案内してくんね?」
ディーノがのんびりした口調出言ってきた。
「……はぁ…」
「そうだぞ、ツナ。焦らなくてもいいんだぞ。ディーノが暇そうだからちょっと付き合ってやれ」
焦らなくてもって、リボーンに言われてもなぁ…。
肩を竦めて、ツナは溜息を漏らした。
「じゃあさ、遊園地行かねーか?」
いかにも機嫌が良さそうなディーノが言ってきたのは、ちょっと電車で行くぐらいの距離にある、有名な遊園地だった。
ツナも何回も行った事があり、小さい頃は学校から遠足で行って楽しんだ事もある馴染みのある所だ。
だが、入場料が高い。
お金の事で少々渋っていると、ディーノがなんだそんな事、と言わんばかりに大盤振る舞いで、ツナの入場料から遊園地までのかなり高いタクシー代まで何から何まであっという間に払った。
さすが、お金持ちは違うよなー……。
と、ぼんやりディーノを見ていると、
「あれ、乗ろうぜ!」
ディーノが巨大な観覧車を指さした。
ジェットコースターやテーマパークの方には人がたくさんいるものの、観覧車は比較的空いていて、すぐに乗ることができた。
ゆっくりと小さな箱が上がっていき、窓から見える景色が広がっていく。
ビル群が眼下に見え、目線を遠くにやれば青くキラキラ光る海が見えてくる。
光が乱舞する遙かな景色をなんとはなしに見つめていると、ディーノがゆっくりと話し出した。
「なぁツナ、リボーンも言ってたけどな、焦らなくていいんだぞ?雲雀の件もだけど、骸だって仲良くなれるかどうかってか、ヤれるかどうかまるっきり分からないだろ?分からないというよりはできそーにねーっていうか。でもさ、そういうのいつも考えてるだけでいいと思うんだ。ツナはまだまだこれからだし、すぐになんとかしなくちゃ、なんて思わなくていいんだぜ?できないと駄目駄目だってすぐ焦るだろ、ツナ?」
「……うーん……そうかも、……でもオレ、本当にできるのかな…」
「大丈夫だって!」
ディーノがにかっと笑った。
観覧車が高く上がり、太陽の光が差し込んでくるとディーノの金髪が光ってそれは美しい。
思わず見とれて、ツナはため息を吐いた。
「ディーノさんみたいになんでもできる人はそう思うかも知れないけど、…オレなんか…、自信すぐ無くなるし」
「ンな事ねーって。オレなんかより、ツナの方がずっとすげー人間なんだって。今までだって不可能に見えた事全部やり通してきたじゃねーか?今回の事だってそうだ。すっげーむちゃくちゃな要求だったのに、なんだかんだ言ってやり通してるだろ?それがツナの強さだよ」
「………」
「ほら、オレだって、ツナの魅力に参っちまったしな?」
ディーノがウィンクしてきたのでツナは赤面した。
「それ、ディーノさんの勘違いっていうか、なんか珍しいものが食べたくなる気持ちみたいなものじゃないかなっていうか…」
「ま、ツナがどう思ってるにしろ、事実は事実だからな」
ディーノがびしっと言った。
「今度の雲雀の件だって、絶対大丈夫だぜ。なんとかなる。ってか、もうなるってオレは確信してるしな。明日、雲雀と会う約束してっから、ツナも一緒に来いよ?」
「えー!もう、雲雀さんと……?」
ツナが怖じ気づくと、ディーノが肩を竦めた。
「ツナって本当、そうやって自信なさげにしてっけど、絶対やり遂げちまうなよなー」
「………それはたまたま…ってだけで…」
「ま、とにかくさ、オレはツナを信じてっから。お前ならなんでもやれるって。今度の雲雀の件だけじゃなくて、なんでも。お前なら絶対、オレやザンザスなんかができなかった事をやってくれるって信じてるんだ」
ディーノの力強い言葉が、ツナの耳に響いてきた。
「な?ツナ……」
急にふわり、と良い匂いがして、頬に柔らかくキスをされる。
「ディ、ディーノさん……」
赤面して口ごもると、ディーノが爽やかに笑った。
「これからも、お前のこと頼りにしてるぜ、ツナ。どんな事でも、な?お前なら大丈夫。なんでもできる。明日からも楽しみだなー」
「そ、そんな無責任な事、言わないでくださいって…!」
「ハハハハ、大丈夫大丈夫…!」
ディーノに力強く言われると、なんとなくそんな気がしてきた。
遙か彼方の空と海を眺めてツナは目を細めた。
やるしかないか。
雲雀だろうが骸だろうが……とにかく、自分はやるだけだ。
開き直りのような気持ちが生まれてきて、なんだかすっきりした。
肩を竦めてツナはディーノを見上げて苦笑した。
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