さようなら













検査結果が分かった時には既に手遅れだった。
すぐに入院して苦しい治療をして、それで少し余命が伸びるそうだ。
どうしますか、と聞かれて俺は首を振った。
死に至るまでの緩和治療にしてもらった。
痛みを止める強い薬を使うやつだ。
最後の頃は動けなくなるみたいだけど、それまでは学校に行きたかった。











「樺地、具合悪いのか……?」
跡部さんの、心細げな声。
元気な振りをしていても、分かってしまうのだろうか。
でも、絶対跡部さんには悟らせない。絶対に。
俺は首を振った。
「いいえ。ただ、ここのこころうちの手伝いが忙しくて睡眠不足です」
「………バーカ、睡眠不足ぐらいでふらついてんじゃねえよ…最近元気なさそうだから、心配したじゃねえかよ」
跡部さんがなんだ、というように笑う。
心から安心したように、綺麗な花が咲くように、笑う。
灰青色の、本当に綺麗な、見ているだけで心が洗われるような瞳が、俺を見上げて笑いかけてくる。
跡部さんが俺に頭を凭れてくる。
暖かな感触がする。
「……ウス」
俺は短く答えて、跡部さんの頭をそっと撫でる。
跡部さんが、頭を俺の胸に擦りつけてくる。
瞳を閉じて、長い睫を震わせて。






「樺地………ずうっと俺のそばにいろよ」
「……ウス」















跡部さん。

跡部さん、ごめんなさい。

















もう、余命がない。
痛み止めのモルヒネを服用しながら、俺は痛みを堪えて手紙を書いた。
跡部さんが、俺がいなくても、生きていけるように。
跡部さんが、俺を忘れられるように。
跡部さんの人生が、幸せであるように。


祈りを込めて、手紙を書いた。












「跡部さん、俺は、あなたと離れなくてはならなくなりました。
でも、俺はずっと跡部さんのそばにいます。
跡部さんが気づかなくても、いつも俺はあなたのそばにいます。
あなたが夜眠るとき、あなたが起きるとき。
あなたが笑うとき、あなたが泣くとき。
いつもそばにいて、あなたの喜びを喜び、あなたの悲しみを悲しみます。
あなたが俺を忘れても、俺はずっとあなたのそばにいます。
だから、安心してください。
寂しく思わないでください。
あなたが寂しく思うとき、俺はいつもあなたのそばにいます。
あなたが苦しいとき、俺はあなたのそばで見守っています。
あなたが死ぬまで、俺はあなたのそばにいます。
あなたが俺を忘れても、俺はあなたのそばにいます。

だから、安心して、俺を忘れて大丈夫です。
跡部さんが生きている限り、俺は跡部さんのそばにいます。
ずっと一緒です。」










跡部さんの、心細そうな表情。
激しい口調の裏の、寂しげな笑顔。
跡部さんのいろいろな表情が思い浮かんで、視界が霞んだ。
涙がぽたりと落ちて、手紙がほんの少し、濡れた。
















試合の時の、強気で輝いている跡部さんが、好きでした。
俺と二人でいるときの、子供っぽい跡部さんが好きでした。














ごめんなさい、跡部さん。

ごめんなさい。








どんなあなたでも、大好きでした。













……さようなら。






















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