◆Goldleaf◆ 3
「バニー……」
まさか彼の方からそんな事を言ってくるとは思わなかったので、虎徹は驚いた。
それでもその言葉が導火線のように身体に火を点けてくる。
発火して、燃え上がって、爆発寸前になる。
「悪ぃ、我慢できそうにねぇ、ごめんな?」
と謝りながら、虎徹はクリームをたっぷり塗りつけた指をバーナビーの後孔につぷり、と挿入した。
「あっ…!」
痛いのとは違う明らかに快感を感じているような、どこか戸惑った艶のある声が耳に入ってくる。
そのまま指を根元まで埋め込み、慎重にバーナビーの感じる部分を探っていく。
両手を虎徹の首に回して、恥ずかしさからか視線を伏せ顔を逸らして堪えるバーナビーの様子が、彼自分ではそれと気付いていないのだろうが、たまらなく扇情的だった。
「ぁ…んぅ……っ」
人差し指を深く差し入れて関節を曲げると、熱くやわやわとうねる粘膜越しにこりっとする部分があった。
そこを指先で転がすように刺激すると、バーナビーが断続的に喘ぎ声を上げた。
「あっあっ…ふ、あ……ぁッッ!」
金色の下生えの中で勃ち上がりかけていた彼の性器が、ぐっと頭を擡げてくる。
肌全体が抜けるように白い彼の其処はやはり色が薄く、目が覚めるように艶やかで淡い桃色をした濡れた先端から、透明な雫が盛り上がってはとろりと滴る。
その様がたとえようもなく美しく、見ているだけで堪らなく興奮する。
虎徹は指を一気に三本に増やした。
少し内股が強張ったが、バーナビーの後孔は柔らかく指を受け入れた。
湿った淫靡な水音が耳に響いてくる。
バーナビーにも聞こえるのか、音がするたびに頬を赤らめ、どうしたらいいのか分からないというように碧色の瞳を左右に彷徨わせる。
その様子がまた愛らしくて、否が応にも興奮が高まる。
バーナビーもすっかり興奮しているのだろう、ペニスは勃起しきって、透明な蜜が茎を伝ってつうっと滴り落ち、ペニスの根元の慎ましやかに張り詰めた二つの宝玉の袋を濡らした。
……もう、我慢できない。
堪えられるだけは堪えた。
これ以上は無理だ。
この指が感じている、熱くうねる彼の中に入りたい。
繋がって揺さ振りたい。
彼を全て、自分のものにしたい。
自分だけのものにして、喘がせ、快感で彼を泣かせたい。
自分だけを欲して、自分だけに反応するようにさせたい……。
強烈な欲望と独占欲に目の前が霞む。
虎徹は指を一気に引き抜くと、バーナビーの両足を抱え込んでぐっと押し上げた。
濡れてひくつく後孔に己の猛った凶器を押し当てると、息を詰めてずぶ、と挿入する。
「…ぁあッッッ!」
バーナビーが碧の目を張り裂けんばかりに見開き、身体を強張らせた。
「バニー、悪い、力抜いてくれっ」
きゅうっと後孔が収縮して食い千切られそうになるのを奥歯を噛み締めて耐え、バーナビーの力が抜けるようにと彼のペニスを掴んで宥めるように扱く。
「あ……あぅ…んっ……っやッッ!」
バーナビーが身も世もないというように甘い声を上げた。
アナルが柔らかく緩む。
その瞬間をとらえて虎徹は肉棒を一気に根元まで突き入れた。
「うあぁぁ―ッッ!!」
バーナビーが喉を詰めて叫びながら背中をぐっと反り返らせ、全身を痙攣させる。
その逃げかける腰を引き寄せて、己のモノが全てバーナビーの体内に入り込んだのを確認する。
「バニー、バニーっ、大好きだ…」
必死で衝撃に耐えようとしている姿に愛おしさが溢れた。
堅く閉じた瞼。
細かく震える長い睫。
上気した桃色の頬、半開きになった濡れた赤い唇。
深々と繋がったまま一旦動きを止めて、虎徹は右手を伸ばしてバーナビーの額に乱れ掛かった前髪をそっと払った。
そうして額に軽く口づける。
そこから鼻筋、目尻とキスの雨を降らせると、バーナビーが強張っていた身体の力を抜きながら、ゆっくり瞼を開いた。
間近で見れば見るほど美しく澄んだ碧の瞳が、自分を見上げてくる。
黒目の中心が濡れて潤んで、虹彩を縁取る部分が銀色にきらりと光る。
「バニー…」
呼ぶとぱちぱちと数度瞬きをして、バーナビーが唇を開いた。
「おじさん…」
か細い声が、いつもの彼ではなく、あどけなく頼りなく感じられ、そこがまた可愛らしくてたまらなくなる。
「大好きだ…」
頬に何度も口付けながら囁くと、彼の目尻から透明な涙が一筋滴った。
「僕も、…僕も好きです。…あなたが好き…」
『好き』という言葉はなんと力があるのだろう。
いや、バーナビーから発せられたから、こんなに心が打たれるのだろう。
嬉しくて虎徹は思わず鼻の奥がツンとした。
――泣くな、俺。
いい年して恥ずかしいじゃねぇか!
「うん、大好きだ…」
思わず泣きそうになる感情を、言葉にする事で押さえながらも、頬に触れていた唇をバーナビーの唇に深く合わせる。
「んん……ッ」
今度はバーナビーの舌も積極的に応じてきた。
舌同士を絡ませ合い、味蕾を擦り合わせ、互いの口腔内で蠢かせあう。
じんじんと痺れるような快感が、繋がっている口と下半身と両方から同心円状に広がり、全身がかぁっと熱く沸騰する。
たとえようもない至福感が込み上げてきて、虎徹はその情欲の昂ぶりのままに動き始めた。
「うっ、あ、ッんっ…っ、あ、あっ、お、じさんッッ、あ、やッッ!」
一旦動き始めるともはや止められなかった。
今まで十分過ぎるほどに我慢してきたのだ。
バーナビーの身体を乱暴に揺さ振り、深く埋め込んだ楔を抜け落ちるほどに腰を引いてはリズミカルにぐっと突き入れる。
その度にバーナビーの白くしなやかな身体がベッドの上で悶える。
抱き締めれば、いきいきとした躍動感を感じさせるその肢体が、虎徹に応えて内部で虎徹を締め付けてくる。
まさに貪るという表現がぴったりだった。
互いの荒い息づかいと、ベッドの軋む音、それに肌同士の打ち付け合う音が部屋中に満ちる。
空気も温度が上がり、濃度も濃くなったような気がした。
「あっあ、あっ、おじ、さんっっ、んく…っ、あ、っ」
「名前、名前読んでくれよっ、バーナビーっ」
込み上げる情欲に任せて虎徹の方から彼の名前を呼ぶと、バーナビーが目を見開いた。
返事のように虎徹の首に回した手に力を込めてしがみついてくる。
「んっ…好き、好きです、こてつ、さん…っ」
名前を呼ばれた途端、背筋から下半身にかけて稲妻のように快感が貫いた。
一気に全ての神経がペニスに集まる。
目を固く閉じ、バーナビーの身体を強く抱き締めながら虎徹はバーナビーの熱い体内奥深くに熱情の証を迸らせた。
目も眩むような瞬間が終わると、たとえようもなく満ち足りた幸福感と充実感が虎徹を包んだ。
バーナビーも射精したらしく、臍の辺りが熱く濡れていた。
ゆっくりと自身を引き抜いて、震えるバーナビーの身体をそっと抱き締める。
そのままあやすように乱れた金髪をくしゃっと撫で、ベッドにごろりと横になるとバーナビーを抱き寄せる。
バーナビーもはぁはぁと息をしていた。
密着した肌が互いの汗で更にしっとりと触れ合い、その感触もうっとりするほど心地良い。
全身が射精の達成感と相俟って、虎徹は夢を見ているような心持ちだった。
「バーナビー…」
もう一度名前を呼んでみる。
虎徹の胸に頭を凭れていたバーナビーが、ゆっくりと顔を上げた。
乱れた金髪が額や頬に貼り付いてぐしゃぐしゃだ。
けれどそれがまたとても可愛い。
泣いたからだろうか、潤んではれぼったい碧の瞳が自分を見てくるのがまた可愛くて、胸がきゅっとなった。
「虎徹さん…好き、です…」
バーナビーが甘えるように囁いてくる。
じぃんとなって虎徹は再度泣きそうになった。
こんな幸せを感じる事ができるなんて。
もう二度とそんな事はないと思っていたのに。
そう思うと鼻の奥がますます痛くなって、堪えきれなくなった。
バーナビーが碧の瞳を細めて微笑した。
彼の手が、自分の髪を撫でてくる。
「あなたが泣くなんて…」
「べ、べつにっ、泣いてねぇ…」
けれど、やはり泣いていたのかもしれない。
鼻の奥がつんつんしてたまらない。
こんな幸せな瞬間なのだから、泣いてもいいじゃないか…。
好きな相手がいて、その相手も自分を好きだと言ってきてくれて、繋がって世界を共有する。
世界が一新して、見る物全てが新しい。
髪を撫でてくるバーナビーの手に自分の手をそっと添えて、虎徹は再び、唇を重ねた。
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