◆撮影します!◆








「うっひゃー、しっかし、よくやるねぇ…すごいよ、バニー…」
さっきからグラビア撮影が続いている。
俺はバニーの水着姿を見ながら、半ば呆れていた。
いやまぁ、バニーが美しくて身体もすげぇイイのは分かる。
顔も身体もいいし、まぁ芸術作品みたいなもんだろ、だから、鑑賞したいってのもなんとなく分かる…けどさぁ。
でもあれ、本人いやがってないし。
こういうの抵抗ないんだ、バニーちゃん…すげぇよ…。
と感心しきりだった。
俺なんか、すげぇ露出の少ない水着でも恥ずかしい。
いたたまれねぇ。
「じゃ、次、全裸行きます。バーナビーさん、水着脱いでください」
………はい?
おいおいちょっと待った!全裸ってなに、全裸って!!
「分かりました」
って、分かりましたじゃないだろっ、なに水着脱いでんだよ!!
俺がぎょっとしたように固まってるのに気付いたのか、スタッフが申し訳ないというように笑って説明してきた。
「あれ、事前に言ってなかったですか?今回の撮影は水着と全裸なんですよ。あくまで芸術性を志向した作品にしますので、安心してください。局部はモザイク掛けるから心配要りません」
いや、心配要らないからいいってもんじゃねぇだろ、バニ−ちゃん!!
と思ったけど、バニーは全く抵抗ないようでさっさと全裸になって、しかもスタッフの言う通りにポーズなんかとっている。
ソファの上にしどけなく座って、足を開いて片足を曲げて寝そべって。
「はい目線こっちで…はーい、いいですよ、次は俯せでお願いします」
大勢のスタッフの前で平然と全裸を晒してポーズを取るバニー。
……すげぇ。
なんつうか、俺はまたバニーの新たな一面を見た気がした。
おじさんは恥ずかしくて目のやり場がありません……。
バニーの可愛いお尻とか、引き締まった腰とか、ぽやぽやした股間の陰毛とか、勃起して無くてもでかくて立派なチンコとか全部丸見えなんですけど。
っていうか、見えてても気にしてないバニーがすごすぎる。
「はーい、OKです。じゃ、次はタイガーさんとの絡み行きますね!」
………はい??
「じゃ、タイガーさんも全裸でよろしく」
……
…………
………………
――いや。
いやいやいやいや。
無理だから!
絶対無理!!!!
俺が固まったまま呆然としていると、スタッフが困ったような笑顔で近寄ってきた。
「タイガーさん、これはあくまで芸術なんですよ?いやらしくなく、男同士のコンビ愛を、でもぎりぎりのエロスで撮る。そのために、撮影スタッフも厳選してあります。いつも市民のために身体を張って頑張ってくれている二人の健全な肉体美をあます所無く魅力的に、そして二人の強固なコンビ愛を肉体的美に込めて…ってのがコンセプトなんです。聞いてないですか?」
……はい、聞いてないです!
バニーが全裸のまま寄ってきた。
チンコぶらぶらさせないでくれる、怖いんですけど、おじさん…。
「虎徹さん、やっぱり説明聞いてなかったんでしょ」
近寄って小声で囁かれた。
「これすごくギャラがいいし、撮影してくれる方も芸術的なエロスを追求する方で有名な人なんですよ、だから安心してください」
いや、安心って、そういう問題じゃなくて!
おじさんの常識から考えたら無理なの!
「しょうがないですねぇ…」
バニーが溜息吐いて肩を竦めた。
「すいません、タイガーさんにポーズとってもらうのは無理なんで、とりあえずタイガーさんは寝てるとか動かないでいて、僕がいろいろポーズ取って動くってのでいいですか?」
「あー、そうですね…まぁしょうがないですかね」
「はい、許可もらいましたから、貴方はただ寝ててくれればいいです、でも水着は脱いでもらわないとダメですよ」
えー、いや、おじさんだから、無理だから!
お願い、バニーちゃん、許して…!!
と必死にバニーにすがったけれど、勿論無理だった。
バニーって仕事に対しては容赦がない。
どんな仕事でも完璧にきちんとクライエントの要求に応える。
「……… 」
「そんなもじもじしないでくださいよ…」
「いや、恥ずかしいから…」
仕方が無く顔から火が出る思いで水着を脱ぐ。
股間を隠してこそこそと猫背で歩いて、指定されたソファに俯せに寝転がる。
股間が隠れてほっとする。
「こ、れでいいんだよな、これ以上無理だからな!」
「これでいいですか?」
「はい、バーナビーさん、ありがとうございます。じゃ、ポーズ行きますね。バーナビーさんがタイガーさんのお尻に口付けするような恰好で身体を屈めて座ってくださいー」
「はい」
バニーが俺の尻に手を掛けて顔を寄せてきた。
だから、なんでそんなに乗り気なの!
こういうの、好きなのバニーちゃん!!
「はい、そうです、タイガーさん、お尻綺麗ですねぇ、すごく美しいですよ!」
ぞぞぞっと背筋が総毛立った。
いや褒められても、嬉しくないから。
「じゃ、次はバーナビーさんがタイガーさんの顔の方に座って、キスするみたいな感じで顔近づけてください」
っていうか、なんでそういう際物っぽい写真ばっかり撮るわけ!
「あ、そうそう、タイガーさんの顎に手を掛けて、ってタイガーさん、恥ずかしがらないでください!こういうのは恥ずかしがると変に嫌らしくなっちゃうんですって」
怒られた…。
「あー、じゃあ、タイガーさんの顔が映らないようにしますから。バーナビーさん正面でタイガーさんの顔に被さるような感じでキス寸前よろしくお願いします」
………恥ずかしすぎて涙が出てきた。
何枚か撮影してあまりの恥ずかしさにえぐえぐと泣き出すと、バニーがあれれって顔をした。
スタッフと顔を見合わせて肩を竦めている。
スタッフが苦笑した。
「はいはい、撮影終わりです。すいませんでしたね、タイガーさん。もう服着ていいですよ?」
服を渡されて俺は速攻それをもぎ取った。
泣きながら下着を穿き、シャツを着てズボンを穿く。
ネクタイも締めてベストも着るとようやく落ち着いたが、それでも涙が止まらない。
バニーが肩をぽんぽんと叩いてきた。
「貴方には刺激が強すぎでしたか?初心で可愛いですけどね」
「本当ですね、タイガーさんがこんなに可愛いなんて、知りませんでしたよ」
スタッフがにこにこしながら言ってくる。
「恥ずかしがってる感じもすごくいいので、いい写真が撮れました。楽しみにしていてくださいね?」
「………」
「僕も楽しみですよ」
ははは、とかなんとか笑いあってるバニーが怖い。



俺もバニーの爪の垢でも煎じて飲まないとダメなんだろうか。
バニーって凄い。
おじさん、KOHにならなくて良かった…。










「虎徹さん、あの写真集、すごい売れ行きだそうですよ?良かったですね、これで賠償金とかにも気を遣わなくてすみますしね!」
写真集が発売された後、バニーが嬉しげに言ってきた。
手には雑誌がある。
「ほら、これとかどうですか?」
―――いやぁ!!!見たくねぇ!!
白黒に加工された写真で、俺がソファに寝っ転がっていて、上からバニーが身体を屈めてキスをしようとしているやつ。
確かに、嫌らしくはねーけど、……芸術作品みたいにはなってるけど、俺の身体もなかなか悪くなく筋肉ばっちりとれてていいけど……でも。
「この危うい感じがいいですよね。コンビ愛ぎりぎりって感じの所上手に撮れてると思いませんか?」
バニーがしげしげと写真を見て瞳を細める。
「なぁバニーちゃん、こういうの恥ずかしくねーの?」
おずおずと聞いてみるとバニーが小首を傾げて『?』という顔をした。
それからにっこりと笑う。
「前からモデルやってましたからね。慣れてますよ。それに仕事ですしね?」
「……そうなの…」
「でも貴方には恥ずかしがっていて貰いたいかも」
バニーが顔を近づけて俺の耳に息を吹き込みながら囁いてきた。
「恥ずかしいからって泣いた貴方とても可愛くてたまりませんでした…。スタッフもみんなそう思ってましたよ?僕、あのあと、あなたが全裸で泣いている写真もらいましたから。なんかこっそり撮ってたみたいですよ。素敵な写真ありがとうございます」
「………!!なに、それ!!」
「あははっ、まぁいいじゃないですか、それ使われたわけじゃないんですから。それにスタッフにも確実にタイガーファン増えましたよ?」
いやいやいやいや!
そういうファンいらないから!!
っていうか、なんかもう…。
いろいろともう…おじさんのキャパ的に無理…。
にこにこして頬にちゅっとキスをしてくるバニーにこれ以上反論する気力も無くなって、俺は項垂れて写真集を見た。


そこには恥ずかしがってやや涙目の俺と、あくまで格好よく爽やかなバニーが映っていた。








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