◆Dendrobiums(デンファレ)◆ 3
もう駄目だ。
ぞくぞくと背筋が震え、津波のように絶頂感が押し寄せてくる。
高まるそれを一気に吐き出そうとした所を、しかし、バーナビーが押しとどめてきた。
イきそうになったペニスの根元を強く握りしめてきたのだ。
イきかけた所を堰き止められて、虎徹は思わず呻いた。
「ひっでぇー!バニーちゃん、なんでっ?」
「おじさんだけ駄目ですよ。我慢してください」
「そ、そんなぁ…」
笑い混じりの声に、思わず涙目で彼を見ると、バーナビーはペニスから唇を離して、膝立ちになっていた。
ぎゅっと潰れるほどに握りしめられて、折角の射精衝動がしぼんでしまう。
それどころか、痛くて、思わず涙がぽろっと目尻から零れ落ちてしまった。
「ふふ…」
そんな虎徹を見ながらバーナビーは、テイクアウトの箱の中に入っていたマヨネーズの小さな容器を取り出した。
(…………)
何をするのか。
見ていると、マヨネーズを指に盛り上げるように絞り出して、その手を尻の方へと持って行く。
グチュ…。
微かな音がして、バーナビーが秀麗な眉を寄せる。
「ん……ッ」・・
どうやらアナルをほぐしているらしい事が虎徹にも分かった。
(おいおい、…って…マジで…?)
膝立ちになったバーナビーの全裸を、虎徹はまじまじと眺めた。
真っ白な肌が全体に火照って上気して、乳首もぷくりと桃色に勃ちあがっている。
そこから腹筋がしなやかについた逞しい上体を見下ろすと、引き締まった臍が見え、その下に、濃い金色の陰毛に縁取られた彼のペニスが腹につくほどにそそり立っている。
そこも色が薄く綺麗な桃色で、亀頭からは透明な密がしとどに溢れている。
ぴくぴくと脈打つソレ、その背後で蠢く手。
そんなものを見ていると、これは現実なのかそれとも夢なのか、自分の前にいてこんな淫靡な痴態を晒している彼は本当にバーナビー・ブルックスJR.なのか、頭が混乱してくる。
惚けた顔で見ていると、バーナビーが迫ってきた。
再度ペニスを握られる。
あっと思う間もなくずぶずぶっと水音がして、自分のペニスがバーナビーの体内に潜り込むのを虎徹は呆然と眺めた。
虎徹を跨いでバーナビーが腰を沈めてくる。
「ァ……う……っ」
形の良い眉を寄せ、赤い唇を半開きにして、熱い吐息混じりの声を上げる。
「あ、はぁ…ふ…ぅ…ぁあ…んっ」
声の調子を聞くだけでぞくっと総毛だって、虎徹は我慢できなくなった。
熱くうねるように締め付けてくる粘膜の動きに、それだけでペニスが持って行かれそうだ。
身体中の全ての血が股間に集まっていって、まるで貧血のように目の前が暗くなる。
全身が欲望のために震えて、身体全部が一本のペニスになったように感じる。
「あっ…あっあっ…!」
欲望のままに虎徹はバーナビーを下から突き上げた。
途端にバーナビーが顔を揺らしながら切なげな喘ぎ声を上げる。
その声にもますます興奮させられて、虎徹ももう訳が分からなくなっていた。
下から腰を突き上げて、バーナビーを揺さ振る。
彼の引き締まった腰に手を当て、両手で掴んで自分が下から突き上げると同時に彼の身体を下に降ろして深く貫く。
「あっ…あうっ…あぁ…い、イイっ!」
これは現実のことなのだろうか。
今自分が揺さ振っている人間の顔を見る。
紛れもなく自分がコンビを組んでいる、バーナビーブルックスJr.だ。
癖のある金髪、美しい緑の瞳。
半開きになって唇の端から零れる唾液。
いかにも気持ち良さそうに自分からも身体を動かしては、深い結合を望むように背中を撓らせる。
女のようには乳房のない平坦な胸が突き出され、それがやはり男である事を知らしめてくる。
確かに今自分が抱いているのは、バーナビーだ。
そう思うのに、どこか非現実的だった。
「あ………ひっ、い…イイっ…イイ、ですっ…おじさんっ、もっと、もっと深く…来てっ!」
強請ってくる声も、確かにバーナビーの物だ。
でも、いつもの冷たさを感じさせるような声ではない。
上擦った、艶のある切羽詰まった声だ。
虎徹が下から突き上げると、バーナビーがそれに合わせて腰を下ろしてくる。
肉同士の擦れ合う淫靡な音がして、彼の中に深々と虎徹の楔が入り込む。
虎徹の腹に両手を突き、バーナビーが腰を上げて楔を身体から抜け落ちるほどに抜く。
すぐに腰を下ろして、そうしてリズミカルに彼が自分の身体の上で動く。
彼が身体を上下させるとともに、彼の股間で勃ちあがっているものも揺れ動く。
その光景は、バーナビーが普段はまるで性の雰囲気を感じさせない硬質なストイックな雰囲気を持っているだけに、一際淫靡だった。
瞬きも出来ずに、その媚態を眺める。
きゅう、と熱い内部に締め付けられ擦られて、虎徹も堪えきれなくなる。
腰骨をがっしりと押さえ込んで力任せにバーナビーの身体を降ろすと、バーナビーが顎を仰け反らせ上体を硬直させた。
「ひぁっ……んあっあ――っ!」
高い声音の悲鳴があがる。
くるりとした金髪が宙に舞い、白い身体が桜色に染まって仰け反る。
ひくひくと痙攣する白くしなやかな体内に、虎徹は己の欲望を叩き付けた。
白く淡い光がぼんやりと瞼に射し込んでくる。
目を開けると見慣れたいつもの天井が映った。
低い位置にある窓からの光がぼんやりと天井に反射している。
穏やかな朝だ。
心地良い寝覚めに虎徹は寝汚く身体を丸めた。
が、昨日の出来事を思い出して、次の瞬間がば、と起き上がった。
焦って周りを見回す。
寝室に虎徹一人だった。
周囲を見回して昨日の痕跡が何も無いのを確認してほっとする。
確か昨日は、虎徹が射精するとほぼ同時に射精してそのままくったりとなったバーナビーの身体を綺麗に拭き、このままでは駄目だろうと彼のアナルに指まで入れて後始末をした。
それから部屋を見回して客用のバスローブを探し出してそれを着せ、シーツを綺麗に直してから眠ったのだ。
あまり片付けてしまうのもどうかと思ったが、痕跡を残しておくのが怖かった。
彼にはバスローブを着せたが、自分はボクサーパンツ一枚だった。
上体を起こして頭に手をやり、乱れた髪をくしゃ、と掴んで眉を寄せる。
と、寝室に上がる階段を上る音がして、階下からバーナビーが顔を覗かせた。
「おはようございます」
「あ、おはよ…」
冷静ないつもの声で挨拶されて、虎徹の方がどぎまぎした。
「朝食の用意をしました。食べませんか?」
「あ、そ、そう…はいはい、じゃあ…」
昨日のことには何も言及が無く拍子抜けがする。
所在無げにきょろきょろとしながら立ち上がって、虎徹はリビングに行った。
バーナビーが普通に服を着ているので居心地が悪くなり、自分もととりあえずボトムとシャツを羽織る。
階下に降りると、キッチンから適当にものを漁って作ったのか、リビングの低いテーブルに、ぱりっと香ばしい匂いをあげるフランスパンの籠、それにスクランブルエッグにサラダ、ミルクとオレンジジュースが乗っていた。
「へぇ…ちゃんとした飯作れんだな、ちょっと安心したわ…」
バーナビーが用意してくれた朝食はシンプルだが美味しかった。
食べながらそう言うと、バーナビーが肩を竦めた。
「別に普通ですよ。そんな手の込んだものは作れませんからね」
そっけない突き放したような言い方がいつものバーナビーだ。
なんとなく昨日の事が話せずそれとなく彼を窺うと、バーナビーの方から言ってきた。
「そういえば昨日はどうもすいませんでした。あのぐらいの酒であんなに酔ったりしないはずなんですが、何故か昨日は酔ってしまいました。途中から記憶がないんです。おじさんが僕をベッドに連れて行ってくれたんですか?」
「あ、そう。覚えてねーの…」
彼の様子からして覚えてないだろうとは思ったが、実際口に出して言われると拍子抜けすると同時に何故かがっかりした。
その気持ちが声の調子で分かったのだろう、バーナビーが形の良い眉を顰めtあ。
「僕何か変なことしませんでしたか?」
「あー…、いや、特にはその…してねーっていうかな…」
歯切れ悪く応えるとバーナビーが更に眉を寄せた。
「やっぱり何かしたんでしょうか。おじさんに失礼な事をしたとしたら謝ります」
「あー、いや、別に失礼な事とかしてねーから、うん、気にすんな。酒に酔ったお前が見られて楽しかったかも」
「なんですか、その楽しいっていうのは?」
バーナビーがうさんくさそうに見てくるが、機嫌は悪くないらしい。
少し肩を竦めて虎徹を一瞥してから、唇を少しだけあげて笑った。
(なんだ、まるっきり覚えてないのかよ…ってまぁそれはそれで一安心だけどな…)
――でも、なんだかとても残念だった。
バーナビーに合わせて笑いつつも、内心はとっても複雑で、虎徹は困惑するばかりだった。
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