◆Addiction◆
「――うあぁぁぁっ!」
自分の声が炎の中に響く。
炎に包まれて、サマンサが、マーベリックが、自分が信じていた人たちが両親殺害の犯人に成りかわる。
最後に拳銃を握って笑っているのは自分だ。
自分が……犯人なのか?
あぁ、そうかも知れない。
何も分からない。自分が一番信じられない。
今まで唯一の拠り所は自分だったのに、その自分が一番、自分にとって敵なのか。
――怖い。
どうしたらいい。
胸がばくばくして、息が吐けない。
突然不安が全身に広がり、心臓が迫り上がってくる。
身体中がさっと冷える。
いっそ気が狂ってしまった方がラクだ、いや、死んでしまった方が……。
「あぁぁ―ぁっ!」
耐えきれなくて、叫ぶ。叫んで、耳を手で覆って、激しく振る。
「おい、バニー!」
突如、強い力で揺さぶられた。
はぁはあと全身で息をしながら、藻掻く。
離せ。誰だ。僕をつかまえようとするのか、あぁ僕が犯人だからか…?
両親を殺した犯人は僕だからか…。
「バニー!」
頬に鋭い痛みが走って一瞬目の前に火花が散った。
はっとして目を上げると、漸く焦点の定まった視界に、見慣れた顔が映った。
さっき炎の中で、一人だけ心配そうに自分をみて駆け寄ってきてくれた人だ。
「虎徹さん……」
「どうしたバニー、大丈夫かっ!」
「なんで、ここに…?」
「自宅にいたんだがなんか胸騒ぎがしてな…。お前の事がすげぇ心配になって、居ても立っても居られなくなった。それで来てみた…。前に合い鍵貰ってたからな、それで悪いが入らせてもらったぜ…」
目の前に虎徹がいる。
真摯な目で自分を見ている。
炎の中で一人だけ覗き込んできてくれていた目だ。
思わずすがろうとして、しかしバーナビーは息を詰めた。
いや、ダメだ。怖い。
拳銃を持っていた自分を思い出す。
自分が信じられない、何をしでかすか分からない。
拳銃を持って、殺人をしていた炎の中の自分のように…自分の行動が分からない。制御できない。
「バニー…?」
「帰ってください…」
「こんな状態で帰れる訳ねぇだろ…どうした?」
「心配要らないですから」
「心配要らないとか嘘吐くな!」
「……うるさい!」
「バニー!」
うるさい。
うるさいうるさいうるさい。
頭の中がぐるぐると混乱する。
恐怖が喉元まで迫り上がってきて、悲鳴を上げそうになる。
怖い。自分が、今までの全てが。
自信が無い。
自分に自信が無い。何をしでかしてしまうか分からない。
「……バニー…」
宥めるように撫でてきた手を振り払い、バーナビーは虎徹を突き飛ばした。
「うあっ!」
虎徹が床に肩から頽れる。
瞬間、爆発するように怒りが燃え上がった。
ダメだ。何をするか分からない。
これ以上、彼に近付いてはいけない。
そう思ったのに、身体が勝手に動いた。
床に崩れた虎徹を思い切り蹴り上げる。
「あぁっ…うあっ……あ、ッぅ…ぁぁっっ!」
苦しげな声を聞いて理由もなく興奮する。
ドカドカッ、と何度も蹴り上げれば、その度に虎徹の身体が苦悶し、身体を丸めて少しでもバーナビーの蹴りから逃れようとする。
それを眺め、はぁはぁと全身で息をして、バーナビーは顔を激しく振った。
ダメだ。何をしているんだ。
こんな事やめなくては、と思うのに、身体は更に暴力的な行為を続けてしまう。
何度も何度も蹴り上げて、それでも収まらなくて、虎徹の襟首を掴むと俯せに突き飛ばす。
ベルトを抜き取って、ボトムを膝までぐっと降ろさせる。
虎徹がはっとして振り返ってきた。
涙で濡れた琥珀の瞳がじっと自分を見つめてくる。
見るな。
お願いだから、僕を助けて…。
違う、そうじゃない。
僕を見捨てろ。
近寄ってこなくていい。もう十分だ。
貴方にはこれ以上迷惑を掛けられない…なのに、貴方がいないと僕はダメだ。
どうしたらいい。
背後から腰を掴み、何の準備もしていないソコに、自分の熱い凶器を突き立てる。
「…あぅっっっ!」
虎徹が苦しげに目を閉じた。
堅く窄まったアナルを引き裂くようにして性器を突き入れれば、自分の先走りだけを潤滑剤としてぎりぎりと貫かれるアナルは傷ついて、鮮血を滴らせる。
ぬるりとしたその鮮血が潤滑剤となって、そこからは一気にペニスを挿入する事ができた。
虎徹の全身が震え、その震えを手から感じて、バーナビーは凶悪な情欲を感じた。
情欲が、恐怖や恐慌を紛らわせてくれる。
もっと。
もっと……。
貴方しか、僕を助けられる人はいないんだ…。
お願いだから、助けて…。
グチュグチュと粘膜と血の擦れ合う音を響かせながら、ぐっとペニスを奥まで突き入れては引き抜き、その度に虎徹の身体を激しく揺さぶる。
がくがくと揺さぶられて、虎徹が苦しげに首を振る。
帽子は吹き飛び、乱れた黒髪が宙に舞う。
シャツをたくし上げて、脇腹を思い切り掴んで抓るようにしながら自分の方に乱暴に引き寄せ、深々と虎徹のアナルを犯す。
「あぁ……っ…あっく…っ…」
虎徹が切れ切れに呻く。
いつもの彼の口調ではない、どこか途方に暮れたような、そんな喘ぎにぞくぞくと身体の芯が疼く。
その疼きが体内を駆け巡っていた恐慌を鎮めてくる。
鎮めて、それをセックスの悦楽に変えてくる。
背後から覆い被り、虎徹の腰を引き上げては落とし、腰を撓めて回して内部のしこりをぐりっと抉ってやる。
「く、―ぁぁっっっ!」
虎徹の苦悶の声が甘く変化する。
語尾を上げてどこか泣くような声が、甘く部屋に響く。
シャツを肩までたくしあげると、背中に赤く痣ができていた。
蹴った痕だ。
そこを指でぎゅっと抓ってやると、あぁぁ、と、痛みに苦悶する声をあげる。
すぐさま前立腺を抉れば、その苦悶が崩れて嬌声になる。
血で滑りが良くなった内部はすっかり解れて、バーナビーの堅い凶器を受け入れてはやわやわと絡みついてくる。
快感に全身が震え、頭の中が霞む。
不安と恐慌が薄れ、快感で頭が塗り替えられる。
――もっと、もっと欲しい。
まだ、足りない。
内部にずぶっと突き入れぐりぐりと掻き回しながら、そこに射精する。
数度精液を流し入れ、引き抜いて、虎徹を床に放り投げるようにする。
ぐったりと俯せのまま虎徹が倒れる。
その後頭部を掴んで仰向けにさせ、着ていたベストやシャツを乱暴に剥いでいく。
「…バ、ニー…?」
全裸にさせ、自分も服を脱いで全裸になると、バーナビーは今度は前から虎徹に圧し掛かった。
「…バニ、ちゃん…」
虎徹が弱々しく喘ぐ。
全裸にした虎徹の身体は先程蹴りつけた時にできたらしい赤い痣が諸処について痛々しかった。
自分がつけたのだと思うと興奮した。
顔を覗き込む。
涙で濡れた瞳が自分を見上げてくる。
「バニー……だいじょぶ、か?」
そう言ってくる虎徹にバーナビーは瞳を細めた。
なんでこの人は、こんな時まで自分を気遣ってくるのだろう。
思わず自嘲して、それからバーナビーは虎徹の両足を掴んで乱暴に広げさせると、傷ついて入り口から血と精液の混ざったピンク色の粘液を溢れさせているアナルに再度ペニスを突き入れた。
「うぁぁぁ……!」
虎徹が一瞬目を見開く。
苦悶に震えるその表情を見てようやく安心する。
ずっずっと突き入れては引き抜き、引き抜いては突き入れて執拗に抜き差しを繰り返す。
虎徹が白目を剥いた。
身体の力がくったりと抜ける。
操り人形のようにがくがくと自分が揺さぶるのに任せて、身体が力無く揺れる。
頬を数度叩いて、正気を取り戻させる。
「あ、…あっ…」
目の光は戻ったが、唇端が切れたらしく、血を垂らしながら虎徹が譫言のように喘いだ。
「虎徹さん、……虎徹さん虎徹さん」
名前を呼ぶと少しだけ安心した。
「虎徹さん……」
呼びながら激しく揺さぶる。
再度奥深くにペニスを突き入れてそこに二度目の射精をする。
虎徹がぴくぴくと身体を震わせ、がくりと頭を垂れた。
繋がったまま体重を虎徹に預けて息を吐く。
はぁはぁと全身で息をすれば、どうやら恐慌は去ったらしかった。
少しだけ、ほっとした。
「バ、ニ…」
身体の下で身じろぎして、虎徹が掠れた声を上げてきた。
頬が赤く腫れ、目元も涙で濡れそぼって唇端から血を流して自分を見上げている。
「…バニー……」
虎徹の手が震えながら自分の頬を撫でてきた。
「ごめん、な……さっき、叩いた……」
そう言ってそっと撫でられる。
急に後悔が襲ってきた。
胸が詰まって涙が零れる。
急いで離れようとするが、虎徹が反対に抱き締めてきた。
「ごめん…バニー…」
「なんで謝るんですか。…あなたにこんな酷い事したのに…」
「いいんだ、バニー…」
虎徹が震える声で言ってきた。
「…お前は、今、小さな子供みたいなもんだ。だから、いいんだ…」
「虎徹さん…」
「小さい子供ってのはな、自分が寂しければ泣くし、腹が減れば泣く。大人のことなんか気にしなくていいんだ。俺は大人で、お前は今、子供だ…」
しゃべると泡の立った鮮血が顎髭に垂れていく。
「お前は俺にどんな酷い事してもいい。お前は今子供で、俺がお前の傍に居る。俺に甘えて我が儘言って、なんでもぶつけていいんだ。罪悪感なんかいらねぇよ…バニー…お前は俺に何をしてもいい…ごめんな、…ごめん…大丈夫だ。バニーは大丈夫。お前なら大丈夫…」
「貴方を殺してしまうかも知れない…」
「なんだそんな事気にしてたのかよ…?バカだな」
虎徹が微かに笑った。
「大丈夫だ。俺は強い。お前に殺されたりなんかしやしねぇ。だからそんな事気にせず俺にぶつかって来いよ。もっともっと…もっと甘やかしてやる。安心していろよ…」
「虎徹さん……」
「ほら、大丈夫だろう?」
本当にそうだろうか。
この人はこうやって自分を安心させておいて、突然どこかに行ったりしないだろうか。
安心してもう大丈夫って思って、その上で居なくなったら…もう、耐えられない。
居なくならないだろうか、……分からない。
そんな事、いくら大丈夫と言われたって分からない。
分からないけれど、この人しか自分にはいない。
他に誰もいない。
誰も信用できない。自分自身でさえも。
唯一、この人だけなのに…。
ダメだ。自分が保てない。
この人が居なくなったら、自分はもうダメだろう。
ダメなのに、それでも生きていかなければならないとしたら、どうしたらいいんだ。
でも、この人はもしかしたらそういう残酷な事を、自分に強いてくるかもしれない…。
「虎徹さん…」
虎徹が弱々しく笑って、再度足を広げてきた。
「ほら、もう一回やろうぜ?バニーちゃん若いからできるだろ…。俺のこと好きにしていいから…安心しろよ…」
頭がふらつく。
そうじゃない…そうじゃないのに…。
そんな風にすがりたいわけじゃないのに。
セックスで誤魔化せるようなものじゃない…のに。
でもペニスは三度勃起していた。
誘われるままに濡れた孔に挿入すると、恐怖も懊悩も、……何もかもが消えていくような気がした。
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