◆スクープ☆ヒーロー恋愛事情◆ 2







午前中なんとかその日のノルマである事務を終わらせて昼食を摂り、午後はジャスティスセンターにあるヒーロー専用のトレーニングルームへと虎徹は足を向けた。
着替えてトレーニングルームに行き、暫く器具を使って運動をする。
虎徹が来た時にはトレーニングルームには誰もいなかったが、運動をしている間に、ヒーロー仲間が2人、3人と集まってきた。
「よ、虎徹。これ見たか?」
虎徹が一休みしてベンチに腰を掛けてスポーツドリンクをすすっていると、そこにロックバイソンことアントニオ・ロペスがやってきた。
「……ん?」
顔を上げると、手には虎徹が朝購入した写真週刊誌がある。
「なんだよ、お前も買ったのかよ?ほら」
虎徹も尻に敷いていた写真誌を掲げて見せた。
「なんだ、お前も買ったのかよ?考える事同じだな」
アントニオが肩を竦めて笑いながら虎徹の隣に座る。
「なになに、なによう…?」
会話を聞きつけて、部屋の隅でトレーニングをしていたネイサンも近付いてきた。
「なんだいなんだい?」
あとからトレーニングをしにきていたキース・グッドマンやイワン・カレリンも寄って来る。
「あぁ、これですか。僕も朝ちょっと読みました。会社の人が買ってきていたので」
イワンが言うとキースが、
「なになにちょっと私に見せてくれ」
と言ってきた。
「…ほら」
見せてくれと言われたので、虎徹がキースにその週刊誌を投げ渡す。
受け取ってキースが暫くじっとそれを読んでいたが、読み終わったのか顔を上げて頬を紅潮させて言ってきた。
「いやこれ、すごいね。バーナビー君は情熱的だ」
「いや、違うだろ、そうじゃなくてさ、それ、やらせだぜ…」
「え、なになに?」
そこにカリーナとホァン・パオリンも入ってきた。
「なんだ、今日はみんな集合かよ」
虎徹が呆れて言うと、
「うーん、実を言うとさ、その雑誌の話を聞こうかなと思って」
カリーナが虎徹の向かいに座って、虎徹を覗き込んできた。
「えっ、俺だって良く知んねーぞ?まぁ一つ分かってるとしたら、バニーにはその気は全く無いって事ぐらいか…」
「そうなのかい、ワイルド君?この相手の女性、とても可愛いじゃないか」
「うーん…まあ確かに可愛いっちゃ可愛いと思うんだが…」
「あらやだ、こんなの、可愛いだけの子じゃない。この子の父親って市会議員のブルーノ・ヒルデブラントよ?その地位を利用してバーナビーに近付こうとしてるんでしょ、いやらしいわぁ」
ネイサンが眉を寄せる。
「バーナビーは相手しねぇだろ?でも、結構面倒くせぇな。このアイドル、前からバーナビーの事すげぇ狙ってたもんなぁ」
アントニオが手を組んで顎を撫でる。
「あ、僕もそれはそう思います。テレビとか見てるとすごいバーナビーさんの事好き好きって言ってるし、ブログでもすごいんですよ」
「ふうん……ってか、折紙はその子のブログとか読んでんのか」
「でもさ、バーナビーの事好き好きって言ってる子っていっぱいいるじゃない?彼、外見はいいからモテモテだし」
カリーナが首を傾げた。
「まぁそりゃそうなんだけどな…。バニーちゃんは本当大変だよ」
「彼は本名と顔出しでヒーローをしているから、プライベートがばれている状態だしね。その点大変だろうな。それになんといっても格好いいからね、バーナビー君は」
などとヒーロー仲間達でがやがやと話していると、イワンが、
「あ、そう言えばバーナビーさんの生出演する番組、それそろやりますよ」
と言ってきた。
「どれどれ、見てみるか」
アントニオがトレーニングルームのテレビをつける。
壁面に埋め込まれた大きな画面がぱっと明るくなって、バーナビーとインタビューしている女性が大映しになった。
『こんにちは、バーナビーさん、今日はお越しいただいてありがとうございました』
どうやら番組は始まったばかりらしい。
画面の中のバーナビーはいつもの釦の多い赤いスーツを着用し、普段通りの怜悧な涼やかな笑顔だった。
「こんな時に出るなんて間が悪いなぁと思うが、いつ見ても落ち着いているよなぁ…」
アントニオが感心したように言う。
『いえ、こちらこそ、呼んでいただきありがとうございます』
バーナビーがよく響く美声で答える。
インタビューは、ヒーロー業についてや最近起きた事件の話題で、和やかに会話が進められた。
が、そのうちにやはり聞きたかったのだろう、インタビュアーがそろそろいいか、という風に目を輝かせながらこう質問してきた。
『ところでバーナビーさん。バーナビーさんはクリスティアさんと熱烈交際中なんですか?』
クリスティアというのが、写真誌でスクープされたアイドルの名前だ。
直球で聞かれて、バーナビーは一瞬微かに眉を寄せ、それから肩を竦めて微笑した。
『いいえ、そんな事ありませんよ。そんな、僕になんて勿体ないような女性ですからね』
『あらそうなんですか?そんな事ありませんよ!お二人お似合いですよー。もし彼女の方からアプローチがあれば付き合うって事ですか?でも、熱々でキスをしているお写真拝見しましたけれど』
『あぁ、あれですか』
バーナビーがやれやれと言った感じで苦笑いする。
『あれはたまたまパーティで彼女と一緒になって、夜道は物騒だからと送ってあげたんですよ。彼女の家まで。ありがとうのキスがしたいというんで、僕は額か頬かなと思ってそれならと受けたんですが、なぜか唇にしてきたっていうだけですよ。まぁ、そんな事で彼女に変な噂がたっても困りますよ、なんていっても今売り出し中のアイドルで大切な時期ですからね?』
『またまたぁ、そんな事言ってぇ!クリスティアさんがバーナビーさんの事を好きなのは結構有名じゃないですか!バーナビーさんがもしOKならもうあれですよ、シュテルンビルト一の素晴らしい美男美女カップルができますよっ!どうですか?どうせならここで彼女に告白しちゃってくださいよ!告白ターイム!』
『え……?』
どうやらインタビュアーはなんとかして、バーナビーとそのアイドルをくっつけて話題を作りたいらしい。
「うわぁ、気の毒…」
ホァン・パオリンが画面を見ながら呟く。
誰の目にも、なかなかその話題から離れないインタビュアーにバーナビーがイライラしているのが分かった。
「バニーちゃんちょっといらいらしてるな、まずいな…」
「…でも、まぁハンサムの宿命でしょ。このぐらいでいらいらしてたんじゃこの先やっていっていけないわよ」
「まぁそうだけど、あんまりこういうの好きじゃねぇからなぁ、バニーちゃん」
「バーナビー君も大変だ。どうするつもりだろうね?」
「怒ったり失礼なことを言って相手のプライドを傷つけたりしたら大変な事になるし、難しいですよね、こういう場面。僕も些細な事からブログ炎上しましたし」
「ん、そうだよなぁ…」
アイドルの所属する芸能プロダクションとアポロンメディア社は付き合いが深いし、アイドルの父親自体が有力政治家だ。
そういう事を考えると無碍に袖にしたり、冷たくあしらったりしたら、反対にまずい事になる。
こういうのも躱さなくてはいけないんだろうが、それにしても大変だよな、と思いつつ、虎徹は心配になってじっと画面を見た。
するとバーナビーが、頬に手を当てて少し俯いて、小さく息を吐き憂いのある表情をした。
『本当に彼女とはなんでもないんですよ。とても素敵なお嬢さんで幸せになって欲しいと思いますけど。……実を言うと、僕、心から愛している人がいるんです…』
バーナビーが憂いを含んだ緑の瞳を上げ、よく響く低い声を更に甘く切なく響かせて言ってきた。
『ええー!そうなんですかっ!!』
思わずインタビュアーが大声を上げる。
そのぐらい、バーナビーの言い方は愁いに満ちた恋する青年という感じで、真に迫っていた。
「おいおい、なんかすげー爆弾発言してるぜ…?」
「バーナビーったら、なに言っちゃってんのっ」
画面を見ていたヒーローの面々も驚いた。
バーナビーがふっ、と溜息を吐いて目を伏せる。
そうすると、金色の長くカールをした睫が瞳に被さり、それがまた画面で大映しになると息を飲むほどに美しい。
画面越しにそれを見ているバーナビーファンの女性達の感嘆の溜息が聞こえてきそうだ。
『え…、…そ、それは…一体誰なんですか?バーナビーさんがそんなに思い詰めるほど好きなんて…すごくその人のこと好きなんですね?』
『えぇそうなんです。本当に好きで好きでたまらなくて…その人のことを思うだけで胸がいっぱいになって痛くなるし、恋ってこういう風に辛くて切ないものなんだなぁとしみじみ思わされました…』
バーナビーが顔を上げ、やや寂しげな笑顔をする。
目線を揺らし、顔を少し振って自嘲気味に言葉を紡ぐ。
『会いたい、話がしたい.…声を聞きたい…。僕の前では笑っていて欲しい…。笑顔がとても可愛いんです。泣いた顔も勿論可愛いけど。…それだけじゃなくて、…僕の事以外見ないで欲しい、僕だけのものにしたい……いつもこんなことばかり考えちゃって…』
ハンサムが愁いを含んだ表情で言うと、非常に様になる。
インタビュアーがうっとりとした表情になった。
『そ、そんなに思われている人がいるなんてすごいですね…。お名前窺っても、よろしいかしら?』
『僕の一方的な片思いなんですよ』
『そんな勿体ない…。バーナビーさんが好きっていえばどんな女性でもOKすると思うんですけど!』
『実は女性じゃないんです』
『えぇー!!』
インタビュアーが目を丸くした。
『迷惑を掛けるから黙っていようかなと思ったんですけど、でもやっぱり好きなのを我慢するって辛くて…。特にこうやって他の女性と噂とかになっちゃうと、もう切なくて。あの人が誤解してるんじゃないかって思うと悲しいんです。あの人なら、勘違いして僕に頑張れとか言いかねませんから。そういう風に誤解されたままなのは辛いんです。たとえ適わない恋でも、それでも僕はあの人のことを愛してるから。…こんな感じですね』
『い、一体それは……?」
『誰か、知りたいですか…?』
『え、えぇそれは勿論!!』
バーナビーがふっと儚げに笑った。
『僕が好きなのは、…コンビを組んでいる、ワイルドタイガーさんです…』






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