◆HONESTY◆ 4
「すっげーいいとこに住んでんな、お前」
バーナビーのマンションに来て、中をしげしげと眺めながら、虎徹が感嘆の声を上げる。
「しかしなんにもねーのなー。とりあえずさ、バニーちゃんは休んだ方がいい。シャワー浴びて来いよ」
バーナビーは、マンションの前まで送ってもらったらそこで虎徹には帰ってもらおうと思っていた。
が、虎徹が頑として頷かないので仕方が無く一緒に中に入る事となった。
更には、初めて来たというのに勝手知ったる自分の我が家という感じで虎徹がぐんぐんと部屋の中に入り、バーナビーをシャワー室に追い立てる。
溜息を吐いて簡単にシャワーを浴び、バーナビーはバスローブを羽織り濡れた髪を拭きながら部屋に戻った。
大きな嵌め殺しの窓の所で行ったり来たりうろうろとしていた虎徹が、ぱっとバーナビーの方を向いてきた。
そのまま走り寄ってくる。
「なぁバニー…今日の事とか、…俺のせいか?」
金色の瞳がじっと自分を見つめてくる。
「別に…おじさんは関係ないですよ…」
『俺のせいか』などと聞かれて、バーナビーは急激に腹が立ってきた。
確かに、実際には虎徹のせいかもしれない。
先日街に行って自分が勃たなかった、そのそもそもの原因は虎徹にあるような気がした。
虎徹にあの時拒絶された事が、かなりの傷になっているのだと思う。
しかしそれを言うと、自分が虎徹を意識しているという事を告白するようで、嫌だった。
「あなたには関係がないですから。これは僕の問題なので、もうほおっておいてください。だいたいおじさんは僕を振ったじゃないですか」
ほおっておいてくれ、までで終わりにするつもりだったのに、ついつい恨みがましい台詞まで言ってしまった。
虎徹がバーナビーの言葉を聞いて、ぱっと表情を曇らせた。
「もう、いいです。とにかくもう口を挟んでこないでください。大丈夫ですから。送ってくれてありがとうございました」
もうこれ以上言ったってしょうがない。
だいたいこれは自分の問題であって、考えてみたら虎徹を責めるとか、そういうのは筋違いなのだ。
虎徹は善良な一社会人で、自分のように行きずりの男同士のセックスで快感を得るような、そんな性癖の持ち主ではない。
たまたま自分に優しくしてくれて、何かと世話を焼いてくれるから、もしかしたら、と期待してしまっただけだ。
そんなの自分が勝手に期待してしまったもので、彼を責めるのはおかしい。
「すいませんでした…」
頭を下げて言うと、虎徹が困惑したように眉尻を下げた。
「あのさ、この間は突然だったからちょっとびっくりしちゃってさ。……俺、もう年だろ?そうそう新しい事態についていけねーんだよ。でももう大丈夫。心の準備できたから」
「…えっ?」
虎徹は真面目な顔をしていた。
「なぁバニー、お前がしてぇって言うんなら、俺で良ければするぜ?」
虎徹の腕が自分の背中に回ってきた。
抱き締められている、と分かって、途端に心臓がどくん、と跳ねる。
「バニー…」
耳元で自分を呼ぶ声がして、それから唇に柔らかく暖かなものが覆い被さってきた。
(……えっ?)
そのまま強く唇が押しつけられる。
圧に負けて唇を開くと、ぬるりと熱い舌が入り込んできた。
バーナビーの咥内を一通りぐるりと舐め回して、それから咥内で縮こまっている舌をつついてくる。
つつかれて思わず誘われるように舌を伸ばすと、味蕾同士を擦り合わされ、それから強く吸い上げられた。
「んっ……ん…」
じいん、と身体の中心が熱く疼いた。
先日見知らぬ男相手に勃たなかった時は、キスをされても嫌悪感ばかりでまるっきり身体が反応しなかったのに、今日は全く違った。
身体の奥がとろりと蕩ける。
鼻孔から虎徹の匂いが入ってくる。
香水の甘やかな香りに、彼の体臭が少し混ざっている。
舌が絡み合わさってねっとりと吸われる、その感触にもぞくぞくと背中が震える。
身体がぽっと火照って、熱を持ち始める。
舌を吸われ、唇を甘噛みされて、膝が砕けそうになる。
ぐっと抱き寄せられ、思わず虎徹にしがみつくような体勢になって身体が密着する。
彼の息使いを耳で感じ、密着した部分から彼の体温や身体の厚みを感じて、バーナビーは戦慄した。
あっという間に性器に熱が集まる。
どっどっと心臓が忙しく鼓動を刻み、アドレナリンが分泌されて火照った肌がしっとりと汗で湿るのが分かる。
すっかり興奮して、すぐにでも体内に男のものが欲しくなって、バーナビーは狼狽えた。
この間は何をしても、興奮しなかったのに、何故。
相手が虎徹だからか。
……そうとしか考えられない。
身体をぐいっと抱き上げられ、思わず虎徹の首に両腕を回す。
そのまま寝室のベッドまで運ばれ、ベッドの上に降ろされる。
事態の展開についていけず、呆けたまま虎徹を見上げると、彼は着衣を素早く脱ぎ捨てている所だった。
褐色の艶やかな肌に覆われた逞しい裸体が露わになる。
ドクン、と血がうねって、股間が痛いぐらいに疼いた。
思わず眉を顰め、その衝動をやりすごそうとする。
バーナビーの性器は、バスローブを掻き分けて袷の間からそそり立つほどに勃起していた。
全裸になった虎徹がバーナビーに近付いてくる。
無意識に後退ると、虎徹が苦笑した。
「もしかして今日はその気になってねぇ?…って事はねーよな。…俺じゃ嫌か?」
後ずさりはしたが、バーナビーの股間を見下ろしてペニスが勃起しているのを見て、虎徹が瞳を細める。
「バニーちゃんがその気があるんだったら、続けるけど…」
……どうしよう。
勿論その気はある。
というかやりたくてたまらない。
バーナビーの目は、虎徹の股間に吸い付けられていた。
浅黒く健康的な引き締まった下腹部に、黒々と陰毛が茂り、そこから彼のペニスが半勃ち状態で垂れ下がっている。
そこはいかにも虎徹らしくすっきりと形が良く、桃色に艶やかな丸い先端を見るだけで、ごくりと喉が鳴った。
「やりたくねぇっていうわけじゃねーよな?」
その表情を見て、虎徹が首をちょっと傾げて笑う。
「まぁさ、俺、男とヤるの初めてだから、下手でも我慢してくれよ?」
そう言いながら虎徹がベッドに乗り上げてきた。
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