◆スクープ☆ヒーロー恋愛事情◆ 4
次の日からというもの、タイガー&バーナビーの話題がテレビや雑誌を賑わすようになった。
なんと言ってもバーナビー本人が熱烈な告白をしてしまったのだから、これに飛びつかないマスコミはいない。
バーナビーの方は以前から雑誌の取材やインタビューが入っていたから、そこで否応なしに爆弾発言について聞かれる事になった。
さすがに生放送は無くなったが、あの日以後で取材を受ける予定だったものには、必ずその話題が入っている。
ヒーロー事業部でデスクに向かい椅子に身体を投げ出してだらしなく座りながら、虎徹はその日出た新しい雑誌をぱらぱらとめくっていた。
やはり出社の際に駅で購入してきたものだ。
そこにも数ページ、『時の人』と称してバーナビーのインタビューが載っていた。
『コンビを組んでいらっしゃるタイガーさんの事がお好きなんですよね。堂々と公言されるって素敵です。きっとなかなか言えない男の人、特にゲイの方々はとても勇気づけられたんじゃないんでしょうか』
(あらあらすっかりゲイって事になってるよ、まぁしょうがねぇか…)
と思いながら次を読む。
『そうですか?』
クエスチョンマークがついて会話が載っている。
『でもタイガーさん自身はきっと嫌だと思いますよ。僕が公にあんな発言をしてしまったので、その後会った時本当に困っていたし』
『あらそうなんですか?お二人とても仲がよろしいですから、てっきりタイガーさんもバーナビーさんの事がお好きなのかと思ってましたけど。タイガーさんの気持ちは聞いてないんですか?』
『…ええ。それは聞けないですよ。だって僕が一方的に好きなだけですし、男同士ですからね。きっとそういうの嫌がられるんじゃないんでしょうか。……僕はタイガーさんを愛してますけど。でもいいんです。一緒に仕事ができるだけで幸せですから…。お願いなんですけど、タイガーさんにはこういう質問をして困らせないでくださいね?仕事で会った時もこの話題はしないって決めてるんです。タイガーさんどうしたらいいか分かんないみたいで』
『あらそうなんですかぁ…?バーナビーさんみたいに格好良くて素敵な人に好かれるってだけで、男女関係なく喜ぶと思うんですけどね?』
『そう言っていただけると僕としては嬉しいです』
会話の後に(肩を竦め)などと書いてある。
(はぁ……)
どう反応していいか分からなくて、虎徹はうーん、と唸りながら先を読んだ。
『それにしてもタイガーさんのどこがお好きなんですか?バーナビーさん程の方がそんなにお好きだという事はよほど何かがあるんでしょうか?私たち、ワイルドタイガーさんの事は、ヒーローとして出動している時しか知りませんし。まぁタイガーさん自体は10年前からヒーローをやっていらっしゃるので活躍についてはみなさんお詳しいと思うんですけどね。市民の命を守るという事に対しては固い信念をお持ちのようですけど、ちょっと乱暴で目的のためには手段を選ばないっていうか、物をすぐ壊すっていうイメージですよね』
『そうですか?(笑)』
(ここで笑ったのかよ…)
文面に(笑)とあるのを見て、ちょっと複雑な気持ちになる。
『タイガーさんの魅力はそうですね、一言ではとても言えないです。間近で接していればいるほど、彼の魅力が分かると思いますよ。僕も最初に会った時はただの煩いおじさんだなんて失礼ながら思ってましたから。でもタイガーさんと一緒に仕事をするようになって、彼が本当に魅力的な人だって分かったんです』
『そんなに素敵な人なんですか?』
『ええ、僕なんか結構イケメンとかハンサムとか言っていただけてますけど、タイガーさんの方がずっと格好良くて素敵なんですよ?人間的魅力も素晴らしいですし。タイガーさんに接した人はきっとどんな人でも彼のことが好きになってしまうんじゃないかな。あ、これは僕がタイガーさんに向けている愛情とは違ってて、人間的に好きっていうのを含めてです。ヒーローTVで中継されている時しか知らないと、乱暴って思われてしまうのは残念な気はしますね。でもそういう所も魅力的なんですけどね?間近で接すれば接するほど本当に可愛い方なんです。可愛くて愛らしくて、まぁ年上の人にこういう表現をするのは失礼かも知れませんが…。目が離せないって感じですかね?きっと、この記事を読んだらタイガーさんまた困ると思うんですけどね…』
「はぁ……そう…なの…うーん……うーんうーん…」
「何唸ってるの、タイガー」
経理のおばちゃんが声を掛けてきた。
「いやねぇ、この雑誌の記事がさぁ、バニーちゃんがえらく俺の事褒めてる訳よ。この記事おばちゃん的にはどう思う?」
「どれどれちょっと見せてよ」
インタビューの部分を広げておばちゃんに差し出すとおばちゃんがそれにざっと目を通した。
「あらまぁ随分熱烈ねぇ…」
「だろぉ?俺どうしたらいいの、これ。…なんかさぁ、恥ずかしいよなぁ、これ」
「アンタもバーナビーの事褒めまくればいんじゃないの?二人で褒め合ってればいいのよ」
「そういうもんかなぁ…。でもなんかここまで言われるとさぁ、俺もよく分かんなくなっちまった。もしかしてバニーちゃんマジで俺の事好きなの?」
「さぁ?」
おばちゃんが肩を竦める。
「そんなの私に分かるわけないでしょ?直接聞いてみたら?」
「いや、そりゃ怖いよ…」
さすがにそれは怖い気がする。
聞いてしまってそのあと抜き差しならない事態に陥りそうな気がする。
なんとなく怖じ気づいていると、そこにロイズが入ってきた。
「あぁ、虎徹君、ちょうどいい所にいた」
「なんすか?」
「君にねぇ、雑誌の取材とかたくさん申し込みが来てるんだよね」
「はぁ?」
「良い傾向だよ。今まで君、マスコミ方面で稼げなかったからねぇ。これからはせいぜい頑張って稼いでもらいますよ。虎徹君が稼げば、アポロンメディア社が支払っている賠償金の方にも少しは還元できるしねぇ?」
「はぁ、そ、そうですねぇ…」
「とりあえずいくつか受けといたから、はい、スケジュール」
ロイズがスケジュールを印刷した紙を虎徹に手渡した。
「バニーについて聞かれたらどうします?」
「そりゃ上手いこと言葉濁しといて。好きじゃないですとか好きですとかはっきり言うのは良くないからね。聞いた視聴者が想像膨らませてわくわくできるように、分かった?」
「えーそんなぁ…そんな上手く答えられないですよ、俺」
「何言ってんの。マスコミ対策も少し勉強しといた方がいいよ、君。バーナビー君が人気があるからね、君だってそのコンビなんだからある程度は慣れてもらわないと困るよ。いい?誰の立場も悪くならないように上手に答えてね?」
「………」
「返事は?」
「へーい…」
仕方がない。
今までトップマグ社にいた時には取材など受けた事もなかった。
マンスリーヒ−ローの特集に載る時は、あらかじめ書面で提示された質問に書面で答えるだけだった。
それだけに、マスコミ対策など何も勉強していない。
身につけていない自分が些か心細い。
「とりあえず明日からね」
「え、もうっすか?」
「そう、明日は午前11時にウェストコーストスタジオの方に。写真もちょっと撮るらしいよ、綺麗に撮って貰ってね?」
「はぁ…分かりました…」
そういうわけで、虎徹は次の日、アポロンメディア社に出社してから恐る恐るウェストコーストスタジオに向かった。
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