◆Livin' in the city◆ 1
◆1
(………)
こめかみが割れるように痛ぇ。
ズキズキと脈拍と同じ速さでソコが痛む。
クソ、二日酔いだな、こりゃあ。
頭を庇いながら起きると、そこは見知らぬベッドだったが、俺の隣には見知った金髪が寝ていた。
スカイハイだ。
とするとここはスカイハイの家か。
周りを見回す。
洒落たメゾネットタイプのマンションだ。
少しバニ−のマンションに似ている。
バニーんちよりは調度品がたくさんあるし、こじんまりとした部屋だが。
溜息を吐いて俺は身体を起こすと、頭に響かないようにそろそろとベッドから降りた。
案の定、全裸だ。
まぁ別にどうでもいいが。
降りて抜き足差し足、絨毯の上に放り投げてあったバッグを拾うと中から頭痛薬と胃薬を取り、やはりそろりと歩いてキッチンへ行く。
冷蔵庫を開けると牛乳のパックが入っていたので、それを飲む。
マグカップ半分ほどをレンジで温め、ぬるくなった所で一気に薬と一緒に飲み干す。
そうしてベッドに戻ってきて再びごろりと横になって、痛みが治まるのを待つ。
頭痛薬はかなり強力な成分のやつだ。
10分もすると、すっと潮が引くように痛みが治まってきた。
「ぅ……」
隣で微かに声がした。スカイハイが起きたようだ。
澄み切った空のような青い瞳が最初はぼんやりと俺を見つめ、それからゆっくりと焦点が合って、いかにも彼らしい邪気のない笑みを湛えた。
「おはよう、ワイルド君」
脳天気な挨拶だ。
俺は肩を竦めスカイハイを横目で眺めた。
顔中笑みを湛えた顔がうざったい。
頭痛が引いたのをこれ幸いと、俺はさっさと帰る事にした。
ベッドから抜け出すと絨毯の上に放り投げてあった服を拾って着る。
スカイハイが呆気にとられた表情で俺を見つめた。
俺は軽く掌を二三度振ってやった。
「じゃあな?」
「…帰ってしまうのかい?朝ご飯でも食べていかないか?」
俺の言葉にスカイハイが途端に項垂れる。
「家で食う。じゃあ」
これ以上話す気も無かったし、面倒くさくなったから、俺はスカイハイに一瞥くれると、さっさとその部屋を後にした。
ヤツの視線を感じたが一度も振り向きなんざしなかった。
じゃあな、スカイハイ。
昨日は楽しませてくれてありがとうよ。
スカイハイの家はゴールドステージだ。
ここからブロンズステージの自宅まで帰るのは面倒臭いが、今日は会社も休みで行くところがない。
どうするか。
一番近いのはバニーの家だが、考えて俺はユーリの別宅に行くことにした。
バニーとは会いたくなかった。
面倒臭い。
ヤツが一番面倒だ。
会えばめそめそとして、『虎徹さんが来てくれなかったから寂しかった』だの、『虎徹さん、愛してます』だのうざい事ばかり言う。
そのうざさが可愛い所でもあるのだが、今は勘弁という気持ちだった。
ユーリの別宅、というかマンションはバニーの家よりは遠いがやはりゴールドステージだ。
司法局の仕事が忙しくて自宅まで戻れない時に使っているらしい。
小さなワンルームだが使い勝手はいい。
俺は携帯でメールを打った。
『お前のマンションにいる』そう送って目的地に向かった。
網膜認証の扉を空けて中に入る。
ちなみにユーリとは偶然仲良くなった。
俺が繁華街のその手のスポットで男漁りをしていた時に、たまたま通りかかったのがユーリだった。
顔を知られている相手だから一瞬警戒したが、別に恐れることは無かった。
ユーリもゲイで、相手を探しに来たらしい。
俺を見つけて寄って来ると、他に声を掛けてきていた男達を睨みつけて俺を連れ出した。
そのままこのマンションまで来てその日のうちにヤツと寝て、今に至る。
ユーリの傍に居ると何故か楽だった。
俺が何をしていようと、ヤツは何も言わない。
尤も、俺もヤツが何をしていようと何も言わない。
ヤツにはいろいろ秘密もあるようだが、聞いてもしょうがねぇしな。
どうでもいい。
別に、聞きたくねーし。
ただ、抱いてくれればいい。
俺をぐちゃぐちゃにしてくれればいい。
何も聞かずに。
マンションのベッドにだらしなく寝転がり、来る途中コンビニで買ってきたペットボトルの清涼飲料水、それにサンドウィッチを食べる。
テレビを点けて古い音楽を聞くともなしに聞く。
服は全部脱いで全裸になってベッドに入っているので、素肌にシーツが心地良い。
このまま寝てしまいたくなる。
寝て、二度と起きなければいいんだが。
寝ている間に誰かが俺を殺してくれればいい。
なんて考えるがそんなボランティア精神溢れるヤツが居るわけねぇ。
暫くそうやって過ごしているとマンションのドアがあいてユーリが入ってきた。
「おはようございます」
コイツも律儀に挨拶は欠かさねぇ。
俺は溜息を吐いて顔を上げた。
軽く手を振って挨拶にする。
「お昼買ってきましたよ、あとで食べますか?」
それにも手を振って答える。
ユーリがベッドに来た。
俺はヤツを見上げて眼を細めて笑うと、両手を伸ばしてヤツの首に回した。
「やろうぜ?」
きっちりと締めたヤツのネクタイを解く。
ユーリが僅かに眉を寄せて息を吐く。
「貴方は…」
「いいだろ?」
何か言いたそうだったが聞きたくなかったから、唇を塞いだ。
引き寄せて二人でベッドに沈み込む。
シャツのボタンを外して脱がせると、次はズボンに手を掛けてベルトを外しジッパーを下げる。
下も脱がせてしまえば、お互い裸だ。
股間を擦りつけて興奮をアピールする。
ユーリが肩を竦めて俺を抱き締めてきた。
俺は昨日スカイハイとさんざんヤった後だから、アナルもぐちょぐちょに解れていたし、中にはまだスカイハイの残滓があった。
だからまぁ、ゆるゆるなわけだ。
「すぐ入るぜ?」
そう言ってユーリのペニスを掴んで尻へ導く。
「いつも準備万端なんですね」
「まぁ準備ってわけじゃねぇけどな?」
そう言って間近で片目を瞑る。
「では遠慮無く」
ユーリが一気に押し入ってきた。
いつもこの瞬間が好きだ。
誰か俺じゃねぇ他のヤツに、自分の身体の主導権を引き渡す瞬間が。
もう、俺は俺じゃない。
誰かのものだ。
好きにしてくれ。
自分の身体に対する責任を放棄しちまえば、俺は身軽になる。
何も考えず、ただ相手の与えてくれる快感に身を投じていればいい。
快感じゃなくても構わない。
痛みでも何でも。
とにかく、俺は俺でいたくない。
別に殺してくれたって構わないんだがな。
ヤり殺しとか、悪くない。
ユーリは丁寧なセックスをする。
だから殺しとかそういう物騒な単語はヤツには似合わねぇんだが、それでもまぁ丁寧でねちっこいから、俺は息が上がって死にそうになる。
その感じがイイ。
前立腺を執拗に責められて、俺は顎を仰け反らせて喘いだ。
昨日のスカイハイも悪くはなかったが、なんと言っても工夫のない直情型だからな。
セックス的には面白くない。
持続力とでかさと硬さは凄かったけどな。
ユーリはでかさや硬さではスカイハイには負けるが、ユーリにはユーリにしかない長所がある。
丁寧でねちっこくて俺のイイ所をピンポイントで攻めてくる。
スカイハイとのセックスでゆるくなってる身体にはちょうどいい。
「あっ…――あっあっあ!」
断続的に悲鳴を上げて俺は達した。
昨日も何回も達しているから、もう精液は薄くて水のようだった。
ユーリが肩を竦めた。
「また随分とどこかで遊んできたんですね?」
「まぁいいだろ?」
俺がにかっと笑って言うと、ユーリが呆れたという表情をした。
「貴方の身体は頑丈ですからね、心配はしていませんが…。今日はどうします?」
「このままアンタと一緒にいちゃいちゃしたいなぁ?」
そう言うとユーリが表情を和らげた。
終わったあとの気怠い身体を抱き締められて、俺はユーリの胸に顔を埋めた。
ヤツの長い髪が俺の頬に当たる。
「眠いようですね?少し眠ります?」
「あぁ、昼になったら起こしてくれ。昼は一緒に食べてーな?」
「分かりました、タイガー。ではおやすみなさい…」
ユーリの不思議な所は優しい所だ。
俺が何を言っても怒らねぇし、許容してくれる。
俺は安心してヤツの腕の中で目を閉じた。
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