◆Mimosa◆ 3









何故なのだろうか。
最近のバーナビーとの会話は、ベッドの中での睦言が多い。
つまり、抱いている時、セックスしている時の彼だ。
そういうのばかりが虎徹の中でバーナビー像になってしまっているからではないか。
自分の愛撫に応えて素直に快感の声を上げるバーナビーとか、自分を欲しがって潤んだ瞳で見上げてくる彼とか。
……そういう彼の様子ばかりが印象に残っていたからではないか、という事に虎徹は思い当たった。
そういうのにすっかり慣れていたから、改めて冷たく突き放すような物言いをされて傷ついたのだ。
だが、この彼の物言いは、元々彼の本来の話し方である。
結局、彼はベッドの中はベッドの中、仕事は仕事ときっちり分けているというわけだ。
ベッドの中での彼はあくまでセックスを目的とした彼であり、そこで彼が素直だろうが可愛かろうが、それはベッドの中だけでの事だ。
それは限定された彼の姿であり、本来の彼は今自分に見せていたような、プライドの高い冷厳な彼なのだろう。
そう考えると虎徹は自分が惨めになった。
自分はベッドの中でのバーナビーが本当の彼だと思い込んで、すっかりいい気になっていたのではないか。
現実はそうではなくて、ベッドの中の彼はセックス用、限定されたその場限りのバーナビーなのであって、決してそれが彼の本来なのではない。
セックスに特化した快感を得るためだけの彼だ。
だから仕事上ではこんなに冷たく、自分に対して突き放したような物言いもすれば意見もする。
そこに優しい感情や親愛など入る余地もない訳だ。
自分だけが勘違いしてごちゃ混ぜにして、一人で喜んだり有頂天になったり、或いは傷ついたりした。
結局一人芝居をしていたという事だ。
そう考えると、自分が情けなく惨めになってきて、虎徹は何とも言えない悲しい気持ちになった。










「よっ、ネイサン。今日ちょっと付きあわねぇ?」
数日その事について悩んだ末、虎徹は誰かに相談してみよう、という気になった。
この場合、一番そういう事が相談しやすいのは、ファイヤーエンブレムこと、ネイサン・シ−モアだった。
トレーニングセンターでトレーニング中のネイサンに、さり気なく声を掛けてみる。
「あら、アタシ?珍しいわね、タイガー。勿論オッケーよ。アタシが知ってるいいお店、行く?新しくできた所でなかなかお勧めなの」
ネイサンが誘われたということで機嫌良さそうに声を掛けてくる。
彼は情緒が安定した大人なので、いつ話しても自分が落ち着く。
「あ、…じゃあ、そこ行くか?」
二人はネイサンお勧めのシルバーステージ外れにある小洒落たバーへと向かった。
「あなたいつも焼酎だけど、今日はアタシが奢るから、ちょっとこれ飲んでみない?」
そう言ってネイサンが彼のお勧めというブランデーを差し出してきた。
「おう、じゃあいただくか」
たまには違う酒も飲んでみるか、と思って、勧められるままに口を付けてみる。
ネイサンがお勧めだけあって、それはいかにも高級な、豊穣な馥郁たる味だった。
「あぁ、うめぇな…」
一口飲んで言うと、ネイサンがそうでしょ、と言う得意げな顔をする。
「……んで、なんなの?何かアタシに話でもあるんでしょ?」
暫く酒を飲んでほろ酔い気分になった所で、ネイサンがそう切り出してきた。
「あぁ、そうなんだけど…実言うとさ、その、なぁ、……ゲイの人ってのはさ、基本的に、身体が満たされれば、それでいいのかな?」
「……えっ?なにそれ?」
ネイサンがピンク色の眉を寄せる。
「いや、俺の偏見かもしれねーけど、その、……恋人ってのは必要ねーのかな?そういう面倒くせーのは必要ないって人が多いのか?身体だけ満たされればそれでOKって感じでさぁ…」
「…何突然そんな事言い出したの?」
「えっ?……いや、そのー.なんとなく…?」
なんとなくという事は無いので、その辺は非常に苦しい所だったが、とりあえずへらへらっと笑って誤魔化してみる。
ネイサンが肩を竦め掌をひらひらと上向けて振った。
「…あなたそれ、ハンサムの事でしょ?」







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