◆幸せな二人◆ 2
ベッドサイドの引き出しから、ローションとゴムを取り出しながら、バーナビーが上擦った声で言ってきた。
押し殺したような声音に、抑えきれない興奮と性衝動が滲んでいる。
その声音を聞いただけで、じいんとアナルの奥が疼いた。
1年ぶりだ。
内臓がうずうずと蠢く。
熱く硬いもので、貫かれたくてたまらなくなる。
身体の中心を串刺しにされる感覚を思い出す。
脚を大きく開いて、その真ん中にバーナビーを受け入れて、擦られて抉られて、ものすごい快感に我を忘れて。
あ−、もう、想像しただけでイっちゃいそう…。
「いいよ、すぐ、来てくれよ、バニー…。すぐ、欲しい。…ナカ、ぐちゃぐちゃに、して…?」
いい加減はしたなさすぎる、と思ったが、でもそれが正直な所だ。
ぐちゃぐちゃになりたかった。
貫かれて、バーナビーに支配されたかった。
自分の身体の主導権を、バーナビーに渡して、快楽でめちゃくちゃになりたかった。
だって、そういう風になれるのは、バーナビーだけだからだ。
バーナビーだから、そうなれる。
こんなに興奮できる。
はしたない言葉を言ってしまえるほどになれる。
自分から足を開いて誘う程に。
「早く、ここに、挿れて…、バニーちゃん…」
膨らんで張り詰めた陰嚢を下から掬い上げて、その奥の、ひくひくと収縮を繰り返すアナルを見せつけるようにする。
ごくり、と明らかに音を立ててバーナビーが喉を鳴らした。
ローションの蓋をもどかしげに開けて、とぷとぷとそれを俺の股間に垂らしてくる。
「ひぁっ、冷たい…」
「あ、すいません、暖める余裕無くて」…
「いいよ、すぐ熱くなるし…」
冷たいローションに一瞬竦んだけれど、すぐにその冷たさも快感に変わった。
俺の勃起したペニスから陰嚢から、その奥のアナルにまでたっぷりとローションが注がれる。
「ぁ…っく…。――っっ!」
不意にバーナビーの指が1本、アナルにつぷりと埋め込まれた。
1年ぶり…だけど、すげー気持ち、イイ。
きゅっと目を瞑ってその甘い衝撃に耐える。
指がぬぷ、と入ってきて、ナカでぐり、と関節を曲げてきた。
「ひっっ!あーっっっ!」
って、俺、なんて声出してんだ!と思った。
すげー声が出た。
だって、きっと前立腺だろう、そこを1年ぶりに刺激されたんだ。
目の前がチカチカして、涎が唇の端から垂れちまった。
痛みなんて微塵も感じなかった。
ちょっとした違和感は、すぐに快感に変わった。
こんな気持ちイイ感覚を1年も我慢していたなんて、自分が信じられない。
もしかしたら一生、もう感じなかったかも知れない。
バーナビーとこうしてセックスをしなければ。
そう思ったら、また泣きそうになった。
というよりは、涙が出てきてしまった。
鼻の奥は相変わらずつうんとするし、目を開けると視界が潤んだ。
「痛いですか?」
俺が泣いたのを、バーナビーは痛いからだと誤解したようだ。
違う違う。
気持ち良くて泣いてるんだよ、おじさん。
間違えないで。
「痛くねーから大丈夫…すげーイイ…もっと、…もっとして、バニーちゃん」
できるだけ甘えるような声で言うと、バーナビーが息を飲んで、俺を睨むようにしてきた。
「もうっ、そんな声出したら僕が我慢できなくなるじゃないですかっ、もっと馴らしたかったのに…もう、無理です!」
なんか怒ってる。
可愛い。
そう思ったけれど、ぐぐっと指を急に増やされて俺はひっと息を詰めた。
すげー、どうしよう。
身体が、ばらばらになって宙に浮いたみたい。
「あっ…――っあっあっ!」
バーナビーの指が容赦なく俺のナカを抉ってくる。
前立腺をぐりぐりと擦っては指をくいっと曲げてくる。
そういうのがありありと分かって、俺はもうどうしようもなく興奮した。
「―――くっっっ!」
しまった。
前立腺を一際ぐりっと抉られた瞬間に、我慢が切れた。
目の前が真っ白になって、全身汗が噴き出る。
盛大に精液を噴出してしまって、俺はブラックアウトしそうになった。
速すぎる。
年を取ると遅漏になるというけれど、全く反対だ。
早漏すぎるじゃねーか。
「…速いですね…」
そういう事言うんじゃねぇ!と、頬を赤くしてバーナビーを睨む。
バーナビーがくすっと笑って俺の頬を撫でてきた。
「してなかったんですか?」
「するわけねーだろ。俺、バニーちゃんじゃなきゃ勃たねーもん」
「…嬉しいです、虎徹さん。…僕も…一人では抜いてましたけど、いつも貴方をおかずにしてました…」
さりげなく嬉しくて恥ずかしい台詞を言ってくる。
若いのに、そりゃ申し訳ない…。
とか思いつつも、嬉しくて俺は脚をバーナビーの肩に乗せて足の指でバーナビーの耳を擽った。
「だったら、すぐ挿れてーだろ?…俺も、欲しい。ナカに入れて…?」
「虎徹さんっ…」
バーナビーが焦ったように言いながら、指をぐっと引き抜いて、ゴムをペニスに装着する。
慌てているから急ぎたいのに微妙にうまく装着できてない様子が微笑ましい。
そんな焦らなくてもいいのに。
でも慌てる気持ちも分かる。
すごく嬉しい。
用意の出来たペニスが、ぴたり、とアナルに押しつけられた。
ゴム越しでも分かる、熱さや脈動に、俺は全身がぞくぞくっとした。
期待で胸が破れそうに高鳴る。
まるで初めてセックスするときみたいだ。
いや、初めてよりも興奮しているかも知れない。
俺のナカに、バーナビーが入ってきてくれる……。
「――あ、あ―…あっっ!す、げーっ、イ、イっ!」
ずぶり、とそれは遠慮無く俺のアナルを広げてきた。
みちみちと腸内を塞いで、内臓を押し分けるようにして入ってくる。
すごい快感だ。
快感なんて言葉で表現しきれない。
もう、なんといっていいのか、分からない。
とにかくすげー。
俺が俺でなくなる。
全部バーナビーに明け渡して、俺はただただ喘ぐばかりだ。
「虎徹さんっ…、好きですっ…」
耳朶に熱い息を吹きかけられてぞわっと総毛だった。
おじさん、耳が弱いんだから、やめてっ!と思ったけど、時既に遅し。
耳から足の先まで甘い戦慄が駆け抜ける。
「やっあーっ!ダメっって…バニちゃんっ…あ、あっあーっっっ!」
悲鳴を上げながらバーナビーにしがみつく。
ずっずっとナカを擦られて、目の前がぱっと赤くなったり白くなったりする。
全然痛くなかった。
いや、本当は痛いのかも知れない。
けれど痛みを痛みと感じてないようだった。
痛いのが即快感だった。
気持ち良くて、身体中蕩けて、とろとろになっていく。
バーナビーの硬い楔が中心を穿ってきて、俺全部がバーナビーのものになる。
支配されて、ゆさぶられて、権利を明け渡して、一緒になって喘ぐ。
気持ちイイ。
死にそうだ。
どうしよう。
本当に死んじゃいそうだ。
こんなに気持ちが良くて幸せな行為を、1年もしていなかったなんて。
自分が信じられない。
ぐちゅぐちゅと粘着質な水音がしきりに響く。
俺のアナルからだ。
くっついた腹もねっとりとする。
俺がさっき射精したやつがそのまま俺とバーナビーの腹についてるんだ。
恥ずかしい。
けれど、その音も、精液特有の匂いも、全部興奮の材料だった。
熱くなって、幸せが込み上げてくる。
バニーちゃん、ごめんな。
1年もほおっておいて。
俺はバニーが他の人と恋愛してくれたらそれはそれでいいと思ってたんだ。
いやその方がバニーにとっては幸せになれたんじゃねぇかって今でも思ってる。
俺みたいなおじさんを恋愛相手にしなくても、いいんだ。
バニーちゃんに俺じゃ、バニーちゃんが可哀想すぎるって思ったから。
でもごめん。
もう俺はバニーちゃんを離せない。
他の誰かになんて、絶対に渡せない。
前よりもずっとずっとお前を愛してる。
俺はすげー意地汚いんだよ、バニーちゃん。
絶対離さないって思ったら、本当にずっと離さないからな。
死ぬまで…いや、死んだあとだって、バニーちゃんを他の誰かになんて渡したくない。
俺が先に死ぬだろうけど、そうしたらバニーちゃんが来るまで天国の入り口の所でずっと待ってるから。
バニ−、大好きだ。
…もう、絶対、お前を離さない…。
「――っっっっ!」
バーナビーが俺のナカで一瞬大きく脈動した。
俺のナカが裂けるかと思ったぐらいだ。
腹のナカが焼ける。
熱い。
ナカから全身にバーナビーの熱が広がる。
俺の身体の隅々まで、全部バーナビーのものになる。
嬉しい。
嬉しくて涙で視界が潤んで、ぼやける。
気持ちいいのと、幸せなのと相俟って、どうしようもなく感情が溢れる。
溢れた感情は涙になって、次から次へと頬を伝って滴って行く。
「…虎徹さん、愛してます…」
バーナビーのしっとりとした声が耳に囁かれた。
じわ、とまた涙が溢れて、俺は下唇を噛んだ。
涙を隠すつもりはなかった。
だって、バニーだもんな。
いいんだ。
バニーになら、どんな俺でも見せられる。
「んっ…っ…俺も。…俺も愛してる…」
鼻をぐすぐす言わせながらそう返事をすると、バーナビーがくすっと笑った。
「知ってますよ。虎徹さんは僕が好きで好きでたまらないでしょ?」
そう言われるとちょっとむすっとしたが、でも実際その通りだった。
頷くと、頬に舌が這ってきた。
涙を掬い上げるようにして舐め回してくる。
「僕もそうですよ。貴方が好きで好きでたまらない。…何年だって待つつもりでしたから。貴方は僕の唯一の人だ。…この世に生まれて、そういう人に出会えた…。僕ってすごい幸せ者ですよね。貴方に出会えたから…」
そういう嬉しいこと言われると、おじさん、涙止まらなくなっちゃうって。
そういう台詞、どこで考えるの、バニーちゃん。
ぐすぐす鼻を鳴らしながら、こくこくと頷く。
頬を擦りつけてバーナビーの白く滑らかな頬に涙を擦りつけてやる。
バーナビーが笑いながら俺の頬から目尻を更に舐めてきた。
「…虎徹さん、結婚してください。貴方と一生、一緒に居たい…」
もしかしたら俺はその台詞を予想していたのかも知れない。
なぜならそう言われた時に、躊躇無く、
「うん」
と返事をしていたから。
すごく自然に、頷いていた。
間近でバーナビーと視線を合わせる。
碧色の綺麗な瞳がやっぱり潤んでいた。
良かった。
お前も泣いてんじゃん。
俺だけ泣いてたら格好がつかねーもんな。
碧色が零れたみたいに、涙がぽとりと、俺の頬に落ちてきた。
俺たちは涙でぐちゃぐちゃになった頬を擦り合わせ、目を合わせて笑い合い、それからゆっくりと、深いキスを――幸福な契約の証を、交わした。
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