◆Without Your Love◆ 6





「君の目って、グレイなんだな」
そう言って顔がゆっくりと近付いてくる。
彼の瞳は、今は深い金色に光っていた。
その中に僕がシルエットとなって映っている。
「デビット…」
その声の響きに、ぞくりと背筋が戦慄が走った。
甘く低く耳から入って、ダイレクトに快感中枢を刺激してくるような、そんな危険な声だった。
こんな声で名前を囁かれたら、どんな男でも、勿論女でもたまらなくなるだろう。
男だったら、興奮して勃起してしまうだろう。
現に僕はその声で自分のペニスがぐっと勃起するのを感じた。
女だったら、即座に性器が濡れてくるはずだ。
「虎徹さん……」
彼の名前を呼ぶと彼がすっと瞳を細め、長く黒い睫の間から僕を窺うように見つめてきた。
誘われるようにして僕は両手を伸ばし、彼の背中に回して引き寄せた。
彼と僕では僕の方が背も低いし筋肉も付いていないが、骨格自体は僕の方ががっちりとできているらしい。
引き寄せると、彼の細い腰は、僕の腕の中にすっぽりと収まった。
指で背中の皮膚をなぞる。指に吸い付くように滑らかな、肌理の細かい肌の感触がする。
指の先がちりちりと焼けるような錯覚が起きる。
彼が口元に笑みを浮かべ、それからゆっくりと瞼を閉じた。
厚めの桃色の唇を少し尖らせて、顔を近づけてくる。
ふらふらと誘われるように、僕はその唇に自分のそれを押しつけた。
キスは勿論何度もしたことがあった。
けれど男とは初めてだったし、それにこんな風に全身が熱くどきどきしてキスをするなんて、初めてだった。
押しつけると柔らかいようで、それでいて弾力のある感触がした。
彼の唇が、少し震える。
ぬる、という感触がして、彼の舌が僕の唇を舐めてきた。
唇を舐め、歯列を舐めて、開けろと言うようにつんつんとつついてくる。
応えて口を開くと、遠慮無く彼の舌が僕の咥内に入り込んできた。
入り込んできた舌先は、咥内をねぶりまわし、僕の舌を捕らえるとぬるぬると味蕾を擦り合わせてきた。
直接粘膜を擦られて、僕はぎゅっと目を瞑った。
迫り上がるような衝動が、身体の中心から末端に広がる。
彼の舌がざらざらと僕の顎裏を擦ってくる。
たまらなくなって、咥内に入ってきた彼の舌を歯で軽く噛む。
ぴく、と彼の身体が震える。
そこを抱き締め、脇腹をまさぐると、
「あ…、ぅ…ん…」
彼が鼻に抜ける甘い声を漏らした。
声が耳から聴神経を伝わって、脳に入る。
脳細胞のシナプスが一斉に繋がって、アドレナリンが放出される。
もし意識しないであんな声を出しているんだとしたら、彼は天性の娼婦だ、そう思った。
男でも女でも、即座に誘惑されてしまうだろう。
勿論、意図してやっていないからこのぐらいで済んでいるのであって、もし彼が意図的に相手を誘惑しようなどと思ったら……。
どんな人間でも誘惑できるのではないか。
それもいとも容易く。
「っ……んんっ……」
小さな喘ぎ声にも、ぞくぞくと身体が煽られる。
夢中で吸い上げてこくりと唾液を飲み干して、更にかぶりつくように彼の唇を貪る。
暫くそうして深い口付けをしていると、彼が僕の背中をどんどんと叩いてきた。
はっとして、名残惜しげに唇を離す。
「君さぁ、キス上手いじゃないかぁ?」
彼がやや不満そうに唇を尖らせてきた。
しゃべり方がややぞんざいになっている。
それが、彼が僕に対して甘えてきてくれた証に思えて、僕は無性に嬉しかった。
「キスはした事がありますよ?」
「だよなぁ…ちぇ、教えてやろうと思ったのに…」
などとやや拗ねたような口調が可愛い。
「キスは大丈夫でしたか?」
「うん…全然大丈夫だった。でも、ん、そうだな…」
彼が困惑したように、後頭部に指を入れてくしゃうしゃと髪をかき混ぜた。
「……あの、ね、フェラしてみていい?できるかどうか、ちょっとやってみたいんだ」
「そ、そうですね…」
突然彼が大胆なことを言ってきたので、僕は内心驚いた。
驚いたというのもおかしな話だが、今、僕が味わった、あの厚めの唇が僕のペニスを咥えてくれるのかと思うと、それだけで股間に血が集まってくらりと眩暈がしそうになったのだ。
「うん。…じゃあ、…いいかな?」
彼がベッドに座った僕の前に身体を移動させ、両足の間に膝立ちになった。
バスタオルを腰に巻いただけの浅黒く引き締まった裸がしなやかに動いて、その肌が艶やかに照明の光の下で光る。
彼の琥珀色の瞳が上目使いに僕を窺ってきた。
その瞳は少し揺れて、ちょうど黄金色のウィスキーをグラスに入れてその水面を少し揺らしたみたいな、そんな感じだった。
ドクン、と鼓動が跳ね、その興奮がダイレクトに股間を変化させていく。
僕のソコはもうすっかり、形を変えていた。
バスローブの裾を彼が開いて、僕の股間を外気に晒す。
バスローブの裾を跳ね除けるようにして現れたペニスに、彼が一瞬目を丸くした。
「もう、こんなになってたんだ?すごいね…」
彼が珍しいものでも見るかのように、しげしげと眺めてくる。
同性の性器を見る事はあっても、こんな状況で、しかも間近で眺めるなどと言う事は初めてなのだろう。
彼に見つめられていると思うと、僕も恥ずかしくてたまらない。
羞恥が反対に興奮になって、更にそこに血が集まる。
彼の目線に従って僕も自分の股間を見下ろす。
そこは脈拍にそってぴくぴくと動き、頭頂部から透明な粘液をつつっと滴らせている。
自分で見ていても恥ずかしいのだから、彼はどう思っただろう。
こんなものを口に咥えるとか、大丈夫なのだろうか。できるのだろうか。
しかしここでもし、その行為が不可能だとなれば、それは彼が好きな相手との性行為にも臨めない、という事にもなる。
彼は暫く僕のペニスを眺め、長い睫を瞬いて僕を一旦見上げ、それからまたペニスを見下ろした。
ごくり、と生唾を飲み込んで、ゆっくり唇を開く。
右手をペニスの根元に添えて軽く握り、思い切ったように亀頭部分を咥える。
「んっ……!」
彼の口の中は熱かった。
ぬるりと飲み込まれ、敏感な頭頂部分を舌でざらりと擦られる。
舌が蠢く。大きな飴でもねぶるように先端をぐるりと舐められ、ちゅう、と吸われる。
―――ゾクリ。
今までに経験した事の無いような快感が、股間から背骨を通って脳まで到達した。
僕は堪えきれず、目を閉じて背筋を反り返らせた。
今まで女の子にしてもらった事が無いわけではなかった。
が、過去の誰にしてもらった経験よりも、段違いにヨかった。
それは、今僕を咥えている相手が、本来なら絶対そんな事をしないような立場の人だからなのかも知れない。
僕よりも10歳以上も年上で、男で。
普通に考えればまず接点のない人だ。
先端を暫くねぶっていて慣れたのか、彼がぎりぎりまで深くペニスを飲み込んできた。
先端が彼の喉奥に当たるのを感じる。
そこから頬を窄め、ゆっくりと顔を退いて、彼はペニスを刺激し始めた。
雁首の下まで顔を引き、そこで一度僕を見上げる。
彼の口の中に僕のペニスが挿入されたままの格好で見上げられて、僕はどうしたらいいのか分からなくなった。
彼をめちゃくちゃにしてやりたい。
ペニスを思うさま突き入れたい。
喉を突いて、涙を流させたい。
そういう凶悪な欲望がふつふつと湧いてくる。
思わず右手を伸ばして、彼の目に掛かっていた前髪をかき上げて額を露わにさせる。
そうするといつもは隠れている目や眉や形の良い額が露わになって、その彼の男らしく端正な顔にも僕は興奮した。
一度僕を見上げ、それから黒く長い睫を伏せて俯くと、彼は再び愛撫を再開した。
また喉奥に当たるほどペニスを深く飲み込む。
そこから今度は茎に歯を立て、浮き出た静脈を引っ掻くようにしながら扱いてくる。
「っんっっっ…」
微かな声が漏れる。
顔が前後に動いて、唾液まみれのペニスが彼の口に出たり入ったりする。
唾液をたっぷりと絡めて愛撫され、僕は自分のそれがあっという間に限界を超えたのを感じた。
ヤバイ、と思った時にはもう間に合わなかった。
彼の髪を掴んでぐっと引き寄せ、腰を突き出してペニスを深く突き入れる。
そうしてそこで射精をすれば、彼の身体が細かく震えた。
射精されるとは思っていなかったのだろう、ぎゅっと目を瞑り眉を寄せた顔に、僕はまたひどく興奮してしまった。
掴んでいた頭を離すと彼がゲホゲホと苦しげに咳をしながら、僕のペニスを吐き出した。
唇の端から僕が放出した白濁が、とろりと顎髭まで滴る。
「あ、すいません、思わず……」
はっと我に返って僕は情けない声を出した。
ゴホゴホ咳き込んで白濁を顎から滴らせつつ、彼が目を上げて苦笑してきた。
「いや、いいよ。突然だったからちょっとびっくりしたかな」
やや肩を竦めて言う。
「でも、ありがとう。結構抵抗なくできるもんなんだな。これで俺、自信ついたよ。精液も飲めちゃったしな」
手の甲で唇をぬぐいながら、彼が片目を瞑って笑い掛けてきた。
「…僕も、していいですか?」
「あ、う、うん。…いいよ?」
彼を見ている内にたまらなくなって、僕もフェラチオをしたいと言ってみた。
彼が小首を傾げていいのか、というように聞いて来たので、もちろん、と頷く。
彼をベッドの上に横たわらせ、僕は彼が腰に巻いていたバスタオルを取った。
そうすると、僕の眼前に、彼の全裸が余すところ無く晒け出される。
「いや、なんか恥ずかしいから、そう見るなよ…」
僕がまじまじと彼を見ているのが恥ずかしいのか、頬を染めて彼がそう言ってきた。
けれど僕は、彼の裸から目が離せなかった。
引き締まった上体は先程目にしていたが、腰から下を見るのは初めてだった。
腹筋が美しく付いた腹から形の良い臍、その下には黒々とした茂みが生えている。
彼は股間の毛もつややかな直毛が多かった。
思わず手を伸ばしてそこに指を絡めてみると、陰毛がするりと指から抜けて感触がいい。
その中心、僕のよりはずっと色の濃いペニスはほぼ勃起して、びくびくと脈打っている。
僕は彼が興奮してくれている事にとても嬉しくなった。
根元をそっと握る。
その下の陰嚢を、中指と薬指と小指の3本で掬い上げるようにして軽く指先で転がしてみる。
「……ぁ……っ」
彼が戸惑ったような声を上げた。
陰嚢も興奮によって張り詰めている。
中の二つの玉をぶつかるように転がすと、彼がびくびくっと身体を震わせ、困ったような視線を僕に向けてきた。
「ん…、なんか、ちょっと、変な気分だよ…」
「恥ずかしいですか?」
「う、うん、そうだね。だって俺、君から見たらすっかりおじさんだろ…?そんなおじさんなのに、君みたいな若い子にこんな事してもらって、申し訳ないというかなんというか…」
本当に恥ずかしいのだろう。
上目使いに彼の顔を見上げると、目元をすっかり赤らめ、目尻を下げて伏し目がちにしている。
僕と目が合うと、居たたまれないというようにぱちぱちと瞬きをして、視線を逸らす。
その様子が、僕よりもずっと年上の男だと言うのに、いや、そうだからこそだろうか、反対にとても愛らしく可愛く思えて、僕は自分が今迄にないほどに興奮しているのを感じた。
興奮してくると、目の前で脈打っている、桃色の熟れた果実のような先端が、とても美味しそうに思える。
唇を大きく開いて、パクリ、と咥える。
唇を窄めてこそげるようにして、喉奥までペニスを飲み込む。
「――あっ!」
彼の引き締まった内股がびくっと痙攣し、その筋肉の引き攣れが僕の肩に伝わってくる。
飲み込んだ肉棒は咥内でびくびくと脈打ち、裏筋を流れる血液の動きまで伝わってくるようだった。
かぷ、と噛むと、歯を押し返すほどの硬い弾力のあるソレに、思わず数度歯を立ててしまう。
「いっ…ぁ…っっ…んっ…」
彼が戸惑ったような少し高い声を上げる。
「大、丈夫、なのか?その、無理、しなくてもっ…」
切れ切れに戸惑いながら言ってくるが、僕は勿論大丈夫だった。
大丈夫どころか、どんどん興奮の度合いが高まってくる。
喉奥まで深く咥え込み、右手で咥え切れなかった肉茎の根元の部分を握る。
左手はその下の陰嚢を掬い上げるように包み込んで、僕は口と右手と左手三点で、ソコを愛撫した。
右手と口は動きを連動させて、肉茎を万遍なく扱く。
雁首の下に歯を立ててガリっと引っ掻く。
亀頭を舌でぐるりと舐め回して、鈴口を強く吸い上げる。
フェラチオをするという事自体、勿論、生まれて初めてだったが、こうすれば気持いいのではないか、と思うような事が自然と無理なく想像できた。
しかも、そうすると彼がびくびくっと身体を震わせて感じてくれるのが、分かる。
それがとても嬉しかった。
そうやって愛撫しながら僕は、彼がベッドに置いたジェルに右手を伸ばした。
蓋を取って、手の平にたっぷりと、透明なジェルを絞り出す。
少し甘い匂いのするそれは、淡いピンク色をしていた。
それを指先にたっぷりと付けて、その指を、どきどきする胸を抑えながらそっと彼のアナルに忍ばせた。
陰嚢の下からすっと指を滑らせる。きゅっと窄まった襞に指先を触れさせ、ジェルを塗り込んでいく。
明らかに彼が緊張したのが分かった。
けれど、僕はもう楽しくて仕方がなかった。
楽しい、というのは語弊があるかも知れない。
けれど本当に楽しかった。
わくわくしてどきどきして、初めてセックスをした時の少年のような心持ちだった。
ジェルをたっぷりと指先に乗せる。その指をつぷ、と彼の肛門に挿入する。
襞にも十分過ぎるほどにジェルを塗り込めてあったから、指は抵抗なくぬるぬると入っていった。
指の根元までぐっと埋め込む。
「あっ…な、んかっ…へ、んな感じっていうか、なんていうか…っ…」
彼が息をぐっと飲んで、上擦った声を上げてきた。
僕は亀頭のみをぱくりと咥えた状態で、彼を上目使いに見た。
彼は先程よりももっと顔を赤くし、目元を潤ませて僕を見下ろしてきた。
琥珀色に光る目尻にきらりと涙が光って、垂れた眉尻と震える唇が何とも言えない色気を醸し出している。
とても恥ずかしそうだった。
自分の年齢とか性別とか、そういうのを考えて必要以上に羞恥を感じているのだろう。
でもそんな風情が反対に、艶やかな色気を放っている。
よく見ると、興奮からか、しなやかについた胸筋の頂点、小さな乳首もつんと尖っていた。
美しく揃った腹筋も微かに震えて、そういう肢体を眺めているだけでも興奮してしまう。
「痛くないですか?」
僕が聞くと、彼は小刻みに何度も頷いた。
「じゃあ、もうちょっと指増やしますね」
そう言って僕は指を一度ぐるりと内部で掻き回してから引き抜いた。
今度は中指にもジェルをたっぷりとつけて、二本一気にアナルに突き刺す。
「ひっ…!」
彼が引き攣った声を上げたが、指は易々と体内に飲み込まれていった。
指先が、とろとろに蕩けた粘膜に当たる。
進めればぬめぬめと絡みついてくるようで、柔らかく蠕動しながら指を奥へ奥へと誘い込んでくる。
二本もやはり根元まで埋め込む。
熱くて熱くて溶けそうな粘膜の感触に、下半身が爆発しそうになるのを堪えながら、僕はそこで指の第二関節をぐっと折り曲げた。
その辺に、前立腺があるはずだった。
書物で得た知識に過ぎないが、前立腺を刺激すればかなりの快感が得られるはずだ。
慎重に指を蠢かしながら探っていくと、ぬるぬるとした粘膜の向こうにこりっとした部分があった。
そこを指先でぐりっと擦ってやる。
途端に指が千切れるほどに締め付けられ、彼の身体がびくんと跳ねた。
「あっ――あっっ!なんだ…?」
彼が戸惑ったような声を上げる。
ここか、と思って僕はそこをぐっぐっと指先で押しながら、指を回してみた。
「やっあーっ…あ、…っぁ…っデ、ビットっ…!」
途端に彼が高い調子の声を上げて喘ぐ。
口の中でねぶっていたペニスがぐんと反り返って、思わず口から飛び出てしまう。
「やっ、だ、めだっ…な、んか、ヤバいっ…!」
かなり戸惑っているのだろう。
彼がまるで悲鳴のような声を上げながら、足を閉じようとして僕の身体を強く挟んできた。
「あーっ…や、べぇってっ!ちょ、っと待ったっ!、そのっ、イっちゃいそうだっ…!」
彼が手を伸ばして僕の髪をぐっと掴んできた。
顔を上げて僕は彼を見た。
すっかり涙目になった彼が唇を震わせ、お願いをするように僕を見てきた。
目尻から涙がつっと垂れて、頬を流れていく。
睫に涙の粒がたまって、ふるふると震える。
鼻の穴から鼻水も少し垂れているようだった。
普段なら、そんな情けない顔を見たら、なんだこの人は、と思うはずなのに。
今はそんな顔を見ると、たまらなく興奮した。
ぞくぞくとして、身体中の血が、ペニスに集まっていく。




「虎徹さん…じゃあ、そろそろ、…いいですか?」





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