◆1◆
ふんふんふんと鼻歌が漏れる。
いつもと同じように、普段通りに歩いているつもりだが、なんとなくスキップしたくなるような気持ちになる。
午後の日課になっているトレーニングセンターでのトレーニングを終え、虎徹はうきうきとしながらアポロメディア社の社員ゲートを潜り、エレベータに乗ってヒーロー事業部に戻ってきた。
最近、毎日が充実していて楽しい。
相棒のバーナビーとも、先日のジェイク・マルチネス事件以来ぐっと親密になった。
あの時負った怪我も全快し、ヒーローとしての仕事も順調だ。
バーナビーからは『おじさん』というあだ名ではなく、『虎徹さん』と名前で呼ばれるようになった。
それだけではない。バーナビーが心を開いて自分に接してくれるようにもなった。
そんな訳で、つい鼻歌の一つも歌いたくなってしまう心持ちなのだ。
そんな浮かれた気分のままヒーロー事業部に戻り、『今帰りました』と言おうとして、ふと、ヒーロー事業部の雰囲気が重いのに気が付く。
うきうきしていた足を止めて恐る恐るオフィスに入ると、オフィスの片隅、部長であるアレキサンダー・ロイズの部屋の前で、ロイズとバーナビーが二人で何やら深刻そうに話しているのが目に入った。
二人でこそこそと話している。バーナビーが秀麗な顔を顰め、ロイズに小さく頭を下げて謝罪しているようである。
(なんだろう…)
バーナビーがロイズに謝るなんて、滅多に無いことだ。自分ならいつもロイズに謝っているが。
ロイズがこれから注意してくれ、とでも言うようにバーナビーの肩を叩き、ドアを開けて部長室に戻っていった。
残ったバーナビーがデスクに戻ってくる。
憂鬱そうに溜息を吐いて椅子に座ったのを見て、虎徹もバーナビーを窺いながら隣の自分のデスクに座った。
「…どうしたんだ?」
バーナビーにそれとなく話しかけてみる。
バーナビーがふぅ、と小さく息を吐いて肩を落とした。
「いえ、ちょっと…」
ここでは話しにくい内容なのだろうか。それとも自分には聞かせられないような内容なのだろうか。
非常に気になる。
「何か言われたんじゃねぇのか? 俺たちバディだろ、もし悩みとか嫌な事があるんだったら聞きたいんだけど」
そう言うと、バーナビーがどうしようかと逡巡する様子を見せたので、虎徹はもう一歩踏み込んだ。
「そうだ、今日の帰りどこかに飲みにいかねぇか? 話してくれなくても別にいいから。それより気分転換どうだ?」
「だったら、虎徹さん、僕の家に来ませんか?」
バーナビーがそう言ってきたので、虎徹は一にも二にも無く頷いた。
バーナビーのマンションには、この間一ヶ月ぐらい前に初めて泊まった。ゴールドステージの中心に聳え立つ素晴らしいマンションだ。
もっとも先日泊まった時は市長の息子を預かるという特殊な条件の下だったから、酒を飲んだとはいえ、特に打ち解けた話をしたわけでもない。
それにあの時はまだバーナビーが自分に対して心をあまり開いてくれていない時期で、話を聞くというような間柄でもなかったように思う。
だがあの後関係は変わって、今ではバーナビーはすっかり打ち解けて自分を頼りにしてくれている。虎徹としては、もっと彼が自分に打ち明けたり話したりして頼ってくれるといいな、などとも考えている。
「じゃあ、お前んちな。帰りになんか買っていこうぜ? な?」
沈んだ様子のバーナビーに元気づけるようにそう言って、バーナビーの肩をぽんぽんと叩く。
バーナビーがそれにつられて少し笑顔を見せたので、虎徹は内心ほっとした。
* * * * *
終業時刻になって二人でアポロンメディア社を出て帰りがけ、ゴールドステージの上品な店で夕食や酒を買い込む。
バーナビーのマンションに着いて、買ってきたもので夕食にする。
ワインや焼酎が半分ぐらい無くなる頃には、虎徹も結構酔いが回ってきたし、バーナビーもほんのりと頬が赤くなっていた。
取り留めのない話はずっとしていたが、そろそろ聞いても良いかと思って、虎徹はバーナビーを窺いながら切り出してみた。
「今日、ロイズさんに怒られてただろ? 会社じゃ言いづらいかもしれないけど、ここなら誰も聞いてるヤツいねぇし、なんでもいいから聞かせてくれよ」
そう言ってみるとバーナビーが目線を左右に揺らして俯いて、持っていたワイングラスをテーブルに置いた。
「俺たちコンビだろ? お前の問題だったら俺の問題でもあるって事だしな。もし悩みがあるんだったら二人で考えようぜ? そうすればうまくいくよ」
もうちょっと水を向けてみる。
するとバーナビーがやや小首を傾げて小さく息を吐き、それから俯いていた顔を上げて、虎徹をじっと見つめてきた。
「……そうですか…?」
「あぁ、……な?」
だんだん態度が軟化してきたようなので更に催促してみる。
「どんな内容でも聞くぜ? バニーちゃんの話ならきちんと聞くよ。俺の事信じろよ?」
「そうですか……」
バーナビーが形の良い眉を少し寄せながら、ぽつりぽつりと口を開いた。
「……実は、その……数日前なんですが」
「ん」
「……ちょっと気晴らしに誰かと………」
「……ん?」
そこでバニーが言いよどんだので、虎徹はなんでも聞くぞ、というようににこっとして見せた。
バーナビーが眉間に皺を寄せ、掛けていた眼鏡の蔓を少し手で押し上げて、思い切ったように一気に話し始めた。
「誰かとですね、セックスでもしようかと思ってその手の場所に行ったんですよ。そうしたらそこを写真雑誌に撮られてしまったようで、それが雑誌に載りそうだったんです。実際には発行する前に会社の方で圧力を掛けてくれて雑誌に載らなくてすんだんですが…。でも、もう絶対にそういう危険な事はするんじゃないと、ロイズさんにきつく叱られていたんです」
「………セ、セックスしようって…? バニーちゃんが?」
「そうですよ?」
開き直ったのか、バーナビーが低い声で答えた。
「あー…うーんと、もしかして、風俗とか行こうとしてたの?」
「いえ、違います。男だけが集まるバーですね、言ってみれば」
バーナビーが肩を竦めた。
「あ、僕、実は同性愛者なんです」
「へ……?」
それは知らなかった。虎徹は内心驚いた。
今まで結構親密に付き合ってきて、バーナビーの性格や好みなど、自分ではかなり分かっていたつもりだった。が、重要な部分を知らなかったという事になる。
考えてみると、バーナビーと性に関する話をした事は今までに無かった。
自分からすることもないし、バーナビーがそんな話を振ってくるはずもない。
バーナビーの外見や女性に対するスマートな身のこなしを見聞きするにつけて、昔から女性にかなりモテていて、その手の相手には事欠かなかったのだろうとか、勝手に自分の中で女性にモテモテのバーナビー像を作り上げていた。
何しろバーナビーと言えば女性の憧れの的で、本人もいかにも王子様という雰囲気で、どこに行っても女性にキャーキャー言われている。
そしてその女性達にそつなく対応するバーナビーを見ていれば、そういう風に誤解してしまうのも当然だろう。
意外なプライベートを聞いて、虎徹は思わず返答に詰まった。
「こんな話、気持ち悪いですよね。すいません、虎徹さん」
バーナビーが話した事を後悔するような感じで言葉を濁しながら言って来たので、虎徹は慌てた。
「い、いや、ンな事ねーよ。だってそういうのって、ほら、人それぞれだし、な? そういうプライベートな事打ち明けてくれて嬉しいよ、バニーちゃん」
虎徹はバーナビーを傷つけまいと早口で言った。
「で、でもさぁ、バニーちゃん、なんでそういうお店みたいな所に行ったの? 誰か、そのー…。男同士でも全然支障ないんだしさ、ちゃんとお付き合いしてる人とか、そういうの、いねーの?」
虎徹の返答にややほっとしたのか、バーナビーが強張っていた表情を和らげつつ、小さく肩を竦めた。
「そういうの面倒くさいじゃないですか。付き合うとかだと感情が入るでしょ。そうするといろいろと。後腐れのない身体だけの関係ってのが気楽でいいんですよね」
「あ、そう……そうなの…」
またもや意外な事を聞いて、虎徹は思わずぱちぱちと瞬きをした。
バーナビーの個人的な付き合いについて今まで全く知らなかったというのもあるが、彼が感情と身体を切り離してドライに考えるタイプだとは思いも寄らなかった。
「今までは気楽に行けてたんですけどね。さすがに今みたいに顔も名前も大々的に広まっちゃっていると、もうどこにも行けないですね。その点は誤算でした」
バーナビーがいかにも残念、というように溜息を吐く。
「…そ、そだね。バニーちゃんの場合は名前と顔を出しちゃってるもんね。っていうかさぁ、そっか…。きちんとした彼氏は要らないのか…」
「えぇ、要らないですね。単に性欲処理だけしたいんで。……それにしても困りました…」
上品な美しい顔から性欲処理などという直接的な台詞が飛び出すと、ギャップにぎょっとなる。
なぜか胸がどきどきとしてしまって、虎徹はバーナビーにそれを悟られまいと密かに深呼吸をした。
「バニーちゃんなら綺麗で美人だから、その、バニーちゃんのこと抱きたいって言う男ならいくらでもいそうだけどねぇ? ……っていうか、そっか、今まではいっぱい居たのか。そういう所で相手見つけてたわけか…」
自分で言っておいて、思わず恥ずかしくなって頬を赤らめる。
「あ、違いますよ、虎徹さん。僕、抱かれる方じゃなくて、抱く方なんです。タチです」
「へ…? あ、そ、そう…」
またしても予想外の事を言われて、虎徹は思わず目を丸くしてバーナビーを見た。
生々しい内容の会話をしているのに、バーナビーは平然としている。
そういう所はオープンなのだろうか。
反対に自分が恥ずかしくなってしまう。
「そ、そか…。バニーちゃん、その、…タチなのね…。うん、格好いいよ…。そっちでもさ、きっとすごい人気者だったんだろうね…」
なんと返答して良いか分からなくなって、ぼそぼそと口籠もりながらそう言う。
「まぁ…、でもともかく、もうそういう手段が取れなくなりましたからね、困りました。ロイズさんにあれだけきつく言われてしまうともうお店に行くというわけにも行かないし。行ったら行ったで絶対カメラマンとかが待ち構えていそうですよね」
「うーん…。そだね。一度そういう風に目を付けられちゃうとね。今回は、会社の方で圧力かけてくれたから良いようなものの、またどこかで写真撮られて知らないうちに雑誌に出ちゃうって可能性もあるもんな…」
今までそういうマスコミ関係に疎かったので、その辺の事については虎徹にはよく分からない。
が、それでも人気者の芸能人がプライベートな写真を撮られてそれが雑誌に載り、大騒動になって離婚したりとか、あるいは人気が凋落するという事例はよく見てきているから、バーナビーがそういう立場になってしまったという事も分かる。
「あのさぁ、そのー……。え、ええっと…セックス、しないと、やっぱ、ダメ?」
恥ずかしかったが、ちょっと切り込んで聞いてみた。
「えぇ、それは必要ですね。僕の場合、セックスはストレス解消も兼ねていますからね。メンタル的に必要なんですよ。だから、本当深刻ですよ」
「そ、そうか…」
精神的に必要とあれば、で、ストレス解消にもなっているとなれば、それができないとなるとかなり深刻だろう。
自分の場合はヒーローとして出動すること自体がストレス解消になっている。
更に言えば、出動してやたら物を壊してしまうが、あれがもしかしたらストレス解消になっているのかもしれない。
もしあれを絶対やるな、絶対物を壊さずに市民を助けろ、などと言われたら、確かにそんな事できそうにないし、どうしたらいいか分からなくなってしまう。
バーナビーもきっとそういう状態に近いか、もっと深刻なのかもしれないな、と虎徹は思った。
小さく溜息を吐き肩を落として、バーナビーがぼんやりと窓の外を眺める。
バーナビーの部屋の、床から天井まで一枚の強化硝子で仕切られた窓の外は、遙か眼下に百万ドルの夜景と言っても過言ではない美しいシュテルンビルトの街並が煌めいている。
その向こうの海の遙か彼方、水平線の上には街の灯りにかき消されて殆ど見えない、僅かな星が瞬いている。
(こんないい所に住んで、外見も人気も申し分なくて素晴らしい才能を持っているのになぁ)
四歳の時に両親が殺害され、それから復讐一筋に生きてきたという特殊な生い立ちが、彼の人格形成に多大なる影響を及ぼしているのだろうか。
この間その復讐を遂げたとは言え、それまでの二十年間の人生を明るく幸せなものに戻せる訳もなく、その二十年を背負ったまま、これからも生きていかなければならないわけだし。
(性欲処理のためだけ、とかなぁ…)
自分の恋愛経験や結婚生活を思い起こして、虎徹はどうにも居ても立ってもいられない気持ちに駆られた。
元々バーナビーの事は、コンビとして気に掛けている以上に、なんとかしてやりたいという気持ちが大きい。
少しでも彼に幸せになってもらいたい。彼にふさわしい素晴らしい人生を歩んでもらいたい。
バーナビーの事を知れば知るほど、虎徹はそう思うようになってきていた。
なんとか、彼を笑わせたい。慰めたい。
そういう風に思うと、何かしてあげなくてはという気持ちで、居ても立っても居られなくなるわけだ。
その時もそうだった。
バーナビーが溜息を吐き、寂しそうに夜景を眺めている横顔を見ると、虎徹はどうにも落ち着かなくなった。
なんとかしてやりたい。なんでもしてやりたい。
少しでも笑わせたい。
にこにこ幸せそうにしていて欲しい。
彼の望みを叶えてやりたい。
「じゃ、じゃあさ、あの、……俺とか、どう? 俺が相手するってのは?」
―――なんで、そんな事を言ってしまったのか。
とにかくその時、寂しそうなバーナビーの横顔を見ていたら、思わず口からそういう言葉が出てしまったのだ。
「……え?」
ぼんやり窓の外を眺めていたバーナビーが振り返って翠の美しい瞳を大きく見開いて、虎徹を見つめてきた。
「虎徹さんが…?」
「……う、うん…」
『なんでこんな事言っているんだ』という声が頭の片隅で聞こえてきた。が、言ってしまったからには後には引けない。
虎徹は引き攣りながらも笑顔を見せた。
「お、俺じゃ、やる気にならねーかな?」
ぱちぱちと何度も瞬きをして、バーナビーが虎徹をまじまじと見つめてくる。
「いえ、その…、そんな事ありませんが…。でも、虎徹さん、男とした事ないでしょ?」
訝しげに問い掛けてくる。
「あ、うん…ない…」
そりゃあ勿論ない。
だいたい、自分が今口にした言葉だって、なんでそんな事言ってしまったのか、信じられないぐらいなのだ。
引き攣った笑みのままバーナビーを見る。
バーナビーが形の良い眉頭を顰めた。
「いいんですか? 僕に抱かれてくれるんですか、虎徹さん? ……あなたが相手をしてくれるんだったら、僕としても助かりますが」
助かるなどと言われて虎徹は一瞬どきんと心臓が跳ねた。
―――どうしよう。
今更ながらに、心臓がどきどきとなる。
急速にアドレナリンが分泌され、体温が上昇するのを感じる。
「そ、そりゃあその……。だってさ、バニーちゃんが苦しそうなの見てるのやだもん、俺…。俺で役に立つなら、いくらでも……っていうか、その、…マジ俺、できるかどうか分かんねーけど…」
『できます』と断言する事ができなくて、ごにょごにょと口を濁しながら歯切れ悪くそう言うと、バーナビーがすっと手を伸ばして虎徹の手を握ってきた。
一瞬、びくっとして、虎徹は目を上げてバーナビーを見た。
バーナビーの翠の虹彩が虎徹に確認を促してきた。虎徹は目線を合わせたままおずおずと頷いた。
「虎徹さん、後悔しないで、くださいね?」
バーナビーが低くゆっくりとしたテンポで、一言一言区切るように言ってきた。
「お、おう…大丈夫だ…」
実を言うと、心の奥底で既に後悔が湧き起こっているような気もしたが、しかし、今更ここでやっぱりダメなどと言うのは男の沽券に関わる。
一度口にしたことを軽々しく翻すなんて、そんな事虎徹のプライドが許さなかった。
……実際の所は、……本当にできるんだろうか。
いや、でもまぁ、自分が抱く方ではなくて抱かれる方だとしたら、興奮しなくても大丈夫かもしれない。
しかしそれではバーナビーに失礼なのではないか。
だが、とりあえず、抱かれる方なら勃起できなくてもいいわけだ。
(………)
などと頭の中でぐるぐる考える。
バーナビーが虎徹の手を握り込んで、そっと撫でてきた。
指の腹で自分の指の股を探るように擦ってくる。
それがいかにもこれから性的接触を持ちますよ、という雰囲気を醸し出してきて、虎徹は息を飲んだ。
バーナビーがいつものバーナビーではなかった。
「虎徹さん……、虎徹さんが痛い思いをしないように気をつけます。じゃあ、シャワー浴びてきてもらえます?」
「あ、う、うん…」
目線に捕らわれて動きがどうしてもぎくしゃくする。
なんとか立ち上がると、虎徹はシャワールームへと向かった。
* * * * *
シャワーから出ると用意してくれたのだろうか、バスローブが置いてあった。
素肌にそれを羽織る。急にどきどきしてきた。
本当にこれから、バーナビーと……。
自分から言い出した事なのに、信じられない。
どこか非現実的だ。
おずおずと戻ると、寝室への扉が開いていた。
「ちょっとここで待っていてくださいね。僕もシャワーを浴びてきます」
寝室に顔を覗かせると、ベッドサイドに座っていたバーナビーが立ち上がった。
「う、うん…」
自分と入れ替わりにバーナビーが寝室を出て行く。
後ろ姿を見送って、虎徹ははぁと息を吐いた。
ベッドを見る。
ベッドヘッドにコンドーム。それとジェルが用意されていた。
どっちも高級ブランド品で、使った事もなければ見た事もないような高そうな品だ。
まんじりともしないでそれを見つめる。
コンドームもジェルももっと廉価なものなら自分でも使用していたから見慣れたものではあるが。
急に生々しく感じて、虎徹は赤面した。
どうしよう。
突然羞恥心が湧き起こる。恥ずかしい。
今ならまだ間に合う。このまま帰ってしまおうか。
やーぱり無理、と書き置きをしておけばいい。
バーナビーに失礼な事をしてしまうが、でもまだ引き返せる。
「………」
いや、ダメだ。そんな事できるわけがない。
ここまで来ておいて、自分から抱いてくれと言い出したのに土壇場になって逃げ出すなんて、そんな卑怯な事はできない。
もしそんな事をしたら、バーナビーの信頼を一気に失ってしまう。折角信頼してくれてきたのに。
今までの努力が無駄になるどころか、もっと悪くなる。
そんな事になるぐらいなら、バーナビーに抱かれた方がいい。ずっといい。
「……はぁ…」
思わず溜息が漏れる。
まんじりともしないで待っていると、寝室のドアが開いてバーナビーが入ってきた。
(続く)
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