◆After a storm comes a calm.◆ 5




「最近、コンビがますます良い感じになってきたわね?」
「えー、そうかぁ?」
「やっぱりあなたベテランね。悪くないんじゃない?」
出動の後、アニエスに声を掛けられて、虎徹はフェイスガードを上げてへへっと笑った。
確かに、自分でもそう思う。
コンビとしても良くなってきたし、自分もポイントを稼げるようになってきた。
勿論、自分は市民の救助が第一優先でポイントなどは二の次だが、それでも市民の救助ができて更にポイントも稼げるとあれば一石二鳥、悪い事はない。
バーナビーの方をちらっと見ると、バーナビーもフェイスガードを上げて美しい顔をにっこりと微笑ませていた。










「おじさん、今日は結構いい活躍をしたじゃないですか?」
夜、バーナビーの部屋に招かれて二人で食事をし、それからいつものように抱き合ってセックスをしてその後。
以前はセックスをした後は、虎徹はバーナビーの自宅を辞して自分のブロンズステージの家に帰っていた。
が、最近はそのままバーナビーの部屋に泊まるようになっている。
セックスが終わった後もすぐに後始末したりせず、そのままバーナビーの腕に抱かれ胸元に顔を寄せ、髪を撫でられたりしている事が多い。
その日も激しいセックスが終わった後、バーナビーが虎徹を抱き寄せてきたので、虎徹は大人しくバーナビーの胸に顔を擦り寄せた。
いい年をした中年が、10歳以上も下の若者相手にこんな甘えるような仕草もどうかと思うが、でも心地良くてうっとりする。
理性を働かせると恥ずかしくてたまらなくなるから、ここは無理にでも考えないようにして身体の快感に浸ってしまう。
熱を持った身体ごと、体温の低いバーナビーの肌に密着していると、陶酔した気分も相俟って身体全体がリラックスし、そのまま安らかな眠りに就いてしまいそうになる。
結局、ついうとうととしてしまったらしい。
気がつくと、虎徹はバーナビーの腕からは少し離れ、ベッドの中で眠っていた。
寝ている間に寝返りを打ったのだろう、バーナビーとは反対の方向を向いていたので、ごろりと身体を反転させてバーナビーの方に向き直る。
彼の寝顔は眼鏡が無いのと幾分きつい視線が瞼で閉じられているせいか、少し幼い雰囲気を漂わせていた。
間近で寝顔を見る。
穏やかに眠っているらしく、いつもの気難しそうな表情もしていない。
閉じた瞼の先にびっしりと生えた睫は金色でくるりとカールしており、まじまじと見つめると本当に彼が美しい造形を持った人間であるという事が再認識された。
すらりと高い、形の良い鼻梁。
少し開いた唇は桃色で柔らかそうで、ついキスしたくなる。
頬は少しだけ上気しており、肌理の細かい滑らかなその頬に虎徹は無意識に指の腹を触れさせていた。
軽くほんの少し触れるだけにして、すぐに手を離す。
暫くそうやって寝顔を見ていると、虎徹は、幸福な気持ちに加えて、何か胸の奥がきゅっと詰まるような、少し泣きたくなるような、そんな気持ちを覚えた。
泣きたくなって、胸がいっぱいになる。
バーナビーにもっと近付きたいのに、でも近付くのが怖いような気持ち。
はっきり言って、自分のようないい年をした大人が抱く気持としては、言葉にするには恥ずかしいような、そんな気持ち。
けれどその気持ちがなんなのか、既に虎徹には分かっていた。
『好き』という気持ちだ。
自分はバーナビーの事が………『好き』になっていたのだ。
そうだ、………好きなんだ。
この感情は、随分と昔だが、恋愛した頃に持っていたものだ。
相手を見ているだけで嬉しくなって、もっと触れたいと思ったり。
笑ってくれると自分まで嬉しくなったり。
相手が怒っていると不安になって、居ても立っても居られなくなったり。
肌が触れ合って二人だけで過ごす時間がたとえようもなく幸せで、どうにかなってしまいそうになったり。
そんな気持ち。
―――つまり、自分は恋をしているのだ。
元々、虎徹は遊びでセックスができるような性格では無い。
バーナビーとこうなる以前は、そういう肉体的接触とは何年もご無沙汰だった。
結婚していた頃は勿論、愛する妻と満ち足りた時間を過ごしていたが、その妻が自分を残して逝ってしまった後は、長い間一人きりだった。
無理に性交渉をしようとも思わなかったし、しても空しくなるだけだとも分かっていた。
今回バーナビーの方から、ほぼ無理矢理、強要されるような形でこういう関係が始まってしまって、最初は自分でも、感情が伴わないでこういう行為ができるという事に驚きもした。
けれど、こうして身体を何度も繋げ、それが習慣となってくれば、心も靡いてくるのは当然だった。
特に自分はバーナビーの事が最初から嫌いというわけではなかったし、むしろ打ち解けてきてからは好ましい相手だと思っていた。
それに、最初に身体を繋げた時に不快ではなく、反対に気持ちが良かった、という事もある。
自分の性格からして、好きでも何でもない相手とこういう行為をして気持ち良くなるはずなど無い。
それが、最初から気持ちが良かった。
つまり、自分はバーナビーの事を意識はしていないまでも、心の底では好きだと思っていた、という事だ。
その気持ちがどんどん育っていって、今ではこうしてバーナビーの顔を見るだけで切なくなって泣きたくなるぐらいに、彼の事が好きになってしまったという事だ。






「……………」
虎徹は目を閉じて小さく溜息を吐いた。






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