◆Daisy◆ 4
「お、おう……」
まるで、これでは自分がこれから童貞を捨てる少年みたいだ。
と、内心恥ずかしく思いながらもバーナビーの方へ行く。
自分から言い出した事であるが、いざとなると虎徹は尻込みする自分を感じていた。
自分がこれから何をしようとしているのか、――考えると理性が邪魔をしそうで怖くなる。
対するバーナビーはそういう経験がそれなりにあるからだろうか、虎徹に比べると落ち着いていた。
ベッドに腰を掛けて足を組み、バスローブの袷から白く引き締まった足をしどけなく露わにして、くつろいだ様子である。
今までトレーニングセンターなどでシャワーを浴びることも多かったから彼の裸自体は見慣れていたが、これから彼と………という思いで彼を見ると、全く違った意味でその肢体を見る事になって、虎徹は落ち着かなくなった。
シャワーを浴びた後どうしようかと悩んだ末、虎徹はいつも寝ている時に着ているTシャツとハーフパンツを身につけていた。
どうせなら潔く裸で来るべきだったか。……いや、それも恥ずかしい。
というか、やはりどこかこれが本当の事なのかといぶかしむ気持ちがあるのかも知れない。
手招きをされて躊躇しつつ、バーナビーの隣に座る。
バーナビーが虎徹の顔を覗き込むように上体を傾けてきた。
「大丈夫ですか?」
気遣われて、顔が赤くなる。
「大丈夫、気にすんなよ…」
「無理しなくていいんですよ?」
申し訳なさそうにバーナビーに言われて、更に頬が赤くなる。
「無理なんかしてねぇよ」
そう言って照れ隠しのように手を伸ばすと、虎徹はバーナビーの顎に手を掛けた。
取り敢えずここは……まずキスからだろう。
身体だけの関係というのにキスを入れていいのかどうか迷ったが、考えてみたらバーナビーは公園でキスをしていたのだから、大丈夫なはずだ。
そう思って、おずおずと顔を寄せる。
バーナビーが少し肩を竦めて口角を僅かに挙げ微笑むと、ゆっくりと瞼を閉じた。
瞼を閉じると、金色の長くカールした睫が、ばさりと音を立てるぐらいに揺れた。
近くで見れば見るほど滑らかで、肌理細かな白い肌。
湯上がりだからだろうか、暖かくて石鹸の良い匂いがする。
まじまじと間近で顔を眺めて、虎徹はつくづく美しいと感嘆してしまった。
これなら、バーナビーがその気になって迫れば、どんな女でも簡単に落ちるだろう。
よく分からないものだ。
どんな相手とも好きなように付き合えそうだだ。
ヒーローだからといって別に個人的な交際まではとやかく言われないはず。
あまりにも不釣り合いな相手では会社の方で困るだろうから、そこは自ずと制限があるだろうが、ある程度の相手なら問題はないはずだが…。
まぁでも男が好きなのか…。
いや、男だってある程度の人間だったら大丈夫なんじゃないのか、どうなんだろうか…。
顔出しのヒーローということで、そういう点では厳しいのかも知れない。
などと考えつつ顔を見る。
ふっくらとして柔らかそうな桃色の唇が、ほんの少し尖っている。
誘われるようにして虎徹はそこに自分の唇を押し当てた。
一度軽く押し当てて、その柔らかな感触にびくりとする。
(やべぇやべぇ…)
思わず唇を引いて、それからもう一度押しつける。
意外なほどに柔らかくふんわりとしたその感触が、その唇が成人男性のものである、という事を忘れさせるぐらいだった。
柔らかくて、まるで思春期の少女とキスをしているような気分にも陥って、どこか罪悪感を覚える。
ちゅ、と押し当てて、ちゅっちゅっと何度か啄むようにし、舌を伸ばしてバーナビーの咥内へするりと舌を差し入れる。
バーナビーが応えて、虎徹の舌に彼の舌を絡ませてきた。
ぬめった粘膜同士が絡まり合えば、ぞくっとそこから明らかに身体を興奮させる刺激が生まれ、熱がダイレクトに股間に集まる。
そのようなディープキス自体、虎徹は久しぶりであった。思わず夢中になってしまった。
角度を付けて首を傾げ、深く口づけてバーナビーの舌を吸う。
バーナビーの両手が虎徹の頭に回され、それからそのまま身体が引き寄せられてバーナビーと共にベッドに沈む。
仰向けになったバーナビーの上に圧し掛かるような形で身体が重なり、バーナビーの手が虎徹の後頭部を梳いてくる。
重なって触れ合った部分のバーナビーの体温が布地越しながらも感じられ、思わず腰を押しつけると、バーナビーの股間で硬く変化しているものが虎徹の腰に当たった。
(…………)
思わずはっとして唇を離す。
バーナビーが名残惜しそうに瞼を開けた。
見上げてくる緑の瞳が潤んで、いつものバーナビーではなくなっている。
初めて見る表情だ。
いつもの鋭い視線が柔らかく潤み、ほんのりと赤みの差した頬と翠の目、長い金色の睫の対比が美しい。
額に乱れ掛かる金髪やシーツに広がった髪も、元々の造形の美しさに得も言われぬ色気を加わらせていた。
まじまじと見つめているとバーナビーが軽く首を傾げた。
「いや、悪い…。その.なんつうか……キス、気持ちいいな…」
思わず素直な感想を漏らすと、バーナビーがくすっと笑った。
「おじさんのキス、僕も気持ち良かったですよ…貴方らしくて、情熱的だ」
「おいおいそれ、褒めてんの?なんていうか照れるんですけど…」
バーナビーが真面目に褒めてきたので、ものすごく恥ずかしくなる。
「続き、できそうですか?」
「お、おお…なんか、いけそうな気がする…」
「じゃあ…」
バーナビーの手が虎徹のTシャツの裾に伸び、服を脱がそうとしてきた。
逆らわずに両手を上にあげて、バーナビーが虎徹のTシャツを脱がすのを手伝う。
バーナビーは脱がせたTシャツをベッドサイドに置くと、次に虎徹の穿いているハーフパンツに手を掛けてきた。
バーナビーの前で全裸になった事は今までにないので、男同士とは言え、非常に奇妙な感じがする。
下着と一緒にハーフパンツが引き下ろされる。
虎徹の股間は先程のキスの刺激によって半勃ちになっていた。
それを見てバーナビーが眼を細める。
「なんかおじさんのここ、ワイルドって感じですね…?」
「そ、それは一体どういう意味…?」
「いえ特に意味はないんですけど、…ちょっと美味しそうです」
バーナビーの口から美味しそうなどという言葉が出ると、それだけでどきっとする。
「あ、あんまり見るなよ、粗末だからさ。…お前の方がずっと立派なんじゃねえの?」
どう見ても自分より背も高ければ体格もよく、しかもアングロサクソン系のバーナビーの方が立派なはずだろう。
そう言いながら、バーナビーの着ていたバスローブの腰紐を解いて、今度は彼の服を脱がせにかかる。
もともとバスローブ一枚しか羽織っていなかったバーナビーは腰紐を取られるとするりと袷を開いて、惜しげもなく全裸をさらけ出した。