◆HONESTY◆ 7
それからというもの、バーナビーは虎徹と定期的にセックスをするようになった。
したくなった時にはバーナビーが虎徹に「僕の家に来ませんか」と誘うのが合図だった。
二人で会社を出て、帰りがけにレストランやバーで夕食を食べてくることもあれば、テイクアウトでバーナビーのマンションに届けてもらって食べたりもする。
帰りがけに食材を買い込んで、虎徹が簡単な夕食を作ることもあった。
夕食を食べた後、シャワーを浴びて暫く酒を飲んだりしてそれからベッドに移動する。
セックスをして、その日は虎徹はバーナビーのマンションに泊まる。
そういうパターンが確立しつつあった。
セックスそのものについても、最初は男同士のセックスについて慣れなかったせいか、虎徹は戸惑っている所もあった。
が、何回か身体を重ねるに従って慣れてきたからか、愛撫の仕方やアナルのほぐし方も上達してきた。
バーナビーが自分で準備しなくても、虎徹の方で確実にバーナビーの身体を燃え上がらせとろけさせる事ができるようになってきた。
バーナビー自身も定期的に身も心も満たされるせいか、いらだちや焦燥感が無くなってきた。
出動して確実にポイントが稼げるようになって、コンビとしての動きもうまく行く事が多くなってきた。
それは虎徹にとっても喜ばしい事で、虎徹自身も出動して確実にポイントゲットができるようになってきている。
全てが順調で申し分ないように進んでいる。
これなら自分の長年の懸念であった、両親の殺害の真相について調べる方にも専念もできそうだ。
少なくとも、もう消化しきれない苛立ちを抱えて煩悶することはない。
実際その通りだったのだが――。
しかし、うまく行くにつれ、バーナビーはなぜか一方で、居心地の悪い感覚を抱くようになった。
セックスは気持ちいいし、虎徹はセックスの相手として申し分ない。
それなのに、虎徹とセックスをすればするほど、充実する一方で、バーナビーは何故か表現できない寂しさを感じるようになった。
それがどういう感情なのか、自分でも分からない。
寂しさに一番近いような気がするから、そう思ってみたが、違うような気もする。
どこか胸がざわついて何かが足りないような、何かをどこかに置いてきてしまったような、……そんな気持ちになる。
以前感じていた苛立ちや焦燥とは、それは全く違う。
違うのだが、やはり何かが足りない。
自分が何かを欲しているようである、というのは朧気ながら分かった。
なんだろう。
…気になって落ち着かない。
バーナビーはその居心地の悪さが日々強くなるのを感じた。
「よ、今日アントニオと飲みに行く約束したんだけど、バニーも一緒にどうだ?」
数日後の帰りがけ、バーナビーは虎徹から誘われた。
帰っても特にすることがないバーナビーは少し考えたが、虎徹といられるならと思って承諾した。
飲んだ後はバーナビーのマンションに泊まるという約束もする。
つまり、セックスをするという事だ。
アポロンメディア社を出て、虎徹が行き着けだというバーに行く。
シルバーステージの飲食店街の外れにあるそのバーは、重厚な内装でピアノの生演奏などがあり、あまり広くはないが、リラックスできる空間だった。
行くとアントニオが待っていた。
「よぉ、今日は早いんじゃねーの?」
虎徹が機嫌よさそうにアントニオに声を掛ける。
先にボックス席に座っていたアントニオが、片手を上げた。
その席に行って、アントニオの隣にバーナビーが、虎徹は二人の向かい側に座った。
「あ、じゃ俺焼酎、バニーはどうする?」
「じゃあ、僕はワインで…」
メニューにあった中から適当にワインを選び、虎徹が店員に伝える。
アントニオは既にウィスキーを飲んでおり、そこにフルーツやチーズサラダ、ハムやウィンナーなど様々なつまみも運ばれてきた。
バーナビーはワインをぼんやりと傾けながら、テーブル越しに虎徹とアントニオが仲よさそうに話すのを眺めた。
虎徹が、自分には見せないような開けっ広げな笑顔をアントニオに見せたり、お互いに笑ったりする。
その親密な理由は、ヒーロー仲間であるから、というだけでは無い。
バーナビーは、虎徹からアントニオが虎徹の高校時代からの友人であるという事は聞いていた。
だから、その理由は分かっていた。
それにしても高校時代からというと、既に20年ぐらいは付き合っているわけである。
そう思うと胸の奥がちりちりとして、訳もなく羨ましくなった。
自分には、そういう存在がいない。
学生時代、表面上仲良く付き合う同級生などはいたが、卒業してしまえば誰とも音信不通になってしまった。
両親の敵を取るという事だけを目的にして生きていて、それ以外に不必要なものは全て切り捨ててきた。
だから、考えてみると自分には誰も居ない。
漸く、虎徹という存在ができたばかりだ。
しかし、その虎徹自身は母親もいれば娘も居る。
そして同じヒーロー仲間に、20年来の親友もいる。
二人がにこにこと笑いながら、顔を見合わせる。
明るく信頼に満ちたその関係を見ていると、バーナビーは先程からちりちりと焼かれるようだった胸の奥に、むかむかといらだちが募るのを感じた。