◆26話◆(バーナビー視点)






「ったく、復帰早々君まで賠償金かい?バーナビー君。…ほんと君たちっていいコンビだよ」



ヒーロー事業部のロイズの部屋で、ロイズが呆れたように言った。
ロイズの背後の空は抜けるような青空で、宙にはボセイドンラインの飛行船がいつもと変わらずゆったりと浮かんでいる。
その部屋に二人で並んで立って、バーナビーは虎徹とお互いの顔を見合わせてくすっと笑った。
何をしていても、楽しかった。
こうして虎徹と隣り合って一緒に居るからだ。
――先程、新車の展示場でバーナビーは派手に車を壊した。
虎徹が上から落ちてきたのを、お姫様抱っこしたのが原因だ。
そのせいで今現在、こうしてロイズにこってりと怒られている。
が、そんなのは全然気にならなかった。
なぜなら……。
展示場で虎徹を久し振りに腕に抱いて、その重みを感じて、彼の肉声を耳で聞いた。
息づかいを感じて、ヒーロースーツ越しだが皮膚の下の筋肉の躍動を自分の皮膚で感じとれた。
それだけでもう、バーナビーは嬉しくてたまらなかった。
ロイズの小言など、いくらでも聞ける。
虎徹を抱擁できたのだから、車の代金も自分がいくらでも支払うぐらいのつもりだった。
貯金崩しても、ローン払いでも何でも。
そのぐらいなんでもない。
虎徹に比べたら、――この世に彼以上に大切なものなど、ないから。
その後、虎徹と一緒にヒーロースーツをトランスポーターで脱いで、バーナビーはそのままアポロンメディア社のヒーロー事業部に直行した。
そしてロイズの前にいるというわけだ。
まだアンダースーツ姿だ。
アンダースーツもヒーロースーツも、着用するのは一年ぶりだった。
が、それはまるで昨日まで着ていたように、しっくりと身体になじんだ。
斎藤が念入りにメンテナンスをしていてくれたのだろう。
それが純粋に嬉しかった。
それになんといっても隣に虎徹がいる。
夢のようだった。
と言っても、虎徹と顔を合わせるのが一年ぶりだというのに、全くそんな気はしなかった。
昨日まで毎日会っていて、そして今日も会ったという感じだ。
でも嬉しい……という事は、やはり1年間会っていなかったからなのだろうか。
虎徹がつんつん、と自分の脇腹をつついてきた。
やはりこういう所は変わっていない。
相変わらず悪戯が好きで、ちょっとおっちょこちょいでお調子者だ。
……でも、誰よりも優しくて暖かい。
虎徹に目線を合わせて笑いながら、バーナビーは心の底から暖かくなるのを感じていた。
虎徹の隣にこうして立っていられて、とても幸せだ。
彼がシュテルンビルトに――アポロンメディア社に…ヒーローとして戻ってきてくれて、嬉しい。
彼の言葉が嬉しい。
ずっと死ぬまでヒーローをやると言った、彼の言葉が。
虎徹いつも自分を勇気づけてくれた。
この1年間、バーナビーはずっと、自分探しをしていた。
しかし、こうして虎徹の隣に立つと、しみじみ、自分の居場所は虎徹の隣だと思う。
これからはずっと彼の傍に居たい。
虎徹が嫌がっても、そんな事知るものか。
戻ってきてくれたからには、覚悟してください、とバーナビーは心の中で思いながら虎徹を見て笑顔を浮かべた。










などとウキウキしていたが、現実はやや大変だった。
バーナビーがヒーローに復帰した事で、虎徹は二部から昇格して一部で活躍することになった。
勿論、バーナビーとのコンビも復活だ。
1年ぶりの『タイガー&バーナビー』である。
コンビを再結成するからには、絶対目立ってやりたい。
ヒーロー仲間にも自分たちが完全に復帰したのを知って欲しいし、市民にも、自分たちがまた元通り、いや元以上に素晴らしいコンビとして復活したのを祝って欲しい。
「おいバニーちゃんよぉ、そっちじゃなくてこっちだろ?」
シミュレーションルームでヒーロースーツを着て、バーナビーと虎徹は朝からシミュレーションをしていた。
コンビとしてどう動いたらいいか。
復帰後のクリアすべき第一の課題がそれだった。
これが意外と難しい問題だった。
というのも、虎徹は現在ネクスト発動時間が1分ジャストだからだ。
バーナビーが5分。
虎徹が1分。
これをどううまく組み合わせて、バーナビーと虎徹の4分の差を埋めつつ、両方とも活躍出来るようにするか。
発動時間としては、バーナビーが先に能力を発動させ、虎徹がバーナビーの4分ジャストに合わせて発動する、という事にした。
が、なかなかそれがうまく噛み合わない。
虎徹は元々ネクスト能力を発動していなくても、身体能力が素晴らしい。
ワイヤーアクションなど、思わず見惚れるほどだ。
1年ブランクがあっても、全くその腕は衰えていない。
それどころか、ますます磨きがかかっている。
どうやら、田舎に引っ込んでいる間、暇に飽かせて身体を鍛えたり、山でワイヤーアクションを修行していたらしい。
ちょっとその様子を見たかった、とバーナビーは思った。
山の中で一人きりでとか、格好良すぎるだろう。
そういうわけで、虎徹の身体能力はますます凄かった。
けれどそうは言っても、バーナビーの能力発動時の動きと比べれば、遅いのは当然だ。
4分の間に、どうしても二人の動きに乱れが出てきてしまう。
バーナビーが動きを抑えればその点は大丈夫だが、そうすると、能力を発動した意味がなくなる。
かと言って、虎徹がバーナビーの動きに合わせる事は、生身ではできない。
バーナビーが100動く間に虎徹が1。
その速さで二人の息を合わせるのに、随分と苦労した。
しかし虎徹は文句も言わずに、もくもくとシミュレートをこなした。
バーナビーとコンビを組む限り、バーナビーだけが能力を発動している4分間、それを生身で過ごすのは彼にとっては辛い事だろうと思うのに。
しかし虎徹はにこにこして、文句も弱音も言わなかった。
きっと、もう、心の中で整理がついたのだろう。
虎徹は潔い性格だから、能力減退に気付いた時から、きっと覚悟していたのだろう。
誰にも言わずに一人で悩んで。
当時はバーナビーはそういう虎徹が他人行儀だと少し恨んだものだが。
しかしそういう所も格好良くて、凄い。
惚れ惚れする。
虎徹は、本当に素晴らしい人だ、とバーナビーはしみじみ思った。
シミュレーションの間に、斎藤がヒーロースーツに改良を加えた。
バーナビーが能力を発動すると同時に、虎徹のヒーロースーツも光ってカウントを始め、4分になる直前に虎徹の脳に直接信号を送るようにしてくれたのだ。
その信号で虎徹がネクスト能力を発動させる。
そうすればぴったりバーナビーの4分目で虎徹が能力を発動できる。
グッドラックモードも何回も練習した。
5分ぴったり、虎徹にとっては1分ぴったりでグッドラックモードが決まるように。
久し振りのグッドラックモードだったが、何回か練習してぴったり決まったときの爽快感ときたら無かった。
バーナビーは虎徹が、そしてヒーロー業が大好きなのだと改めて痛感させられたのだった。



BACK   NEXT

 TBサーチT&B SEARCH虎兎Rank兎虎タイバニランク