2 ◆26話◆(バーナビー視点)






シミュレーションが一応なんとか体裁を為すようになって、一休みをしている時。
ビーッビーっと、懐かしい警告音がした。
ひさしぶりに左手首に着けたPDAからだった。
『ヒーロー出動要請。ヒーロー出動要請』
PDAが音声を発信する。
ヒーロー出動要請だ。
ヒーロースーツを装着して、バーナビーは虎徹とバイクに乗って出動した。
現場はサウスシルバーの銀行だった。
銀行強盗が現金を強奪して、車で逃走中らしい。
現場へ赴くと、背後からスカイハイが宙を飛んで追跡している所にぶちあたった。
「おしっ、バニー、行くぞっ!」
虎徹がサイドカーから飛び出す。
「ちょっと、虎徹さんっ!」
慌てて言ったが既に虎徹は飛び出していってしまったあとだった。
(全くこの人は………やっぱり虎徹さんだ)
向こう見ずですぐに飛び出して、危険な場所へも平気で行く。
今は1分しか能力が発動しないのに。――などという事はきっと忘れてるのだろう。
銀行強盗の乗った車は現金輸送車だった。
どうやら、銀行に停まっていたのをそのまま奪ったらしい。
装甲が厚くててごついやつだ。
虎徹は、平気でその真ん前に仁王立ちしている。
生身なのに危ない、…と思う間もなく、現金輸送車が彼に突っ込んでいった。
(あぶない!!!)
瞬間思わずバーナビーは目を逸らした。
それから恐る恐る、虎徹がいたはずの場所を見る。
「………!」
虎徹は思いっきりジャンプして、現金輸送車の屋根の上に乗っていた。
生身なのに、それにヒーロースーツを着用しているのに跳躍力は凄かった。
よく見ると、ワイヤーを現金輸送車の屋根の上の突起に引っかけてそれで跳躍したらしい。
さすが虎徹だ。
超人的な動きだ。
バーナビーは生身ではとてもあんな動きは出来ない。
「バニー、そっち!」
虎徹が怒鳴った。
バーナビーははっとして、現金輸送車の背後から、能力を発動させて飛び乗った。
上空でヘリが飛んでいる音がうるさい。
大音響で、アナウンサーの実況が聞こえる。
『おおっと、ここでバーナビー、能力発動です!相棒のタイガーは、…発動していません!1分のタイガー、いつ発動するのか?コンビとしてどうやって二人のリズムを合わせるのか、そのあたり注目です!』
実況にこちらまで煽られる。
ここで息の合った所を見せつけてやりたい。
自分たちが二人揃えば無敵だって、みんなに知らしめたい。
勿論虎徹はそんな事は気にしていないだろうし、彼的には犯人が確保できれば満足なのだろうが、しかしバーナビーはちょっと貪欲だった。
シュテルンビルトの市民皆に、虎徹は1分しか能力が発動しなくても、全然他のヒーローに劣らない素晴らしいヒーローなのだと、いや、誰よりも格好良くてヒーローの中のヒーローなのだと知らしめてやりたい。
虎徹はそういうのは迷惑だと言うだろうが。
バーナビーはハンドレットパワーのキックで車の後の扉を蹴破った。
収納部分から、札束の入った重い布袋が道路に転がる。
扉をすっかり蹴破ってしまえば、もう転がり放題だった。
屋根の上の虎徹を見上げると、虎徹がピースマークをした。
(…っと、危ない!)
突然、運転席の窓から、虎徹に向けて銃口が突き出された。
「虎徹さん!」
思わず叫ぶ。
虎徹がなんてことないぜ、とばかりに屋根の上で手をひらひらとさせた。
上から華麗なパンチを繰り出して、運転席の窓を打ち破る。
銃口に向かって身体ごと運転席に飛び降りていく。
バーナビーは車の前に回って、走っている車を止めにかかった。
ロックバイソンも待ち構えていたので共同して事に当たる。
虎徹が運転席から、犯人3名を引きずり出した。
「くそっ、テメー、1分ヒーローのくせに!」
犯人の一人が虎徹に罵声を浴びせた。
「うるせーな!1分だろうがなんだろうが、俺がいるかぎり、お前らに好き勝手させねーぞ!」
虎徹が吼える。
それはいかにもワイルドタイガー、という感じだった。
バーナビーは嬉しくて、ぞくぞくした。
これこそ虎徹だ。
絶対めげず、どんな困難にでも体当たりをして、絶望的な状況をも覆してしまう。
それが鏑木虎徹=ワイルドタイガーだ。
犯人が大ぶりのライフルを虎徹に向けた。
(――4分だ!)
「虎徹さん!」
バーナビーは叫んだ。
虎徹が分かったのか、彼のヒーロースーツがぱぁっと緑色に光った。
「いきますよ、虎徹さん!」
「おうよ!」
右と左から。
バーナビーとと虎徹は、バーナビーがキック、虎徹がパンチ。
ヒーロースーツがチェンジして、グッドラックモードになる。
同時に、……驚いた事に、虹色にスーツが光った。
スーツから七色の光が迸る。
光の輪が渦巻く。
目映く光りながら、残像が弧を描いて、バーナビーたちの繰り出すキックとパンチをなぞる。
グッドラックモードは、犯人が構えていたライフルなどいとも簡単に吹っ飛ばし、車までも壊していく。
『グッドラックモード、決まりましたぁ!犯人確保!お見事タイガー&バニー!…それにしてもこの七色の光はなんでしょうか!過去のタイガー&バーナビーのグッドラックモードにはこのような光はありませんでした!光まで、この二人の復活を祝福しているようですっ!』
実況ががなりたてる。
光が渦巻いて、自分たちをふんわりと包む。
「これ、なんですかね?」
モードを元に戻して足をぶらぶらさせながら、バーナビーはフェイスガードをあげて虎徹に聞いてみた。
虎徹もフェイスガードをあげて、バーナビーを覗き込んできた。
青から琥珀色に戻った瞳がバーナビーをじっと見つめ、それから細められて、唇が笑みを形作る。
「斎藤さんが、見た目が派手になるように光らせたみたいだぜ?」
「ええ?……そうなんですか?」
虎徹はあらかじめ光ると分かっていたようだ。
光に包まれて、虎徹の瞳が金色に輝いた。
アイパッチに囲まれたその瞳は、いつもよりずっと煌めいている。
虎徹が笑った。
バーナビーも笑い返した。
「すげーかっこよく決まったよな!」
「ええ、虎徹さん格好良すぎです」
「そりゃあ華麗なる復活だもんな…っと、でも俺よりバニーちゃんのが格好良かったぞ?」
「虎徹さんですよ」
「バニーちゃん…!」
二人で言い合って、それからほぼ同じタイミングで吹き出した。
どっちでもいい。
こうして、二人でヒーローをして、犯人を追い詰めて、確保して。
そして、こうして笑いあえる。
なんて幸せなのだろう。
空がきらきら、光っている。
バーナビーたちを包んでいた光がすっと消えて、残像が空に溶けていく。
とりあえず、自分たちの復帰第一戦は、格好良く犯人確保で決まったわけだ。
ヘリが自分たちを映している。
きっとシュテルンビルト全体に、自分たちの姿が映ってるに違いない。
皆見てくれただろうか。
ワイルドタイガーの格好良い勇姿を。
1分しか能力が発動しなくても、5分のバーナビーに全然引けを取らない、いやむしろバーナビーよりずっと格好良く活躍した虎徹の姿を。
生身だって誰にも負けやしない、不屈のワイルドタイガーを。
バーナビーは上空のヘリに向かってウィンクしながら、自分が一番格好良く見えるカメラ目線で笑って見せた。
隣で虎徹が肩を竦めて苦笑していた。



『あぁっと、バーナビー、笑ってます。本当に格好良いですね!KOH、完全復活です!さぁて今期、これは楽しみになってきましたぁ!やっぱりヒーローは8人いてこそヒーローですねぇ!そしてタイガー&バーナビー!!復活、本当におめでとう!!!!』



―――26話相当部分ここまで―――



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