◆Mimosa◆ 4









「え、な、なんで分かってんの?」
ネイサンがずばっと言ってきたので、虎徹は思わずぽろっとばらしてしまった。
「…ふん」
ネイサンが鼻で笑う。
「まぁ、そのあたりは見てれば分かるわよ。ハンサム、ゲイでしょ?」
「そ、そうなんだ…分かるものなのかよ…」
「ま、だいたいね?だってあの子、ハンサムなのに全く女に興味がないもの」
「そうなのか?でも女の子にモテモテで、そつなく相手してるじゃねーか?」
「やぁねぇ。あの子はまるっきり興味がないからこそ、そつなく相手ができるのよ。興味があったらそうそうはできないわよ?」
「ふうん…そういうものなんだ…」
「ま、アタシの目を見くびらないでよ。で、ハンサムとあなた、寝たのね?」
更にネイサンが本質に切り込んできたので、虎徹はさすがにそこで誤魔化すことは出来なかった。
「…う、うん…」
こくりと頷く。
ネイサンがピンク色の瞳をすっと細めた。
「で?……何が問題なの?」
「だから、その…」
そういう性関係の事を他人に相談した事が無いので、羞恥が口を重くする。
が、どうせここまでネイサンに分かってしまったのだから、と思って虎徹はぼそぼそと打ち明けはじめた。
「バニーはさぁ、その、身体だけなんだよ、俺とは」
ぼそぼそ言って、ネイサンの顔を窺う。
ネイサンが顎に手を掛けて虎徹をじっと見てきた。
「……で?」
「俺はー、わかんね。…最初はさ、身体だけでいいと思ってたんだ。バニーもさ、満足してるようだし、俺もその、気持ち良かったし」
「はあ、なるほど?」
ネイサンが小さく溜息を吐いた。
「タイガー、あんたって、そういう風に遊べる性格じゃないでしょ?最初は身体だけだったけど、結局ハンサムの事好きになっちゃたのね?」
「そうかなぁ、やっぱり?……うーん……、だよなぁ。…確かに遊べる性格じゃねーんだよな、俺って。やっぱり、バニーの事、好きになっちまったのかなぁ…」
「あんた自分で気付いてないの?あんたがハンサムと寝たとして、そういう事ができたって事は、あんたが最初からハンサムの事ある程度好きだったからでしょ?」
ネイサンがやや呆れたという口調で言ってきた。
「あんたはさぁ、好きでも嫌いでもない相手とそういう事できるタイプじゃないわよ」
「だよなぁ…。そうかぁ…、やっぱりそうなんだよなぁ…」
自分でももしかしたらそうかな、とは思っていたが、あらためて他人から指摘されると、溜息が出た。
やはり自分はバーナビーの事が最初から好きだった、のだろう。
そうでなくては、いくら大切な相棒とは言え、彼とセックスをしよう、などという気になるはずがない。
自分はそういう風に軽く身体だけの関係を結べるような、そんな性格では無いのだ。
「ハンサムの事が好きなら、あんたの方から積極的に押していかないと駄目ね?」
ネイサンが肩を竦めて言った。
「ハンサムに限らず、ゲイがノンケと付き合うってのはハードル高いのよ。あんたがノンケだからねぇ、…もしハンサムがちょっとでもアンタに気持ちが傾いてるとしても、絶対にそういう事言わないわよ?」
「うーん…そ、そうなの…?」
「そうよ。まずあんたがどのぐらい本気なのか、自分の気持ちをちゃんと確かめてから、まぁ、ハンサムに打ち明けてみるとか告白するとか迫るとかそういう風にすべきね。ハンサムからは絶対あんたに言ってはこないと思うわ。……もしハンサムがどんなにあんたの事を好きになってたとしてもね?」
「はー。そういうもんなのか…」
「あんたは特に結婚してたし、娘さんもいるし、どうみたってノンケで、しかも性的に真面目でしょ?そういう所、ハンサムだってよーく分かってると思うわよ」
「うーん……そっか」
「ま、重要なのはあんたの気持ちね?よく考えて、覚悟決めてハンサムに言いなさいよ」
「あー、分かった。…あんがとな、ネイサン」
「ふふん、別に?ま、あんたがハンサムと寝たって事自体がちょっとびっくりだけどね。まぁでもそういう話聞くの好きだからいくらでも聞くわよ?たとえば、ベッドの中でハンサムがどんな反応するのかとか。そういうの聞きたいわぁ?」
「あーそれはね、秘密。言うわけねーだろ、俺が!」
「まぁね、分かってたけどさ、あーつまんないなぁ。なんか腹が立ってきたから、ここのお酒は割り勘よ」
「ひでぇ、これ高いんだろ?」
「いいじゃないの、結局惚気聞かされたようなもんだわ、ふん!」
などとネイサンが明るく言ってくるが、自分を励まそうとしてわざと明るく振る舞ってくれているのだろうという事はなんとなく察しが付いた。
虎徹は内心ネイサンに感謝しながら割り勘で金を払ってバーを後にした。
自分の気持ちが重要だとネイサンには言われた。
バーナビーの方から決して言ってはこないだろう、とも。
とすると、バーナビーの本心は結局分からないわけだ。
………どうするか。



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