◆Mimosa◆ 5
バーナビーが果たして自分の事をどう思っているのか。
少しは好きという感情があるのか。
それとも、そういう感情は無く、所謂セックスフレンド、という位置づけなのか。
その辺はよく分からない。
ベッドの中での反応を考えると、少しは自分の事を好きという感情もあるのではないか、と思ったりもする。
しかし、バーナビーは昔からああいう風に身体だけの関係を続けてきたのだから、彼の肉体的な反応と感情は全く別個の物として考えなくてはいけないのかもしれない。
その点虎徹は、肉体的反応と感情はリンクしている。
好きな相手でないと肉体的にも高ぶらない。
そういう自分とバーナビーの反応は違うのだから、自分と同等に彼を考えてはいけないという事になる。
そうなるとやはり分からない。
ヒーロー事業部でデスクに向かって仕事をしていても、バーナビーの事が気になった。
ちらちらと見ると、バーナビーも気付いてか、自分の方を向いて微笑してくる。
前のようにつんつんと冷たくされる事もなく、随分と柔らかい対応になってきたとも思う。
仕事の合間に何気ない話をするのも楽しいし、一緒に昼食を摂りに行ったりするのも本当に自然に、昔から二人で行動するのが当然という感じでできる。
バーナビーが取材が入っていたりして、ヒーロー事業部にいない時、ぽっかりと空いた隣のデスクを見るとわけもなく寂しくもなる。
虎徹は数日、そういう自分の感情を客観的に観察してみた。
バーナビーと話している時の自分。
バーナビーがいない時の自分。
バーナビーでない人間と話しているときの自分。
……例えば、同じヒーロー仲間であるスカイハイやロックバイソン。
トレーニングセンターなどで彼らと話しているときの自分。
その時の気持ちと、バーナビーと話している時の気持ちを比べてみる。
――やはり違う。
スカイハイやロックバイソンと話している時は、それは勿論楽しい。
楽しく、和やかな会話ができる。
が、そこにあるのは親愛の情であって、例えばスカイハイに触れたいとか、或いはロックバイソンがいなくなれば寂しいとか、……そういう感情は決して起こらない。
けれど、バーナビーと話している時は違う。
バーナビーが自分の方を見てくれれば嬉しいし、彼の視線を独り占めしたいとも思う。
自分にだけ笑い掛けて欲しいなどとも思うし、彼の美しく澄んだ翠の瞳を見ていると、その中にずっと映っていたい、と思う。
言葉を紡ぎ出す形の良い桃色の唇を見れば、その唇に口付けしたい、体温を感じたい、そう思う。
思ってそして、その彼の唇に触れている自分を妄想すれば、身体がぞくりと興奮を覚え、下腹部が疼く。
バーナビーと一緒に行動しているときは、無性に心が弾んで嬉しくなるし、彼が取材でいない時には心の半分が持って行かれたように寂しくなって早く彼に会いたいと思う。
会って、肌に触れて、口付けをしたい。
口付けをして、抱き締めて、彼の体温を感じて、素肌に触れたい。
彼の全身を愛撫して、ひんやりとした肌が熱を持って火照ってくるのを確かめたい。
そうして、自分の愛撫で興奮した彼の体内に入るときの瞬間……。
そういうのを考えただけで、虎徹はすぐにでもバーナビーを抱きたくなってしまう自分を自覚した。
やはり自分は、バーナビーの事が好きなのだ。
恋愛感情としての好きだ。
錯覚ではない。
バーナビーは特別な存在で、愛おしい。
大切にしたい。
彼だけが、自分を肉体的に興奮させることができる。
バーナビーの事が、……好きだ。
数日考えて、虎徹はそういう結論に達した。
自分の気持ちが固まれば、後はバーナビーに告白するだけだ。
ネイサンの言によると、バーナビーの方からは決して行動を起こすことはないと言う。
つまり自分が積極的にバーナビーに迫って、バーナビーの返事を聞き出すしかない。
もしバーナビーが自分に恋愛感情を持っていないとしたら………。
その可能性も十分に考えられる。
もしそうだったらどうしよう、と思うと、怖かった。
しかし、自分の気持ちがはっきりと分かった段階で、ここで躊躇していても始まらない。
もしバーナビーが自分の事を好きだったとしても彼の方からは言ってこないのだとしたら、とにかく自分が行動を起こして、彼に告白するしかない。
その返事がどうであるか、そこまでは考えていられない。
虎徹はそう決心した。