◆お父さんはヒーロー?◆  5






「うわぁ、タイガーとバーナビーだ!」
「よ、初めましてっ!みんなは取材なんだって?」
タイガーの方が機嫌良く話しかける。
服装はいつものアイパッチをつけた姿だ。
映像が終わる。
「はい、じゃあタイガー&バーナビーが来たから今度は取材にしましょうかね?」
ロイズがそう言い、椅子が追加されて、タイガー&バーナビーの二人が向かいに座った。
楓は後列のシゲポンの隣で、彼に身体を隠すようにしてこっそり向かいの二人を見た。
アイパッチをしているが、どう見ても、………どう見ても父だ。
きょとんとした茶色の目、帽子、ネクタイ、服装…。
ここまで同じ服装でばれないとでも思ってるんだろうか。
その父が、大人気のバーナビー・ブルックスJr.と仲良しそうにしているのを直に見ると、やはりとても奇妙な感じだった。
コンビを組んでいるのだから仲が良いのは当然なのだが、マンスリーヒーローの巻頭を飾るようなバーナビーと親しげに話す父、というのがどうしても違和感がある。
眼鏡の下の眉を寄せてじっと父を見る。
「じゃあ、質問いきまーす!」
男子が意気揚々と質問を始めた。
男子達もみんなきちんとした一張羅を着て眼鏡を掛けたりしているから、どうやら父は先日会った子供達だとは気付いていないようだった。
「じゃあまずバーナビーさんに質問です」
「はい、いいですよ?」
シンが言って、バーナビーがにこにこして答える。
シンが尋ねバーナビーがてきぱきと答えいる様子を、楓はややぼんやりとして眺めた。
バーナビーはすらすらと答えている。
それを見つめる父の目がとても優しく、楽しく仕事ができてるみたい、とは思う。
そう思うと、ちょっと複雑だけど、どこか安心する。
(仕事、大変ってわけでもないのかな…?)
「じゃあ、次、タイガーさんに質問でーす」
バーナビーにいくつか質問してそれをメモに書き留めていた男子達が、今度は父の方に顔を向けた。
「ん?俺?はいはい、あ、なんでもどうぞ?」
そのしゃべりかたもやはり父だ。
目の前に自分がいるなんて、思ってもいないんだろう。
この前に居るのは、自分の知らない父の姿だったが、楓の知っている父とあまり違いはなかった。
にこにこして、愛想が良くて、ちょっとふざけている父だ。
「市民の命を守るって大変ですか?」
パオロが尋ねる。
「いやぁ、大変なんて思ったことはないよなっ、なぁバニー?」
「そうですね、いろいろ怪我をしたりとかはありますけど、大変というよりは、やり甲斐があるって所でしょうね」
「うんうん、その通り。大変だからこそ、やり甲斐があるっていうかなぁ…そんな感じ」
「バーナビーさんの事はどう思いますか?」
「あーバニーちゃんの事は、ね」
父が勢い込んで言った。
「もう、バニーは凄いよ。ホント最高の相棒だな」
本当に嬉しそうだ。
「タイガーさんが一番大切にしてるのはなんですか?」
光太が尋ねる。
「そうだな。市民の命を守るって言うヒーローとしての信念って言いたいとこなんだけど……」
父が肩を竦める。
「実を言うと家族かな?」
家族と言う言葉に楓は思わず父を見つめた。
「家族なんですか?」
「うん、…やっぱり、市民の命や安全を守るっていってもその大元は自分の身近な人だろ?だから、その一番大切な人を守りたいってのが原点かな?」
それを聞いたシゲポンがにこにこする。
「タイガーさんのご家族ってきっと幸せなんでしょうね?」
そう言うと、父は複雑な表情になった。
「いやどうかな…」
その口調が自嘲気味になる。
「実のところ、一番大切なのに一番ないがしろにしてるかもしれね。ってこれ、オフレコでよろしく!書かないでよな?」
父が慌てる。
「一緒に住んでねーしさ」
そう言って、後頭部に手をやって、肩を竦める。
バーナビーが割って入った。
「ヒーローは危険な仕事ですからね、家族に類が及ばないようにってタイガーさんは気にしてるんですよね。僕は独り者なのでそういう気遣いいらないんですけど」
シゲポンがそこに切り込んだ。
「一緒に住んでないんじゃ、きっとご家族は寂しいでしょうね?でもタイガーさんの事をいつもテレビで見られるから大丈夫かな?」
「いや、…どうだろ…」
父が俯いた。
帽子を取って困ったようにその帽子を握ったり離したりする。
「家族っていうか特に子供には仕事隠してるから…。きっと、俺の事とか嫌いかもしれねーよ…。いっつも仕事仕事で約束ほったらかしちゃってさ、全然構ってやれねーし…、滅多に会えないし…。心配掛けたくないから、ヒーローやってる事は秘密にしてるんだけど、たまに寂しい時もある。仕事のこと分かってもらえねーよなーって…」
そこまで聞いて、楓は猛烈に腹が立ってきた。





―――なに、それ。





仕事のこと分かって貰えないって、…私に言ってないいじゃない、そもそも仕事のこととか何にも。
はじめっからあきらめて、自分で思い込んでるだけじゃない!
それでこんな事言われたら、我慢できないから!
すごく腹が立った。
ムカついて、どうしようもなくて、もう我慢できなかった。





「あのねっ!!!」





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