◆Mimosa◆ 11









どうしても分かって欲しい。
彼は――バーナビーは、幸せになるべき人間だから。なれる人間だから。
本当だったら、バーナビーの相手は、彼にふさわしい若くて将来のある優しい女性であるべきだとは思ったけれど、でも虎徹だってここは譲れなかった。
自分がバーナビーにふさわしくないのは分かる。
でもバーナビーが好きだ。
この世で自分ほどバーナビーを愛している人間はいない、と思うぐらい好きだ。
だから、申し訳ないけれど、バーナビーに自分の気持ちを言ってしまう。
自分のそれに嘘は吐けないから。
バーナビーを愛しているから。
自分だって幸せになりたいから。
バーナビーを幸せにして自分も幸せになりたいから。
だから言う。
………告白する。
虎徹はバーナビーの目をじっと見つめて、口を開いた。
「バニー、俺は、お前の事が好きだ」










バーナビーが虚を突かれたように、目を大きく見開いた。
虎徹は更に続けた。
「お前の事を愛している。……俺の恋人に、……なってくれ…」
バーナビーが眉を寄せ、虎徹の言葉を吟味するように目線を左右に泳がせる。
フロント硝子の向こう、海を見て、それから虎徹とは反対方向の窓を見て、瞬きしてもう一度虎徹を見る。
今聞いた言葉が信じられないというように視線がまた揺れて、それから虎徹の真意を窺うように視線が合わせられる。
「……何、冗談言って…」
「冗談なんかじゃねーよ」
バーナビーの言葉に被せるようにして強い調子で言うと、バーナビーがたじろいで息を飲んだ。
「なんで、そんな事…おじさん…」
声が震えている。
心許ない心細そうな声だ。
「お前の事が好きなんだ、俺の恋人になってくれ、……ダメか?」
畳みかけるように言うと、バーナビーが目を見開いたまま後退った。
助手席のソファから仰け反るように後退ろうとするのを、虎徹は反対に手を伸ばしてバーナビーの背中に両手を回しぐっと抱き寄せた。
バーナビーが背筋を震わせ、いやいやをするように身じろぐ。
「…ダメです、おじさん……」
「なんで?」
震える声が紡ぎ出されるのに強い調子で返す。
バーナビーが泣きそうな顔をした。
「だって、…だって、おじさんは僕の相棒じゃないですか?相棒だから、…決して離れないから、安心なんです…」
聞いた事の無いような、不安げな声だった。
必死で何かを訴える小さな子供のような声。
迷子になって泣いている子供のような。
「……意味、わかんねーぞ?」
「おじさんは僕の相棒だから、安心してたんです。もし、僕があなたの恋人になってしまったら、…そうしたら、……あなたが僕に飽きたら、あなたまで僕から離れていくじゃないですか?ようやく、あなたという掛け替えのない人を見つけたのに、…そんなの、いやだ…」
辛そうな声だった。
きっとバーナビーは心の底からそう思っているに違いない。
掛け替えのない人―――バーナビーは自分の事をそう言った。
だったら、自分は何を恐れることがあるか。
バーナビーが抱いている恐怖を、自分が払ってやらなくてどうするんだ。
「俺は離れない。お前の前からいなくなったりしない。絶対だ。安心しろよ、バニー」
できるだけ力強く、語尾に力を込めて言う。
「………」
バーナビーが苦しげに顔を伏せた。
金髪が震えている。
「誓うよ、バニー。この間から俺はずっと考えていたんだ」
その金髪に鼻を埋め、額に口付けをして虎徹は言った。
「俺はお前が好きだ。身体だけの関係じゃいやなんだ。お前の心が欲しい、心も体も全部欲しい。俺のものになってほしい。俺もお前のものになる。全部やる。なぁ、バニー…」
バーナビーの金髪をかき上げて、形の良い耳に向かって話しかける。
一言一言が彼の耳から脳内へしっかりと伝わるように。
「お前が不安なのは分かる。けど、俺なら大丈夫だろ?俺を信じろ、バニー。…俺はお前の相棒だ。勿論、もしお前がここで俺を拒絶したって、俺はお前の相棒だ。ずっとずっと相棒だ。でもそれだけじゃいやなんだ。俺はお前の傍にいつもいたい。仕事の時だけじゃなくていつでも。お前も俺の傍にいてくれよ、バニー。いつも…」
「…おじさん…」
「バニー、愛してる…」



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