◆すれ違いあっちこっち◆  3





まるっきり疑っていない。
それどころか、本当に乗り気だ。
爆発しそうになる心臓を押さえながら虎徹を部屋の中に招き入れ、あらかじめ頼んでおいたケータリングで軽めの夕食にする。
バーナビーのマンションは1階から3階部分まではさまざまなテナントが入っている。
スーパ−、クリーニング、レストラン、書店、コンビニエンスストア等々から、内科や外科、歯科など各種医者に至るまで、殆どの店舗が揃っている。
そしてそれらの店舗は注文すれば即座にものが届いたり、専用回線で買い物ができたりとマンション住人最優先になっていた。
そこのカフェからパスタを運んでもらい、虎徹と一緒に食べる。
食べ終わってシャワーを浴びて、虎徹に次どうぞ、と言ってバーナビーは寝室に向かった。
胸がどきどきして、破裂しそうだった。
ちゃんと、催眠術は効いているのだろうか。
一抹の不安がよぎる。
しかし先程キスをした時あんなに彼は積極的で凄かったのだから、催眠術は効いていているはずだ。
だから大丈夫だ。
それにしても、……一体彼はベッドで、どんな風に乱れるのだろうか。
――あの彼が乱れるなんて、想像ができない。
自分の妄想の中での虎徹は、いつも恥ずかしそうに身体を堅くしているだけだった。
それは普段の虎徹では乱れる姿を想像できないから、というのもある。
まんじりともしないで待っていると、
「お待たせ」
と言って、虎徹が腰にバスタオルを巻いたままの格好で寝室に入ってきた。
生乾きの髪がしっとりと額に貼り付いていて、髪をセットして立たせている時よりもずっと幼く見える。
裸の上体は見慣れているとは言え、自分の寝室という特殊な状況下で見ると、いかにも食欲をそそられるような素晴らしい肉体だった。
バーナビーはごくりと喉を鳴らした。
水を弾くような、艶やかな浅黒い肌。
上体は着痩せするタイプで、脱ぐと胸筋が綺麗についていて、呼吸と共に動く筋肉の上に色の濃い乳首がぽっちりとついている。
そこから下はきゅっと引き締まって腰に続いており、男にしては驚くほど細い腰とバスタオルで覆われている小さな尻に続いている。
バスタオルの下からはすらりとした足が覗いている。
それらを見ているだけでバーナビーは、股間に急激に血が集まるのを感じた。
ペニスがむくむくと頭を擡げ、着ていたバスローブの布地を持ち上げてくる。
虎徹が柔らかく光る琥珀色の瞳を細めながら、バーナビーの前に歩み寄ってきた。
「バニーちゃん、お待たせ」
「……あ、は、はい…」
――どうしようか。
どういう風にすればいいのだろうか。
一瞬、自分がどうしたらいいか分からなくなって、バーナビーは呆けたように返事をした。
虎徹が小首を傾げてくすっと笑いながら、かがみ込んでバーナビーの唇にちゅっとキスをしてきた。
(うわ……キス、された…)
それも驚きだった。
虎徹がどんな行動に出てくるか、全く予想がつかない。
バーナビーは、自分がどういう風に動いたらいいか、それとも動かない方がいいのか、そんな事を混乱する頭で考えた。
頭の中がぐるぐるとして、行動に移せない。
すると虎徹がバーナビーの唇から顎にキスを落とし、首筋に吸い付いてきた。
そのまま身体を落とし、バーナビーの両足の間に膝立ちになる。
「虎徹さん…?」
何をするつもりなのだろうか。
いや、この体勢ならなんとなくしそうなことは分かるのだが、まさか虎徹がそんな事をするわけがない…。
いや、するのだろうか。
分からない。
ますます頭が混乱して、ひたすら虎徹を見下ろす。
ふっと笑って虎徹がバーナビーのバスローブの紐を解いた。
するりと解いて、合わせを左右に割り開く。
「うわ……バニーちゃん、もうすっかり大きくなってる…すごいねぇ?」
自分のそういう状態のペニスを見るのは初めてのはずだが。
こういうのは催眠術の掛かっている頭の中では、一体どういう認識になっているのだろうか。
分からない。
催眠術がかかっている状態では、どんなものを見てもそれは既に見た事のあるものという認識になっているのだろうか。
押し黙ったまま自分の勃起したペニスに虎徹の手がするりと絡まるのを見下ろす。
「あっつい…」
根元をぎゅっと握って虎徹が言う。
ズクン、と脳天まで突き抜けるような快感に、バーナビーは思わず眉を寄せた。
「バニーちゃんの、先っぽピンクで美味しそう…」
虎徹が上目遣いにバーナビーを見上げながら顔を近づけた。
(………!)
唇を大きく開いてぱく、という感じで虎徹がバーナビーの亀頭を口の中に含んだ。
信じられない事だが、虎徹が自分のペニスを口に咥えている。
頬を窄めてちゅるちゅるっという音でも立ちそうに吸いながら舌先で先端の窪みをざらりと擦ってくる。
「ぁ…!んっ!」
本当に信じられない。
まさか虎徹がこんな事をするなんて。
フェラチオをしてもらう事など、今までの自分の妄想の中でも無かった。
勿論、今の虎徹は催眠術でこういう事を自分と前から何回もしているという認識があるのだから、ためらいがないのはおかしくないのだろうが。
それにしてもこういう事は、全く経験がなくてもできるものなのだろうか。
虎徹が大きく口を開いて、バーナビーの肉棒を喉の奥まで飲み込んできた。
そこから裏筋にかりっと歯を立てながら、ゆっくりと顔を上下し始めた。
右手が飲みきれなかったバーナビーの竿の根元を握り、指にそれぞれ圧を加えて揉み込む。
更に左手が自分の陰嚢を掬い上げるようにして、やわやわと撫でてくる。
全く予想していなかった愛撫に、バーナビーははっきり言って驚愕した。
どうしようか。
これはもう、少しも保ちそうにない。
「あ、うっ……虎徹さんっっ…!!」
止めさせるべきか、と思ったが既に遅かった。
自分の好きな相手にこんな事をされても興奮が制御できるほど、バーナビーはセックスに慣れてもいなかった。
「あぁ…っっ!」
しまった、と思った時には、バーナビーは虎徹の喉奥めがけて勢い良く白濁を迸らせていた。
「う……っ…んん…っ!」
鼻に掛かった苦しげな声を上げて、虎徹がきゅっと目を固く閉じる。
ごくっと喉を大きく上下させるのが見える。
ケホケホ、と咳き込みながら数度喉を鳴らしたあと、唇を離す。
唇の端から飲みきれなかった白濁がとろりと滴って顎髭まで汚すのを見て、バーナビーは背筋が総毛立った。
「ふぅ…バニーちゃんの、いっぱい出たねぇ?」
目の前がくらくらした。
左手の甲で唇をぐっと拭って手の甲に付いた白濁を舌でぺろっと舐めると、虎徹が上目遣いに自分を見てくる。
いくら催眠術でこういう行為を今までに何度もしているという偽りの認識が植え付けられているとは言え、衒いのない行動に眩暈がする。
自分で虎徹にそういう風にするように仕向けたはずなのに、虎徹の予想を上回る淫靡さに反対に怖じ気づいているほどだ。
しかし、とにかく気持ちが良い。
その上にまた彼の痴態を見て、全身がぞくぞくと震え興奮してくる。
そのせいで、今達したばかりだと言うのにバーナビーのペニスは再びむくむくと硬く芯を持ち始めた。
「あれ、バニーちゃん、わっかーい、さすが」
虎徹が小首を傾げてにこっと笑う。
その小悪魔的な笑みにも眩暈がするほどくらくらした。
この人は一体どこにこんな卑猥な側面を隠していたのだろうか。
信じられない。
催眠術で彼の隠していた一面が現れたのだろうか。
それとも元々こういう面を持っていて、今まで自分は知らなかっただけなのだろうか。
「ん、バニーちゃん、俺も興奮しちゃった…」
虎徹が立ち上がってしゅるっとバスタオルを解いた。
「…………」
バスタオルの中から現れた色の濃いペニスに、バーナビーの目は釘付けになった。
そんな状態の虎徹の其処を見るのは初めてだった。
思った通り引き締まった形の良い尻。
黒く艶々とした茂み。
その中心に、大きさは自分ほどではないが形が良く硬く、剥き立ての果実のようにみずみずしいペニスがそそり立っていた。
先端は濃い桃色に熟れており、ぱくぱくと開閉をしている鈴口からは透明な雫がとろりと垂れている。
勿論自分も虎徹も同じ男なのであるから、勃起すればペニスがそのように変化するという事はバーナビーだって分かっていた。
自分だって先程虎徹にフェラチオされて達したばかりだ。
しかしそうは思っても、他人の、それも自分が密かに恋い焦がれていた相手の性器を見るというのは、表現しようのない感情をバーナビーにもたらした。
バーナビーは虎徹の其処を射貫くようにじっと見つめた。
「バニーちゃんったら、すごい目…」
バーナビーの視線を感じて虎徹が唇端を微かに上げ、誘うように舌で唇をぺろりと舐める。
ぎしりと微かにベッドを軋ませて上がってくる。
「俺のここも、こんなになっちゃった…」
恥ずかしくないのか、それともこういう事をいつもしているという認識があるからだろうか、虎徹は普段の彼からは考えられないほど、淫靡で性的だった。
琥珀色の瞳を細めてバーナビーをひた、と見つめてきてはくすっと笑う。
自分に見せつけるように、膝をゆっくりと少しずつ広げていく。
一度脚によって隠れたペニスが、膝が少しずつ開くことによってバーナビーの眼前に晒け出される。
半分ほど開いた所で、虎徹が一旦脚を開くのを止めた。
頭をふるふると揺らしているペニスの根元に手を添えて軽く握ると、バーナビーの目の前で自慰を始める。
「……………」
先程から自分の予想の上を行く彼の行動に、バーナビーはただただ目を大きく見開いて彼を見つめるだけだった。



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