◆7◆






その日の午後、虎徹は、自分たち二人が指定されたサウスブロンズのデパートの前で、ブルーローズと待ち合わせをした。
一旦自宅に帰り車を置いて、そこから徒歩と電車で待ち合わせ場所に向かう。
行くと既にブルーローズが来ていた。
「よ、お待たせ」
一応自分も時間ぴったりに行ったのだが、ブルーローズが先に来ていたのでそう言うと、腕組みをして立っていた彼女がぷい、という感じで頬を膨らませた。
「遅い、タイガー!」
「えー、遅いっつったって一応時間通りなんだけどなぁ…」
「こういう時は時間よりも5分前には来てるもんなんじゃないの?」
「あ、そう?悪い悪いごめんな?……にしても、すっごい可愛い格好してんじゃねぇか」
ブルーローズも一度戻って着替えてきたのだろうか。
いつもの服よりもずっと可愛らしい服装をしていた。
ふかふかのショートコートを羽織って、下はフリルのたくさんついたスカートにブーツ、頭にコートと同じ色のふかふかした帽子を被りマフラーをしている。
そういう服装をしていると、いかにも年頃のお嬢さんという感じで、虎徹は自分の娘である楓がこのぐらいの年頃になった時にはこんな感じでおしゃれをするのだろうかと思って思わず瞳を細めた。
「とにかくここにいると寒いから、中に入るわよ」
「あー、うん、分かった分かった、悪い」
ぷいっとしたままブルーローズがデパートの中へ入っていく。










デパートは、買い物客でごった返していた。
三々五々、楽しげに買い物をしている。
このサウスブロンズのデパートは、ブロンズステージの中では第一と言われる大きなものだ。
ものすごく高級で庶民に手が出ないようなものはないが、いわゆる中流階級の人たちが日常買い求める品や、日常品食料品まで幅広く取り扱っている総合デパートだ。
若い人向けから年配向けまで、さまざまな商品が揃っている。
自分とブルーローズのこの組み合わせは一体何に見えるんだろうか、と虎徹は少し考えた。
自分はいつものシャツにベスト、上に少し長めのコートを羽織っている。
親子、には見えないだろう。
親子に見えたら、さすがに虎徹も少しはがっくりする所だ。
兄妹、にはどう見たって見えそうにない。
とすると叔父と姪、とか、まぁそんな所か。
未成年をかどわかす中年などに見られたら、たまったものではない。
デパートの中は人がたくさんいたが、不審そうな者はいなかった。
考えてみると、脱獄犯がデパートの中に堂々といるとは考えにくい。
潜伏しているとしたら街の中だろうか。
人々の様子をそれとなく観察する。
にしても、せっかくブルーローズと二人で来たのだから、少しは彼女の機嫌も取りたい。
そう思って虎徹は、前を歩くブルーローズに話しかけた。
「せっかく来たんだからさ、なんかお前に買ってやろうか?」
「……え?い、いらないわよ」
振り向いたブルーローズが目を丸くして虎徹を見上げてくる。
「そう言わずにさぁ」
虎徹は周りを見回して、ちょうど目に付いたアクセサリー店を指さした。
「お、ここちょっと入ろうぜ?」
「ちょ、ちょっと待って!」
ブルーローズが慌てるのにも構わず、すたすたとアクセサリー屋の中に入っていく。
可愛らしいディスプレイのアクセサリー屋は、主に若い人向け廉価なアクセサリーを売る店だった。
ブルーローズと同じぐらいの年齢の少女が数人、さざめきあってアクセサリーを見ている。
虎徹も店内を一つ一つ見ていった。
リング、ネックレス、ピアス、イヤリング――さまざまなものがある。
「よ、なんか欲しいもんねぇか?」
「な、何言ってんのよ。あんたお金ないでしょ?」
「え、…」
痛いところを突かれて、虎徹は思わず苦笑した。
確かに……、もしかしたらブルーローズの方がずっと自分よりも稼いでいるだろう。
とは思ったが、肩を竦めて笑う。
「まぁそう言わずにさ。じゃあ、…そんな高くねぇもんでお願いしていい?」
「ったくもう、じゃ、いいわよ。何か…えっと……」
ブルーローズがやれやれといった感じでアクセサリーの棚を見る。
順々に見ていって、ストラップが並んだ陳列棚で足を止めた。
スワロフスキービーズを使った丁寧で細かい細工の、店内の照明にきらきらと光るストラップが多数陳列されていた。
大きな雫型のクリスタルを中央に配し、その周りをビーズの星や月、太陽、花が散らばっているシリーズだ。
ブルーローズはその中から、青い雫型のクリスタルと青い花びらが数枚、それから薄緑のクリスタルと黄色い太陽や星、月のビーズの施されているストラップと、二つ手に取った。
「じゃ、これ」
「……ん?これ?」
「そう、買ってきて」
「へいへい」
二つ受け取ってレジに持って行って買う。
「ぽら、買ったぞ?じゃ、俺からプレゼント」
「…………」
ちろ、と虎徹を見上げてブルーローズがそれを受け取り、かさかさと袋の中から一つ、翠のクリスタルに黄色い太陽や星の散りばめられたストラップを虎徹に渡した。
「はい、これ」
「……え?」
「はい、これあんたの分」
「あ、そう…」
「おそろい、……いいわよね?」
そう言って、ブルーローズがちらりと虎徹を見る。
「う、うん。じゃあ一緒だな!ありがとな?」
虎徹はブルーローズが自分を気に掛けてくれたのが嬉しくてにこにこしながらそう言って頭を撫でた。



BACK   NEXT

 TBサーチT&B SEARCH虎兎Rank兎虎タイバニランク