◆8◆






ブルーローズが頬を赤らめてぷいと横を向く。
「子供じゃないんだから人前でそういうのやめてよ」
「あ、わ、悪いな!」
虎徹から見るとブルーローズと楓が重なって、どうしても楓にするようにしてしまう。
苦笑しながらアクセサリー店を出て、もうちょっと経ったら外にでも出てみるかと言いながら入り口近くまで戻ると、そこに雰囲気の良さそうな落ち着いたカフェがあった。
「ちょっと入ってゆっくりしてから外行かねぇ?」
「うん…」
そのカフェは、外に張り出した大きなガラスから柔らかな光が入る店だった。
一番ガラス窓の近くの席に座る。
虎徹はちょうどその時間のサービスであるケーキセットを二つ頼んだ。
ほどなくしてポットに入った紅茶のセットとケーキの盛り合わせが運ばれてくる。
ケーキはブルーベリーのタルトとチョコレートムース、それにオレンジのババロアだった。
そういうものをこんな所でゆっくり食べた事はここ数年ない。
周りを見るとだいたい女性ばかりだ。
やや身体を縮めてケーキを食べる。
ブルーローズが向かいでくすっと笑った。
「な、なに?」
「ふん。……別にぃ?」
そう言いながらも上機嫌だ。
最初待ち合わせした時の不機嫌さはとれて、すっかり機嫌が治ったらしい。
良かった。
しかし考えてみたら自分たちは別に買い物や食事に来ているのではなかった。
脱獄犯を見つけるために偵察に来ているのだった。
あまり気を緩めないようにしないとな、と虎徹は心の中で呟いた。
ケーキを食べて紅茶を飲み終えると立ち上がる。
「じゃあさ、そろそろ街の中歩いてみねぇ?」
「うん、そうね」
ブルーローズも虎徹の言葉の調子に対応して、真剣な顔をして頷いた。
「人が多く居る所には居ない気がするんだ。だからちょっと外れの方までそれとなく…」
「うん、分かった。あたしは大丈夫だけどさ、あんたでしょ問題は」
「…え?」
「あんた、今能力1分しかないんだから、よーく考えてよ?」
「へいへい大丈夫です。おじさんは能力無くたって結構なんとかなりますよ」
じとっとブルーローズに見つめられて、そっぽをむいてそう言う。
二人はデパートを出ると人通りの多い方ではなくて反対の、サウスブロンズの外れの方に向かって歩き出した。
すっかり葉の落ちた街路樹の下を歩くと、突き当たりは大きな公園になる。
そこでブロンズステージは終わりで、大通りを戻ってくるかあるいは細い路地に入って別の通りに出るようになっている。
公園の方まで歩くと人が殆どいなくなってきた。
「寒くねーか?」
「うん、大丈夫」
そうは言いながらもなんとなく肩を縮めている様子に、虎徹はそっとブルーローズの手袋を嵌めた手を握った。
「タイガー…?」
「手、手袋してっから大丈夫かな?」
「う、うん…」
ブルーローズが仄かに頬を染めて口籠もる。
そんな彼女の様子を見ていると、年は大きいが自分の娘のような気がして、虎徹は思わず眼を細めて微笑んだ。
そう言えば、と自分の娘である楓を思い出す。
今、オリエンタルタウンの小学校に通っているが、今度中学に上がる。
どうするだろうか。
地元の中学にあがるのか、それともシュテルンビルトに来てネクスト専用の中学に入るのか。
どっちにしろ、一度オリエンタルタウンに帰っておきながらまたこうしてシュテルンビルトに戻ってきた自分にとっては、申し訳ないような気もする。
でも、そういう自分を怒りながらも慕ってくれる娘のことを考えると、心の中がぽかぽかと暖かくなる。
ブルーローズもきっと両親の愛情に包まれてすくすくと育ったんだろうな、と虎徹は思った。
感情の表現が自然で、くるくると変わって伸びやかだ。
それに比べると……。


虎徹はふと、自分の相棒であるバーナビー・ブルックスJr.の事を考えた。



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