◆10◆






その頃バーナビーはブロンズステージの中心にある大きな市立図書館で、ドラゴンキッドと待ち合わせをしていた。
シュテルンビルト市にはステージごとに市立図書館が一つずつある。
どの図書館も広く大きくできており、階層が違うとは言え、中に入っている蔵書も、ブロンズステージでも十分にゴールドステージの図書館と入れ替えても遜色がないぐらいの充実ぶりである。
平日の午後という事もあって、図書館の中には平日休みでふらりとやってきたような社会人や学校帰りの学生達がいた。
それぞれが小さな声で話したり、本を読んだり勉強したりしてややざわめいてはいるものの、図書館ならではの柔らかく静かな雰囲気が漂っている。
その図書館の入り口、喫茶コーナーでバーナビーは椅子に座り、ドラゴンキッドがくるのを待っていた。
自分がバーナビー・ブルックスJr.と知れるとまずいので変装をしている。
いつもと違う少し色の付いた眼鏡を掛け、服装は学生風にジーンズにコート、マフラー。
髪は後で一つに縛っている。
「お待たせ!」
少し待っていると、ドラゴンキッドが入り口の自動ドアを開けて入って来た。
ドラゴンキッドも普通の学生風だ。
カジュアルなジーンズ、セーターにコートを着ている。
いかにもその辺にいる中学生という感じで、普通に可愛い女の子だ。
自分はどう見えるだろう、と思いながらバーナビーは立ち上がった。
図書館の中を一通り歩き、観察してから外に出る。










図書館の外は、学生の多いショッピング街だった。
図書館の周りには、ブロンズステージに住む子供の通う小、中学校が集中して立っている。
それらの学生が皆利用するのが、この図書館だ。
ドラゴンキッドと並んで歩くと、金髪の端正な顔同士の取り合わせという事でいささか人の目を引くようだった。
学生たちがちらちらとこちらを窺い見ている。
が、自分がヒーローのバーナビーブルックスJr.とは分からないようだ。
自分たちはどんな風に見えるだろうか。
年の離れた兄弟に見えるか。
あるいは家庭教師の大学生と生徒、そういうあたりだろうか。
いつも外に出る時には人目を気にしていたので、こんな風に人目を気にせず歩けるのが楽しくて、捜査中とは言え、バーナビーはいつになく気分が上昇するのを感じた。
「この辺って学生さんばっかりだから、そんな変な人いない感じもするよね、バーナビーさん」
「そうですね。…でもまぁ犯人自体が変装すれば学生に見えなくもないですから、大学生ぐらいの男を注意して観察するようにしましょう」
「うん、そうだね。…あ、ねぇねぇ、ちょっとお腹すいちゃった。なんか食べようよ?」
ショッピング街を歩いて行くと、左手にファストフード店が目に入った。
カラフルな人形が手招きをしている。
『…え、……でもまだ捜査の途中ですよ』と言いそうになったが、ドラゴンキッドのにこにこした顔を見ているとそんなことを言うのも無粋かと思って、バーナビーは微笑んだ。
これがもし虎徹と一緒に捜査をしていたら、――いかにも虎徹も食べようとか言いそうだ――そうしたら勿論バーナビーは、今捜査中だから駄目ですよ、と注意するだろうが、相手がドラゴンキッドとなると甘くなる。
まぁいいか、と思ってファストフード店の自動ドアをくぐると、いらっしゃいませ、という明るい声と共に若い女性店員に迎えられた。
「んじゃ、これとこれっ」
ドラゴンキッドに一緒でいいよね、と言われて頷くと、さっさとカウンタに行っててきぱきと注文していく。
「あ、代金は僕が払います」
そのままドラゴンキッドが代金まで払いそうになったので、バーナビーは慌ててそう言って食事を受け取ると、二人は窓際の、外の様子が見える席に向かい合わせに座った。
「へへ、ここのね、このハンバーガー、食べたかったんだ。新発売だし。いただきまーすっ」
そう言って包み紙をとってぱくり、とかぶりつく様子が微笑ましく、バーナビーは自分がドラゴンキッドぐらいの年の頃を考えてみて、やや複雑な心境になった。
自分が彼女ぐらいの年齢の時は、こんな風に楽しんだ記憶が一切無い。
全寮制の学校に入っていたからといのもあるが、少ない休みにはウロボロスの手がかりを探して、図書館に行ったりネットを調べたり、あるいは自分の脚で各所に出向いたりして必死だった。
きっとあの頃にもこんな風にファストフード店はあり、カラフルな看板人形が出迎え、中に入れば『いらっしゃいませ』、と明るい声で店員が挨拶をしてくれたのだろう。
でも、自分は全くそういうものには無縁だった。
「ねえねぇ。明日、遊び行こうよ。サウスブロンズのさぁ、新しいイベント知ってる?」
「うん、お店ね。開店したんでしょ?」
「そうそう。行って見てこない?」
「そうだねー」
周りのテーブルについている高校生ぐらいだろうか、少女達の会話する声が聞こえる。
ちらりとそちらの方を見るとバーナビーに気付いたのか、高校生達がバーナビーを見て一瞬目を丸くし、それから頬を染めた。



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