◆12◆






「う…………」
頭ががんがんと痛い。
霞んだ視界に灰色の錆びた天井が映る。
虎徹は小さく呻いて目を開けた。
頭のこめかみ部分がずきずきと痛んで思わず顔をしかめる。
周りを見回すと、そこは見知らぬ部屋だった。
倉庫か何かだろうか。
剥き出しになった配管が天井を這い回っている。
錆びてぼろぼろだ。
ポタンポタン、と水滴の落ちる音がする。
その音が耳から煩わしく入って来て、その度にずきずきと頭が痛む。
「……起きたのか?気が付いたみたいだな」
その時声がかかって、虎徹ははっとして声がした方を向いた。
男が立っていた。
見覚えがあった。
茶色の短髪に茶色の瞳、20代半ばの青年。
先程、シルバーステージの公園の外れの路地裏で見かけた脱獄犯、サミュエル・スペンサーだった。
ぎょっとして起き上がろうとする。
が、身体が全く動かない。
よく見ると両手は後ろ手にぎりぎりと縛られ、脚もまとめて縛られている。
胴体にも縄が巻き付いていて、まるで蓑虫のようにされた状態だ。
かなりきつく縛られているのだろう、体重のかかった両手が既に痺れて鈍痛を訴えている。
動かない身体を無理矢理揺さぶり、目を上げてぎり、と相手を睨み付けると、青年がくすっと笑った。
「あんた、誰だか知ってるよ。……ワイルドタイガー、だろ?」
面白がっているような、からかうような声だ。
その外見が、意外だった。
調査に入る前、ジャスティスタワーで映像や写真では青年を詳細に見た事があったが、実際にこうして間近で見てみると、自分よりは随分とひ弱そうに見える。
人種的にはバーナビーと同じ白人種だ。
しかし、バーナビーに比べて線が細く、日がな一日パソコンに向かって座っている学生のような雰囲気だ。
外見からは、凶悪犯にはとても見えない。
いや、そんな外見が被害者を油断させていたのかも知れない。
現実には、コイツは何人もの女性を暴行殺人した快楽殺人犯ネクストなのだ。
外見がひ弱そうなのにそれだけの凶悪な犯罪を犯すことができるという事は、つまりそれだけネクスト能力が強大だという事を物語っている。
実際、先ほど自分に向けられた彼のサイコキネシスの能力を思い出して、虎徹は緊張した。
自分のネクスト能力が発動している一分間はこの青年に勝つことはできると思う。
しかし、ネクスト能力が無い時点では、まるっきり歯が立たない。
この青年がブルーローズの事をヒーローと認識して襲ったようには見えなかったから、金髪で自分の猟奇的嗜好に合う女子高生が罠に掛かった、と思って襲ったのだろう。
そうしたら自分が出てきたので、当初の目的は達成できず代わりに自分を拉致した、という訳だ。
ブルーローズの事がばれなかったのは良かった、と虎徹は内心ほっとした。
ガタガタ…。
青年が、錆び付いて壊れたパイプ椅子を持ち出してそこに座り、虎徹を見下ろしてきた。
「さっきの女の子は残念だったよ。すごく俺好みだったんだけどな。……彼女、囮?俺の事を探していたんだろう、ワイルドタイガー。それにしても能力が1分って、ホント使えないな。せめて5分とは言わなくても3分あれば俺の事つかまえられたのにな?」
くすくすと笑って青年の足が虎徹の腹を蹴った。
「う……っ!」
たいした力ではなかったが、それでも全く身動きの取れない腹に思い切り靴先をたたき込まれて、思わず呻く。
「能力、1分なら使えるんだろ?もう復活してんじゃないの?使う…?でも俺のネクスト能力は時間制限なんかなくて無尽蔵だから、絶対勝てないと思うよ?」
青年が、肩を竦めて笑いながらそう言ってきた。
「まぁ途中で使ってもいいけどさ。でもアンタが俺の事探してたって事は、もしかしてヒーロー全員俺の事探してる?俺ってすごい注目されてるなぁ…!ははっ!」
茶色の目を細め、嬉しくてたまらないというように笑う。
「でも、他のヤツで顔知ってんのって、考えてみたらバーナビーとドラゴンキッドぐらいかな。あぁ、アンタはね、一年前にほら、殺人犯って事で間抜けな顔が思いっきりマスコミに出ただろ?あれで覚えてたんだ。俺元々ヒーロー好きだから。俺の力ってすごいだろ?ヒーローになれると思わない?なーんてね、ヒーローなんてなるわけないけどな。人のために尽くして点数制で人気計られるなんて、たまったもんじゃないよ。そんな事しなくたって俺はシュテルンビルト一、いや世界一強いネクストだし。ま、俺が世界一強いネクストだってのを証明するために、アンタの死体にいろいろ悪戯してやるかなぁ?……どうしよう?今まで殺した女の子みたいにさ。……でも俺、金髪で胸の大きな女の子じゃないと興奮しないんだよな。あ、でもアンタにはちょっと興奮するかも。ほら、ヒーロー様をぼこる、とか考えると、な?」
青年の目がすっと青く変化し、身体が薄く発光する。






「うっ……ッッッ!!!」



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