◆13◆
部屋の隅に置かれていた鉄骨の柱がひとりでに動いて虎徹の尻を叩いてきたので、虎徹は呻いた。
「頑丈な方が壊し外があるよな。楽しい。でもそれだけじゃつまんないからやっぱりアンタの事を殺した後に、俺がアンタの事を犯してやるよ。男は初めてだけど、結構楽しそう。たまには悪くないよな?そんでぐちゃぐちゃに犯した死体をアンタたちの仲間の所に送ってやる」
くすくすと嬉しげに笑いながら青年がそう言う。
虎徹はぞっとした。
背筋がすっと冷えて、身体ががくがくと震える。
純粋に恐怖だった。
今の自分では、この青年には勝てない。
能力は時間が経って復活しているが、それにしてもハンドレッドパワーは1分しか保たない。
ハンドレッドパワーをして何とかこの青年よりも力が勝っている状態なのだ。
そのハンドレッドパワーが5分保たなくては、到底この劣勢から立て直して彼を捕まえることはできないだろう。
………どうする。
いや、どうするもなにも、手立てがない。
せめて、ここの場所を仲間に伝えることはできないだろうか…。
しかし、後ろ手になっている手の感触からして、PDAも時計も外されているようだった。
着ていたコートやネクタイやベストも外されて上半身はシャツ一枚に、下はズボンが脱がされてボクサーパンツ1枚だった。
その格好でこの寒い冷たい真冬の廃工場の倉庫に転がされているのだから、身体もすっかり冷え切って、そこからもがくがくと震えが来る。
歯の根が合わない。
寒さも相俟って蒼白な顔で青年を見上げると、青年が嬉しげに笑った。
「そうそう、そういう顔好きだよ、俺。ホント、アンタってなぶりがいあるなぁ」
青年が右手を挙げる。
重そうな鉄骨がふわっと宙に浮いた。
と、次の瞬間、その鉄骨が目にも止まらぬ速さで自分の身体に振りかかってきた。
瞬時顔を伏せ、衝撃に備えて身体を堅くする。
が、鉄骨は身体に触れるか触れないかの所で止まった。
はぁはぁ、と息を荒くして顔を上げ、青年を睨む。
「はははっ…!そういう恐怖の顔、好きだなぁ、ホント悪くないね、アンタ」
――ドスッッッ!!!!
「…ううっっっ!!」
ふっと油断をしたら、その隙に別の細い鉄骨が虎徹の腹に直撃した。
腹筋を少し緩めていた瞬間だったので、内臓が衝撃を受け胃がぐっと迫り上がる。
吐き気を堪えてぜぇはぁと息をする。
「まだ余裕ありそうだね、つまんないな…」
青年が肩を竦める、
と、今度は部屋のそこかしこに散らばっていた金属の欠片や石が、ふわっと宙に浮いた。
「―うっ……うううッッッッ!!」
宙に浮いたいくつもの金属の欠片や石が不規則に動いて、虎徹の背中や腹、尻、太腿にまるで食い込むかのような勢いで叩き付けられた。
「うぅッッ…うぁッッッッ!!!!」
身体を出来るだけ丸め衝撃に耐えるが、堅いつぶてが息もできない程に自分の身体を攻撃してくる。
「――うぐッッッ!!!!!」
――バシッッ!
つぶてだけに神経を集中していたら、長い鉄骨が思い切り腹に突き当たってきた。
どーんと玉突き状態のように突かれて、瞬時身体が吹っ飛ぶ。
更にそこに、青く発光した青年が手に金属の長い鉄棒を持って、その金属バットのような形をしたもので思いっきり虎徹の腹を殴りつけてきた。
ガスッッ!!ボスッッッ!!!!
鈍い音がして、為す術もなく虎徹は腹に暴行を受けた。
なんとか逃れようと身を捩ると、今度は背中や尻を殴られる。
後ろ手になっている手を殴られると、まるで腕が骨折でもしてしまったかのように鋭く痛む。
身体中ぽっぽっと火傷をしたように火照ってくる。
冷たくてたまらなかった床が、いつの間にかひんやりと気持ちの良いぐらいになっている。
「うぐぅっ…ッッぐぶッッッッ!!」
胃を思い切り鉄棒で殴られて胃液が迫り上がり、虎徹はごぼごぼと床に胃の内容物を吐き出した。
「うわっ、きたないなぁ…」
部屋の隅にあったホースがしゅるっとひとりでに浮き上がる。
水道の蛇口に巻き付き蛇口がひとりでに動いて、氷のように冷たい水が一気に虎徹の顔を直撃する。
「ううぅぅっ……ぅア……ッッッ!!」
全身ずぶ濡れになって水を浴びて凍りそうに冷たい。
それなのに、身体が打撲によって発熱しているからか、その冷たさが反対に心地良いような気もして、虎徹は意識が半ば朦朧としてきた。
全身が熱い。
熱いのか、それとも怪我をしていて痛いのか。
身体はどうなっているのか。大丈夫なのか。
もう、分からない。