◆14◆
今までヒーローをしていて何回も大けがを負った事はあった。
重傷で集中治療室に運ばれた事もある。
だから、怪我には慣れていた。
――が、ヒーロースーツを装着していない状態で、こんなに一方的に暴行されたことはなかった。
全身が勝手にがくがくと震える。
手も足も、もう感覚が無い。
視界が朦朧としてくる。
がんがん、と頭の中で何かが鳴り響く。
……もう、もしかして自分は駄目なのだろうか。
ヒーロースーツさえ着ていれば、なんとかなっただろうか。
能力が5分あれば、なんとかなっただろうか。
能力が減退していないで、5分あれば―――。
そうすれば、こんな奴、発動している5分の間に捕まえる事ができたはずだ。
5分なんで要らない、せめて3分、いや2分でもあれば――。
「ぐあぁ……っっ!!!」
火照った身体が更にかぁっと熱くなる。
火炎放射器から炎でも浴びせられたかのように、全身が一気に燃える。
身体のどこかに何かがひっきりなしに当たっている。
鉄棒なのか、水なのか、瓦礫なのか……。
もう、分からなかった。
視界が白く濁り、身体が鼓動と共に痙攣する。
ズキンズキンと身体が跳ね、それはきっと痛みなのだろうが、既に痛覚と熱感が綯い交ぜになっていて区別できなかった。
―――死ぬのだろうか…。
今までも何回も『死ぬのか』、と思った瞬間はあった。
そのたびに、『いや、絶対にここで死ぬわけにはいかない』と思った。
もし、力及ばず死に至る事があっても、その瞬間まで、前を向いて戦っていたい。
そう思っていた。
けれど……。
……初めて虎徹は、自分がその意志をあきらめかけようとしているのを感じた。
圧倒的な力の差。
減退していく能力。
ネクストとしての自分の衰え。
もう、このあたりが潮時なのかも知れない。
いくら頑張っても、……無理なものは無理なのかも知れない。
ネクスト能力が殆ど無くなった状態で、自分の何倍もの強大な能力を相手に、勝てるわけが、……無い。
それは自明の理だった。
いくら頑張っても、もう指先一つ、動かせない。
身体だって、ぼろぼろだ。
―――もう、駄目、だ。
それは、圧倒的な絶望感だった。
目の前がすうっと暗くなった。
熱くて熱くて全身火傷したようだった身体が、突如氷に浸けられたように冷えた。
薄暗くなっていく視界が潤んだ。
涙が出ているのだろうか。
それとも、水を浴びせられているから、視界を潤ませるのはただの水なのだろうか。
―――もう、終わりなんだ。
そう思った。
……残念だ。
でも、どうしようもない。
力の差なんだ……そう思った。
能力が1分しか無い自分には、無理だったんだ。
もう、終わりだ。
終わり。……最期。
自分の人生はここで終わり。
楽しかった事も、まだやり残している事も、……全部。
悔しい…………。
ふと、一瞬だけ視界がクリアになった。
上から自分を見下ろしている、犯人の顔が見えた。
にたにた笑っていた。
いかにも嬉しそうに、得意そうに笑っていた。
笑みが顔面全部に広がって、これ以上無いというほど、嬉しそうだった。
――――くそ…………!!!!!
ぐわぁぁあーん、と頭が鳴った。
冷たく凍っていた全身が、一瞬爆発したように燃え上がった。
――くそっっっっ!こんな所で死んでたまるか……!!!!
突然感情が広がった。
くそ……くそっ…!!!
悔しくてたまらなかった。
終わってたまるか……!
終わっていいなんて、何故思ったのか!
俺は、正義の壊し屋だ。
壊し屋が絶望してどうする。
正義を貫かなくてどうする。
絶望している余裕なんて、無いはずだ。
こんな所で死んでたまるか!
……絶対、……絶対、立ち上がって反撃しなければ。
こんな所で、絶望して、どうする…!!!!
―――カァッッッッ!!
全身が、発火した。
青い炎がほとばしり出た。