◆15◆
無我夢中だった。
自分が今どうなっているのか、分からなかった。
ただただ、何かに突き動かされるように、闇雲に本能のみが虎徹を動かしていた。
全身が青く燃え上がって、ゆらり、とオーラがゆらめいた。
身体の中から信じられないような強大な力がわき上がってきた。
わき上がって盛り上がって、火山が爆発するように、身体の外にほとばしり出る。
青いオーラが一気にぶわっと広がる。
ゆらっとゆらめいて、それが犯人の身体を包み込んだ。
「―うわぁーっっ!!!!!!」
青年が悲鳴を上げる。
己の青いオーラが、青年のネクストの青い光を包み込んで、それはまるで相手の光を飲み込んでいくようだった。
自分でも一体どうなっているのか、分からなかった。
身体が燃え上がって、燃え尽きてしまうのではないか、と思った。
ひゅうう……と、音を立てて自分のオーラが相手の光を吸い取っていく。
それとともに、自分の体内になんとも表現しようのない力が生まれるのを虎徹は感じた。
――なんだろう、これは。
今まで経験した事の無いような力だった。
心臓が熱くなって、ドクンドクンと破裂しそうになる。
胸から腹にかけて一気に熱が広がる。
それが全身に広がって、自分の青いオーラがどんどんと強く輝いていく。
シュウウゥゥ………!!!
ついに、相手の青い光が消えた。
虎徹の中へと全部、吸い込まれたのだ。
青年が蒼白になる。
愕然として動けない所に、虎徹は一気にハンドレッドパワーで拳をたたき込んだ。
あっけなかった。
青年の身体が吹っ飛んで、堅い壁にあたって重傷になる寸前で、虎徹はハンドレッドパワーで追いつき青年を捕まえた。
彼は、意識を失っていた。
シュウゥゥゥ………。
自分のネクストの青い光が消えていく。
全身の発光がすうっと消えれば、そこは薄暗く荒れ果てた廃工場の一室で、虎徹は呆然として、腕に気を失った青年を掴んだまま、立ち尽くしているのであった。
「虎徹、すげぇじゃねぇか、よくやったな」
どうして犯人を確保できたのか説明もできないまま、半ば呆然として虎徹がアポロンメディア社に戻ると、ベン・ジャクソンが待ちかねたように声を掛けてきた。
「はぁ…………、……」
「なんだ、気のない返事だな。しかし、あんな力の強いヤツをよくお前一人で捕まえられたよな、一体どういう作戦を立てたんだ?」
覗き込むようにして質問してくるベンに返事ができず、虎徹は困惑した。
青年を捕まえた後、ぼんやりと立ち尽くしていると、連絡を聞いたヒーロー仲間や警察官たちが現場に駆けつけてきた。
傷だらけで全裸の虎徹と気を失っている犯人を見て驚愕したようだったが、すぐに救急車も到着し、虎徹は中で応急手当を受けた。
不思議な事に、虎徹の身体は表面、全身に細かい傷はあったものの、内臓は全く傷ついていなかった。
骨が何本か折れていてもおかしくない怪我だったし、内臓も損傷していて当然なはず、と医者も首を傾げたが、虎徹自身も何故何ともないのか分からなかった。
以前、ジェイク戦や、アンドロイドと戦った時は重傷を負って、その後長く入院した。
今回もそれに劣らない、いやそれ以上に傷を負っていたはずなのに、なぜ内臓はなんともないのか。
あの時、もう終わりだ、と思った時、信じられないような力が自分の中にわき出してきた事と、関係があるのか。
結局、虎徹は応急手当のみで大丈夫、という事になり、救急車の中で警察の事情聴取に応じる事となった。
しかし、それとても納得のいく説明はできなかった。
納得がいく、というより、殆ど説明できなかったと言えた。
……ひとけのない公園付近を歩いていたら、犯人を見つけた。
逮捕しようとしたが、力の差が圧倒的で自分が捕まってしまった。
気がついたらあの廃工場に拘束されていた。
殺される所だったが、奇跡的に自分のネクスト能力で勝った。
――それしか言えなかった。
警察としても、ネクスト能力が介在してくるとそれ以上論理的な説明を要求できないらしく、更には元々虎徹にはあまりそういう説明を期待していないようで、その程度の説明で釈放となった。
そして警察車両でアポロンメディア社まで送られてきて、帰ってきた所をベンに迎えられた、というわけだ。
「とにかく、今日はこのまま自宅待機って事で、すぐ帰っていいぞ、虎徹」
「……いいんすか?」
「ずいぶん痛めつけられたって話じゃねえか。俺はお前があそこから病院直行かと思ってたのに、こっちに戻ってきたんでびっくりしてんだ。身体はなんともねぇって話だが、本当か?」
ベンが疑わしそうに聞いてきた。
そこに、ヒーロー事業部長室からロイズが出てきた。
「虎徹君、ずいぶん活躍したようだね。はっきり言ってびっくりしたよ。とにかく、明日も自宅待機って事にしたから、ちょっとゆっくりしなさい」
ロイズも虎徹を窺うように見ながら声を掛けてくる。
「はぁ……申し訳ないっす」
「いや、君に怪我が無ければそれでいいんだけどね。でも君があんな大手柄を上げるなんて、まぁちょっと信じられないというかね…」
「そりゃ無いっすよ。一応俺、ベテランヒーローじゃないっすか」
「まぁそれはそうだけど。…でも、1分しか能力が無いのに、よく勝ったもんだね」
「全くだ、虎徹。今回はたまたま運が良かったんだぞ。あんまり調子に乗るなよ?今回みたいな大物の捕り物は滅多にねぇとは思うが、お前は自分の力以上に動いちまうからな…」
「大丈夫っすよ。…っと、じゃあ、今日は帰ります」
「出社は明後日でいいからね?身体がなんともないと言っても疲れてるだろうから、ゆっくりしてなさいよ」
ロイズとベンに見送られて、アポロンメディア社を後にする。
レールエレベータに乗って、ゆっくりと階層を下る車内からシュテルンビルトの街並みをぼんやりと眺めていると、先ほどまでは感じなかった疲労が一気に身体にのしかかってきた。
やはり疲れているようだ。
自宅に戻ったらさっさと寝てしまおう。
今日の事は、それから考えよう。
明日一日休みなんだし、のんびり過ごして、たまには部屋の掃除なんかもして……。
(……………)
それにしても、……一体自分がどうしてあの犯人に勝てたのか……。
自分の事ながら、虎徹には分からなかった。