◆17◆
ブウン……。
微かな発動音とともに、自分の身体が薄く青い光を帯びる。
感覚が一気に鋭敏になり、研ぎ澄まされていく。
時計の秒針で時間を計る。
1秒、2秒、…10秒、…30秒…。
どうだろうか。
前回発動時間が伸びた、と思ったのはあの時一回だけで、実は反対に短くなっているのではないか。
心臓がどくっとせり上がってくるような気がする。
緊張で冷や汗が出る。
1分を越した時、虎徹は思わずふうっとため息を吐いた。
大丈夫だ、1分を越えた。
つまり伸びている、という事だ………。
そう思って張っていた気が抜けたのか、フッ……と、青い光が薄くなる。
(………!)
消えた……!
確かに光が消えていた。
感覚が一気に鈍くなる。
体感覚も鈍重になる。
やはり、元の自分、つまり発動時間が1分の自分に戻ったのだろうか。
しかし、体内にはまだエネルギーが満ちている感じがした。
以前、能力が5分あった時でも、発動終了時には自分の体内のエネルギーを一気に使い果たして何も残っていない、という感覚になっていた。
ネクスト能力を溜めておく器でもあるとしたら、それが空っぽになったような、そんな虚ろな感覚だ。
1分に能力が減退した時も同様にそうだった。
たとえ1分でも、発動終了時には体内が空っぽになったように感じた。
ところが、今はそうではなかった。
体内の、能力を溜めておく器に、まだ能力が使い切らずに溜まっているような気がした。
(…………)
眉根を寄せてその常にない体内の違和感を感じつつ、虎徹は息をぐっと詰めた。
……もう一度。
体内に残っていると感じた能力を表に出すイメージで身体に力を込める。
「―――……!!」
身体の周りの空気が一瞬ピン、と張り詰めた気がした。
ビリッと静電気が走ったように感じた。
青い光がふわっと再び光り広がって、身体を包み込む。
(……マジかよ……!)
信じられなかった。
が、それは事実だった。
虎徹は、再度ネクスト能力を発動していた。
息を詰め、目を閉じてその感覚に浸る。
体中に力が漲る感覚。
一秒が百倍の長さになって、その引き延ばされた時間を隙間無く自分が観察しているような五感の冴え。
明らかに、ハンドレッドパワーが発動している。
たった今、能力を使ったばかりだとういうのに。
(どうしてだ……?)
信じられない気持ちのまま、能力が再び消えるまでその超感覚の世界を体感する。
程なくして、ふっと青い光が薄れ、能力が消失した。
時間は、と時計を見ると、2分弱経っていた。
つまり、先ほど発動した時間と合わせると、約3分能力が出ていたという事になる。
しかも、一度能力が消えた後に、すぐに発動できた、というのは一体……。
これはどういう事だろうか。
(能力が復活したのか……?)
いや、それにしても、前とは違う。
前は、一旦ハンドレッドパワーが発動したら5分間はそれが消えずずっと続き、そして消えたら、次に発動できるまで1時間は待っていなければ駄目だった。
しかし、今は違った。
発動時間は、減退して一度落ち着いていた1分より長くなっているが、5分には戻っていない。
その上、発動した後にすぐ、再度能力が使えている。
(もしかして、発動をコントロールできる……?)
虎徹は、顎に手を掛けて考え込んだ。
そんな事があるだろうか。
もう一度、目を瞑って、自分の体内のエネルギーを解放するイメージにしてみる。
「―――…」
が、今度はダメだった。
体内が空っぽになった感じだった。
(やっぱダメか。さっきのは錯覚か……?)
分からない。
今まで、能力が初めて出現してからこっち、能力が安定せずに爆発したり、力の制御ができなかった事はあったが、自分で発動をコントロールできるような事は一度も無かった。
だから、今の自分の状態がまだよく把握できない。
本当にコントロールできたのか?
それとも偶然か。錯覚か。
とりあえず洗濯や洗い物をしながら、次に発動可能になるまで1時間、虎徹は待ってみる事にした。
上の空で洗濯をし、乾いた衣服をランドリーから出してたたむ。
落ち着き無くTVを掛けて、耳に入ってきそうにもないが音楽を聴いてみる。
何をしても落ち着かなかった。
時間の経つのが遅く、じりじりとしながら待って、漸く1時間になる。
(よし、もう一度、発動させてみよう…)
今度は最初から時間を区切るイメージでやってみよう、と虎徹は思った。
拳を握り、気合いを入れる。
ブウン………。
空気がぴりっと震動して、虎徹の身体が青く光る。
五感が研ぎ澄まされ、あらゆる物音が耳に入ってくる。
超感覚の世界が訪れる。
そのまま時計を見て1分経った時、虎徹は身体の力を抜いた。
意識的に能力を解除してみる。
フッ……と、青い光が消えた。
ここまでは、いつもの能力解除だ。
さて、ここからが問題だ。
拳を握っていた手を開いて手のひらを見つめ、一度深呼吸をしてから、虎徹は再度拳を握って力を込めた。
頭の中で、能力を解放するイメージを作る。
フウッと身体を青い光が包む。
一瞬にして世界がハンドレッドパワーの世界へと変わる。
発動、できていた。
それもあっけなく、いとも簡単に。
何度か能力を解除したり、再発動したりしてみる。
やはり、できる。
息を吸うように簡単に、意志の力で。
発動解除を繰り返し、トータルで発動時間が3分になると虎徹の能力は消え、再発動ができなくなった。
「………マジか…」
どうやら、本当に発動解除が自分の意志で可能になっていて、しかも発動時間は3分に伸びていたようだった。
5分には届かないものの、かなり回復している。
しかも自分の意志で発動解除が可能となれば、これはかなり強力なネクスト能力、と言える。
「………なんでだ……」