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『こんばんは、シュテルンビルト市民の皆さん!今日もヒーロー・TVが始まりましたぁ!今夜の現場はここ、ダウンタウン地区の商業施設。今まさに火災が勃発しております。ガス爆発も起こっている模様!さて、一番乗りのヒーローは、…っと、早速登場しましたぁ!タイガー&バーナビーのお二人っ。いつもの事ながら万全のコンビ体制で火災現場に突入しておりますっ!』
ヒーローTVの実況アナウンスが響く中、上空をOBCのヘリコプターが縦横無尽に飛び回る。
虎徹は乗ってきたチェイサーから飛び降りると、オレンジ色の炎が燃えさかるビルへと走り込んだ。
今日の現場はダウンタウン地区の上層部にある、大きな雑居ビルだった。
内部が細かく区切られ、区画事に借り主の違うビルは、空き店舗あり、入ったばかりの怪しげな店あり、倉庫あり、内部は得体の知れない粗大ゴミや捨てられた什器がそこここに散乱しているようなビルである。
その中で火災が発生した。
だから、燃えている中に一体どんな危険物があるか分からない、もしかしたら大爆発も起こるかも知れないというものだった。
内部に当時いた人間も把握できていない。
逃げ遅れた人もいるかも知れない。
まだ夜も早いとは言え、群青色の夜空を背景にしたビルは、燃えさかる炎のゆらめく影ばかりが視界を遮る。
「虎徹さん、僕は右手の方の捜索に当たります」
マスクを下ろし、バーナビーが虎徹に声を掛ける。
「分かった、俺は左に行く」
お互いに持ち場を確認して、虎徹とバーナビーは二手に分かれた。
市の消防車ももうすぐ到着する手はずだが、ダウンタウン地区は道路が入り組んでいる上に不法駐車が多く、更には道路上に不法投棄された粗大ゴミなども転がっている事から、消防車が入れない場所もある。
今火災の起こっているビルまで消防車が来られるか、微妙な所だった。
そのため、迅速な消火ができるかどうかはヒーローにかかっている。
タイガー&バーナビーに続いて、ブルーローズやファイヤーエンブレムなどの他のヒーローも続々とかけつけてきた。
消火の方は彼らに任せ、虎徹とバーナビーは火災現場の奥深くに潜入して逃げ遅れた人の捜索に当たる事にした。
もうもうとあがる煙と熱。
人がもし居たとしても、手遅れになるかならないか、ぎりぎりの時間だろう。
「こりゃすぐにでも見つけださねーとやばいな…」
バーナビーと分かれてビルの左手に入り込んだ虎徹は周囲に立ちこめる煙や熱に眉を顰めた。
一刻も早く、人を見つけ出さす、もしくはいないと確認しなければならない。
ブウン………。
躊躇せず虎徹はネクスト能力を発動させて、視覚と聴覚で人の気配を探った。
神経を研ぎ澄ませて、100倍になった感覚で周囲を探る。
(…………いないか。……)
15秒、30秒、………50秒。………1分。
1分を過ぎても能力は消えなかった。
そのまま、発動を続ける。
周りには誰も居ない。
バーナビーはビルの反対側で捜索中だから、彼に、自分の発動時間を気づかれる恐れもない。
ベンからは1分以上発動するなとは言われていたが、誰にも気づかれなければ、もう少し大丈夫だろう。
(……っ!)
1分を過ぎて更に20秒ほど探った所で、ビルの左端からわずかな気配を感じた。
人のうめき声のようなものが聞こえたのだ。
(よしっっ!)
瞬時、虎徹は移動した。
ハンドレッドパワーを発動したままだから、あっという間だ。
ビルの一番端、まだ火が来ていない店の一角に、その店のオーナーらしき女性が倒れていた。
煙は既に入ってきており、その煙から逃れるように身体を丸めてソファと壁の間にうずくまっている。
一瞬にして見て取ると虎徹はその女性を抱え上げ、更に次の一瞬でビルの出口まで駆け戻った。
そこで能力の発動を止める。
発動時間は、2分弱だった。
発光していた身体が元に戻り、感覚が一気に鈍る。
戻ってきた自分の姿が誰にも気づかれていない事を確認してから、虎徹はビルの外に出た。
『おおっと、今、タイガーがビル内から一般人を救出!ポイントゲットです!』
ビルから出てきた虎徹をめざとく見つけたマリオが声を上げ、ヘリコプターが近寄ってきて虎徹を照らす。
「虎徹さんっ、心配しましたよ…!」
既にビルから退去していたバーナビーが駆け寄ってきた。
バーナビーが探した方には誰も居なかったようだ。
手ぶらで、煤けたヒーロースーツのフェイスをオープンにしている。
虎徹が救出した女性を救急隊員に渡すと、バーナビーが笑顔で虎徹の肩を叩いてきた。
「虎徹さんの方は人がいたんですね。救出できて良かった。でももう火が全体に回っています。間一髪でしたね」
「本当だな、危なかったな…」
ビルを見るともうすっかり火に包まれ、火の点いた瓦礫がばらばらと落ち始めていて、一般人は到底中には入れない状態になっていた。
「他のヒーローたちも消火活動に当たってます。僕たちも行きましょう!」
「よし!瓦礫撤去といくか!」
今度は二人で一緒にビルに再突入する。
ブルーローズやファイヤーエンブレムが消火した箇所から素早く入って、中に残っている瓦礫を撤去する地道な作業をする。
地味だが、パワー系ネクストでないとできない危険な作業だ。
ガラガラ…!!
火の粉を周りに振りまいて、鉄筋の柱が落ちてくる。
「僕が片付けます!」
バーナビーがネクスト能力を発動させた。
青い燐光を発したまま崩れ落ちてくる巨大な瓦礫を両手で受け止め、軽々と手で砕いていく。
虎徹のネクスト能力は、先ほどの人員捜索で使ったと思っているのだろう、
発動できない自分を守るつもりか、バーナビーが虎徹をかばうようにして次々と瓦礫を処理していく。
確かに、先ほどは能力を使って人を助けた。
いつもならば、あと59分は発動できない、という事になる。
しかし、実際には――。
能力を発動させようと思えば、できる、はずだ……。
先ほどの発動時間が2分弱。
今までの自分ならば、1分以上発動できるはずもない。
が、先ほどの発動も、発動時間が切れて終了したのではなく、自分の意志で能力を切った。
身体の中にはまだ能力が発動できるエネルギーが溜まっている感じがする。
――どのぐらい、発動できるんだろうか。
…気になる。
試してみたい、という気持ちが高まる。
だが、TV中継も入っていて周囲の目もあるここで発動する訳にもいかない。
バーナビーにも今の段階では気づかれないようにしなければならない。
相棒なのに何も言わないのは、とも思うが、自分の不安定な発動について、まだバーナビーに打ち明ける時期ではないというのがベンや斉藤の意見であり、虎徹もそう思っていた。
それでも、隠し事をしているような、ちょっともやもやした心持ちになる。
「虎徹さん、そっち大丈夫ですか?」
「おう、もう危険なものは殆ど動かしたぞ!」
内心いろいろと考えたままでも身体は勝手に動く。
バーナビーのサポートをしながら虎徹は次々と瓦礫を撤去していった。






ビルの火災がだんだん小さくなり、ガラガラガラ、と耳をつんざくような音がして一気にビルが崩壊すると、そこには煙を上げる瓦礫の山が残った。



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