テストの日 《2》
「じゃあ、オレはここでっ!」
校門を出てすぐのバス停の所で、菊丸が立ち止まった。
菊丸がいつもここでバスに乗ることは知っていたが、菊丸がいなくなると、不二と二人きりになってしまう。
手塚は戸惑って、足を止めた。
「僕はお昼食べてないから、マックに寄って食べてから帰るよ。手塚はどうする? 君も良かったら一緒にどう?」
--------ドキン。
不二に誘われたのが分かって、手塚は密かに狼狽した。
「おなか空いてない?」
不二がいつもの笑顔を見せる。
「あ、ああ………」
「じゃ、行こう! 菊丸、明日又ね」
「うん、じゃあ!」
菊丸が元気に手を振って、駐車したバスに乗り込む。
バスが発進して、校門の前には手塚と不二の二人が残された。
「行こうか、手塚?」
不二が首を傾げて微笑んでくる。
この間の事なんて、全く忘れてしまったように。
何もなかったかのように、親しげな友人みたいに。
(……………)
胸が疼いた。
手塚は小さく頷いて、不二の後に続いた。昼時の店内は、外回りのサラリーマンや、買い物途中の主婦やら、雑多な人間がひしめいていた。
その人混みの間をするりと擦り抜けるようにして、不二がトレイに二人分のハンバーガーとカップを持ってくる。
「はい、お腹空いたね」
テーブルの上にトレイを置いて、不二がやれやれ、というように笑いながら椅子に腰掛けた。
「明日は数学のテストだね、手塚。君のお陰で自信ついたよ」
ハンバーガーを頬張りながら、不二が言う。
そんな不二を横目で見ながら、手塚も黙ってバーガーを口に運んだ。
「3年生は、みんな神経質になってるみたいだね、今度のテスト。菊丸までどうしようって言ってるんだもんね。ちょっとびっくり」
不二が話しかけてくる。
「3年の成績が一番進学に影響するからかな。まだ3年になったばかりなのに、なんだか忙しないよね」
当たり障りのない会話。
学校の話。
勉強の話。
--------友人同士の、たわいもない話。
…………こんな話が、したかったわけじゃない。
違うんだ。
不二、おまえは………………
「……なに?」
押し黙ったまま、不二をじっと見つめていたらしい。
不二がいぶかしげに手塚を覗き込んできた。
「…………」
軽くかわそうとして、手塚は声が出なかった。
喉が詰まって、胸が苦しい。
「どうしたの、気分でも悪い?」
「…………」
「……手塚?」
「………おまえは、平気なんだな………」
「…………えっ?」
不二の眉が寄せられる。
困惑した様子に、訳もなく苛立った。
「おまえにとっては、………別にどうって事無かったんだな、この間のこと……」
「……手塚……」
「俺は………俺はずっと…………」
ずっと考えていた。
あの時のこと。
不二の事。
不二が自分を好きだって言う事。
気が付くと、頭の中は不二でいっぱいだった。
勉強していても、いつのまにか不二の事ばかり考えていた。
不二の囁き。
不二の目。
-------熱い唇。
「……手塚?」
「………なんでもない!」
ガタン。
椅子を蹴倒すようにして立ち上がると、手塚は脇に置いておいたバッグを掴んだ。
驚いたように目を見開く不二から逃れるように走り出す。
「ちょ、ちょっと……」
不二が慌てて立ち上がった。
「ちょっと、手塚!」
不二の声が背後から聞こえる。
店内の客がびっくりしたように自分たちを見てくる。
かぁっと頬が熱くなって、手塚は俯いて乱暴に店の扉を開けた。「待って、待ってったら!」
早足で俯いたまま道路を歩いていると、後ろから不二が追いかけてきた。
「待ってよ、手塚!」
がしっと肩を掴まれて、足が止まる。
はぁはぁと、不二が忙しく呼吸を繰り返す。
「もう、突然出ていかないでよ、びっくりしたじゃないか!」
叱責するように言われて、手塚は赤面した。
自分でも、子供じみた馬鹿な行動をしたと思っている。
人の多い店内で、あんな行動をして。
知っている人に見られたかも知れない。
「なに怒ってるのさ?」
「………別に……」
「別にじゃないだろう、……手塚」
ぐいっと手首を掴まれて、思わず顔を上げると、不二の茶色の瞳がじっと自分を覗き込んでいた。
不意に目頭が熱くなって、手塚は視線を逸らした。
「ちょっと気分悪くなっただけだ…………」
羞恥なのか、情けないのか分からないが、涙が滲んできた。
「手塚………気分が悪いの?」
「ああ、そうだ」
「そう……………じゃあ、僕の家へ行こう?」
不二が思いもかけない事を言い出してきたので、手塚は思わず不二を見た。
不二がじぃっと見つめてきた。
「僕の家に行けば、治るよ、手塚………………そうだろう?」
「………ふじ………」
「そうだろう、手塚?」
--------そうかもしれない。
不二の家に行けば……………。
行けば、どうなるのだろう?
「僕の家、昼間は誰もいないんだ…………」
不二の声に、手塚の肩が僅かに震えた。
答えは分かっていた。
不二の家に行って、-------そして。不二の家に向かうバスの中で、手塚はずっと身体の震えが止まらなかった。
手塚が更に乙女化。すいません〜〜(汗)しかも展開も強引。