テストの日 《3》
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「上がって」
不二の家に着くと、不二はズボンのポケットからカギを取り出した。
ガチャリ。
鍵を開けて中に入ると、ひっそりとした、人のいない薄暗い空間が広がっていた。
不二の後について、押し黙ったまま、手塚は歩いた。
階段を上がって、先日と同じ不二の部屋に入る。
窓から、レースのカーテンを通して淡い光が流れ込んでいた。
手塚が入ると、不二はにっこり笑って、窓際にまとめられていた分厚い遮光カーテンを引いた。
部屋が一気に暗くなる。
それから、不二は、部屋のドアの前に行って、ドアのカギをガチリ、と締めた。
「不二…………」
「準備できたよ、手塚」
扉を背にして立って、不二が言ってきた。
「僕に抱かれに来たんだろう、手塚?」
「……………!」
不二の言葉に思わず愕然として、手塚は青ざめた。
『抱かれに来た』という言葉が、手塚を一気に現実に引き戻した。
「……その………」
無意識に言い繕おうとして、不二の射すくめるような視線に捉えられ、手塚は後ずさった。
「そうだろ、手塚?」
不二が近付いてくる。
後ずさって、背後のベッドに身体を取られて、手塚はベッドに尻餅を付いた。
手塚の目の前まで来て、不二が見下ろしてくる。
「違うの?」
「………………」
答えられなかった。
不二の家に来れば、どうなるか、分かっていたはずだった。
この間拒絶した自分が、不二の家に来ると言う事は、………つまりそういう事だ。
分かっていて来たのだ。
それなのに、手塚は、今更ながら自分が不二に抱かれたかったのだという事実に打ちのめされていた。
「……そうだよね?」
「……分からない……」
不二の問いかけに、弱々しく俯いて答える。
涙が出てきそうだった。
感情が不安定に揺れ動いて、自分で自分が信じられない。
「……ごめん、困らせたかな?」
不意に不二が柔らかな声で言ってきた。
「君を困らせるつもりはなかったんだ。ごめんね、手塚…………ね、顔を上げて……」
優しい誘いにおずおずと顔を上げると、不二が小首を傾げて顔を近づけてきた。
「好きだよ、手塚………」
薄い唇がにっこりと笑う。
茶色の瞳が、じっと自分を見つめてくる。
まるで、自分の心の底の底まで見透かすように。
「キス……………していい?」
不二がすっと手を伸ばしてきた。
頬に触れられて、そこから甘い電流が走る。
思わずびくり、と身体を震わせると、不二が微笑んだ。
「好きだよ…………」
唇が近付いてくる。
濡れた、熱い感触がする。
全身が、甘く痺れた。
こんな事を、不二としているなんて…………。
して、そして、自分がこんなにも感じているなんて。
信じられなかった。
でも、事実だった。
不二のぬめった舌の感触が、脳を蕩けさせてくる。
こんな感覚は、知らない。
今まで、感じたことがない。
他人と接触して、それがこんなにも心地良いなんて……………。
「嬉しいな………」
唇を少し離して、不二が掠れた声で話しかけてきた。
「何が………?」
「何がって、君とこうしていられることがさ……夢みたいだよ……」
不二が含羞かんだように笑った。
頬に触れていた指で、手塚の顔の輪郭をなぞるように撫でる。
くすぐったくって手塚は視線を揺らした。
「君の頬、ずっと触ってみたかったんだ。………それに………」
不二の指が唇に触れた。
「君の唇…………ずっと、キスしてみたかった………」
指が唇を割って、口腔内に入り込んできた。
柔らかな粘膜を刺激されて、総毛立つような気がした。
クチュ…………と濡れた音が部屋に響く。
「よせ………」
羞恥心が込み上げてきて、手塚は顔を背けた。
「いや………?」
不二が低く囁いてくる。
「厭じゃないよね、手塚…………………そうでしょ?」
くい、と顎を掴まれて、上を向いたところに、すっぽりと唇が覆い被さってきた。
「んッ……………」
噛み付くように激しく口付けされて、手塚は思わず喉の奥で喘いだ。
何度も角度を変えて唇が押し付けられ、歯列を割って熱い舌が入り込んでくる。
舌が絡み合い、息も吐けないほど強く吸われ、手塚は眩暈がした。
身体が熱く滾って、全身が痺れる。
甘い疼きが、背筋をぞろりと這い上がってきた。
身体中の血が渦を巻いて流れ、ある一点に集中していく。
不二の手が、制服にかかった。
制服のボタンを一つ一つ外され、シャツをたくしあげられる。
「……………よせ!」
素肌を撫でさするように愛撫されて、全身が粟立った。
思わず唇をもぎ取るように離し、顔を背けながら言うと、不二がなだめるように首筋に口付けてきた。
「ごめん……………でも、やめられないよ。……だって、君、………本当は嫌がってないだろう……………?」
「………………」
不二の手が、手塚の胸をまさぐってくる。
胸の小さな突起を弾くように摘まれて、手塚はびくりと跳ねた。
「だ……めだ………ッッ」
ちょっと触れられたぐらいで、どうしてこんなに感じてしまうのだろう。
自分で自分が怖かった。
自分が、どんな醜態を晒してしまうか、分からないのが怖かった。
「大丈夫………僕しか、見てない………」
手塚の内心の怯えを感じ取ったかのように、不二が囁いてきた。
「僕には、君を全部見せて。………ねえ、手塚………君を知りたい。………どんな君でも、見てみたいよ…………」
「不二…………でも………」
「大丈夫だよ…………僕に任せて…………」
呪文のように何度も何度も、不二が大丈夫と繰り返す。
熱い吐息と共に聞かされると、手塚は何も考えられなくなった。
不二の言う通りに、してしまいたくなる。
と、不二が右手を手塚のズボンの中に差し入れてきた。
「…………………!」
既に下着の中で熱く息づいて、先端から涙を零していた器官をきゅ、と掴まれる。
「不二ッッ!!」
さすがに羞恥心が襲ってきて、手塚は声を上げた。
「駄目………もう、やめないよ………」
不二が、手塚の耳元に囁いてくる。
言いながら、不二が手塚の其処をゆるやかに扱いてきた。
根元をやや強く掴み、そこから先端に向かって指の力を微妙に変えながら動かし、先端の鈴口を親指で押すように愛撫してくる。
たちまち鋭い快感が頭まで突き上げてきて、手塚は堪えきれず顔を激しく振った。
ぱさぱさと、絹糸のような髪が不二の顔に当たる。
「よ………せッッ!」
他人にそんな所をさわられるのは、生まれて初めてだった。
考えるだけで恥ずかしくて、死んでしまいたいくらいだった。
それなのに、一方では悦んでいる自分がいて、もっとして欲しいと望んでいる。
それが分かって、手塚は愕然とした。
「だ…………めだ………ッッ」
快感が奔流となって押し寄せてくる。
下半身から熱いうねりがどくり、と打ち寄せ、脳を蕩かしてくる。
「……………!!」
脳が真白く爆発して、その瞬間、手塚は不二の手の中に熱い粘液を放出していた。
う--ん、こういう描写に入っちゃいましたけど、はぁ、怒らないでください(汗)