病 
《2》














跡部の家は、不二の家からは電車で40分程度行った所にある、瀟洒な英国風の外見をした3階建てだった。
「誰もいないんだ、今………」
跡部がそう言って、不二を部屋に案内する。
跡部の部屋は、贅沢な調度品の置かれた、品の良い部屋だった。
跡部の通っている氷帝学園中は、比較的裕福な家庭の子弟の通う学校だから、自宅や部屋が贅沢なのは予想していたが、実際跡部の部屋を見ると、なんとなく不二はおかしくなった。
「なんか、意外………キミって、結構上品なの?」
不二はそう言うと、跡部に向かって笑いかけた。
部屋の奥には、跡部専用のユニットバスまでついていた。
そこに案内されて、不二は学生服を脱いでシャワーを浴びた。
髪の毛まで綺麗に洗って、掛けてあったバスタオルでごしごしと拭く。
ふと、横を見ると、洗面台の上の壁半分を占める大きな鏡に、自分が映っていた。
薄い茶色の瞳が、自分を見つめ返してくる。
「……………」
見ていると、胸に砂が詰まったような、不快感が襲ってきた。
鏡から目を背けるようにして、不二はバスルームを出た。
跡部が入れ替わりに入る。
不二は、跡部の豪華なベッドに腰を掛けて、周りを見回した。
あまり、現実感がなかった。
本当に、ここで、これから跡部と関係を持つのだろうか。
自分から進んでやってきたわりには、実感がなかった。
腰に巻き付けたバスタオルを外して、不二は濡れた髪を擦った。
絨毯の上に、テニス雑誌が放り投げてあった。
気が付いて手に取ると、不二はぱらぱらとそれを捲ってみた。
「中学」という文字が目に入って、そのページを見ると、
「……………」
並んだ写真の一枚に、手塚が映っていた。
試合中を映したものらしく、手塚がボールを打った瞬間の写真だった。
小さくてよく分からないが、冴え冴えとした瞳と、きちんと引き結んだ口元が見えた。
「……なんだ、また手塚か?」
バスルームから出てきた跡部が、不二の見ている雑誌を覗き込んで、苦笑した。
「よっぽど、好きなんだな」
「………そうだよ………」
-------バサッ。
雑誌を投げ捨てて、不二は隣に座った跡部に寄りかかった。
跡部の身体は、筋肉が程良く付いたバランスの良いものだった。
自分ほどではないが、色白で、滑らかで張りのある肌の感触がした。
「不二………」
不意に跡部が、不二を押し倒しながら覆い被さってきた。
「ん…………」
甘えるように、不二は自分から口付けをした。
跡部が嬉しそうに、不二に応えて、舌を絡め合わせてくる。
そうしながら跡部は、不二の下半身に、自分の下半身を押し付けてきた。
固く熱い肉塊の感触が、不二の身体を瞬時震わせた。
跡部が唇をずらして、不二の胸の突起を口に含んできた。
片方の乳首を含んで舌で舐りながら、もう片方の乳首を、指でこねまわしてくる。
不二のそこは色素が薄いせいか、淡い桃色に色づいて、跡部の目を楽しませた。
「ふふふ、やっぱり綺麗だな……」
「跡部………」
「なあ、名前呼んでくれよ。景吾ってな……」
「景吾………」
言われるままに、名前を呼ぶ。
呼びながら、不二は跡部の頭を掻き抱いた。
跡部が身体をずらして、不二のものを口に含んできた。
「あっ……ッッ!」
たちまちぞくりとするような快感が、背筋を駆け昇ってきた。
好きでも嫌いでもなくても、そこを刺激されれば快感が湧き起こってしまう。
「あ………景吾…………ッ」
名前を呼ぶ、それは虚しい行為だった。
好きでもない相手と、こういう事をして、-----愛している振りをする。
自分も跡部も滑稽だった。
根元から先端まで何度も扱かれ、強く吸い上げられて、不二はがくんと背筋を仰け反らせた。
絶頂に達した不二のものを、跡部は綺麗に飲み込んだ。
「……良かったか?」
聞かれて、不二は微かに頷いた。
「じゃあ、オレも良くしてくれよ」
目の前に、跡部の勃起したものが突きつけられる。
それは、ぴくぴくと脈打って、白い湯気を放っていた。
不二は瞳を閉じて、大きく口を開けてそれを咥えた。
跡部が満足げに、不二の口の中に、自分から腰を動かしてそれを出し入れする。
「周助………」
不意に名前で呼ばれて、不二は目を開いた。
跡部が、自分を見下ろしていた。
自分を欲しがっている、素直な欲望を湛えた瞳。
(フフフ…………)
なんとなく可笑しくなって、不二は心の中で泣き笑いをした。
………バカみたいだ。
こんな僕を、こんなに欲しがって。
僕なんて、なんの価値もないのに。
「………ッもう、いい……」
舌と歯で擦りあげながら、ねっとりと口で愛撫すると、跡部がやや苦しげに息を吐いた。
「あとは、こっちでやってもらう……」
唇を離すと、身体を乱暴に俯せにさせられた。
跡部が、不二の双丘を割り開いて、狭間に指を差し入れてくる。
「あ………ぁッッ………!」
ぞくぞくとした感覚が、背筋を這い上ってきた。
「もっと、脚、開けよ………」
言われる通り、脚を開いて、腰を突き出して、跡部にそこがよく見えるようにする。
自分でもそんな所、見たことがないし、自分のなど見たいとも思わないが、跡部はさぞ楽しいだろう。
案の定、不二の秘孔を間近で見て、跡部は嬉しげに笑った。
「おまえのこんな格好を拝めるなんて、思ってもみなかったぜ、周助……」
「………景吾………」
濡れた声で、誘うように囁くと、跡部がそこに何かクリーム状のものを塗りつけてきた。
「ぁ………はッッ………!」
指で捏ねるように蕾の周りを愛撫されて、なんとも言いようのない感覚が突き上がってくる。
ぞわぞわと総毛立つような、そんな快感。
蕾の中に指が入ってきて、不二は背筋を仰け反らせた。
潤滑剤のせいか、痛みもなく、指はぬるり、と中に入ってきた。
「あッ………あッッ……!」
感じる点を擦られたらしく、どくん、と血がうねって、不二はあられもない声をあげた。
「け……いご…………」
甘く、掠れた声で、跡部を呼ぶ。
「ねえ、もう…………ッ」
語尾を震わせながら、振り返って跡部を潤んだ瞳で見る。
跡部がごくんと唾を飲んだ。
「………周助……」
不意に腰を強く掴まれ、秘孔に熱く硬い肉塊が押し付けられて、不二は覚悟した。














「………………ッッッ!!」
さすがに衝撃は大きく、不二はシーツを千切れるほど掴んで、襲ってきた痛みに耐えた。
内臓を抉りつくすかのように、内部に固い異物が侵入してくる。
「あ………うぅ…………くッッッ………!」
喉を仰け反らせて呻くと、跡部が深く沈めた肉棒を勢い良く引き抜いて、不二の身体に打ちつけるようにして、律動を始めた。
「あッ…………あッあッ……………うッ……あぁッッッ!」
固く閉じた瞼の裏に、極彩色の閃光がぱっぱっと浮かんでは散る。
頭を振って衝撃をやり過ごすと、跡部が不二の髪を引っ張ってきた。
「………うッ!!」
痛みに目尻から涙がこぼれる。
「もっと、啼けよ……」
跡部の要求に、不二は濡れた声をあげた。
「あぁッ……けいごッッ………あッあッ………んッッ……いッ………けいごッッ!」
名前を呼ぶと、跡部が嬉しそうに身体を揺さぶってくる。
それが可笑しかった。
内臓が押し上げられ、圧迫感と痛みと、同時に身体の芯が焼け付くような快感がした。
上半身をベッドに突っ伏して、腰だけを高く上げた格好で、不二は尻を跡部に向かって突き出すようにしながら、跡部の動きに合わせて腰を振った。
「ああッ………んッんッ……けいごッ……もっとッッ……!!」
跡部が動きを激しくしてきた。
脳天まで衝撃が突き抜けて、頭が真っ白になる。
「……ああッッッ!」
一際強く突き入れられて、思わず嬌声が漏れたと同時に、跡部が身体の奥深くで弾けたのを不二は感じた。
視界がぼやけた。
不二の白い頬を、涙が一筋流れ落ちていった。














「ねえ、お願い、……言っていい?」
情事の後、ベッドで跡部に抱き締めらた格好で寝ころびながら、不二は口を開いた。
「ああ、いいぞ?」
不二を手に入れて満足したのか、鷹揚に跡部が笑った。
「なんでも聞いてやるよ、周助……」
「じゃあ、ね………」
不二は、跡部の耳元にそっと囁いた。
「………してくれる?」
「…………!」
跡部がぎょっとしたように目を見開いた。
「……本気か?」
「………本気………」
「周助……………」
「………なに?」
甘えるように跡部の首に手を回して、不二は跡部の首筋に唇を付けた。
「いいのか、そんな事して。……おまえ、手塚の事、好きなんだろう?」
「……いいんだよ…………」
首筋に、しっとりとした口付けを繰り返す。
跡部が我慢できないと言うように、不二をきつく抱きすくめてきた。
「ん…………」
嬉しそうに声をあげて、不二は跡部の激しい口付けを受けた。
お互い吸い尽くすように強く吸いあって、ようやっと唇を離す。
「後でどうなっても、知らねえぞ?」
「大丈夫、その辺は僕がうまくやるから。………キミは、僕の言ったことだけしてくれればいいんだ……」
「周助、おまえ…………」
思わず何か言いかけた跡部が、あきらめたように頭を振った。
「まぁ、おまえたちの問題は、俺の知ったことじゃねえしな………。それより、周助、もう一回いいか?」
「……いいよ。何度でも、僕を好きにして…………」
不二は濡れた声で、跡部に囁いた。
「………周助…」
跡部が、不二を組み敷いて、脚の間に割って入ってきた。
自分から大きく脚を開いて、不二は跡部を誘った。


跡部が二度目に入ってきたとき、既に不二は泣いていなかった。
ただ、乾いた笑みを、唇に浮かべていた。


















というわけで、ここだけ跡部×不二です。結構跡部もいいなあと思ったり(汗)