病 
《3》














「あのね、手塚…………」
部活が終わって、部員達が三々五々帰っていく中で不二に話しかけられ、手塚は着替えの手を止めた。
不二が、にこにこしながら手塚を見つめてきた。
「今日、これから暇かな? ちょっと、僕の家、寄ってかない?」
明日は部活のない休日で、少しぐらい夜更かししても構わない。
不二の家に寄って行くぐらいはなんでもないだろう、と手塚は思った。
「なにか用か?」
「うん。ちょっと、キミに見せたいものがあって………」
不二がふんわりと笑って言う。
写真か何かだろうか。
手塚は考えた。
不二に、以前同じように誘われて、不二の家で大きな山の写真を見たことがあった。
自分で撮ったんだ、と言っていたが、確かに、写真が趣味らしい不二の撮ったそれは、構図といい写りといい素晴らしい出来だった。
「構わないが……」
「そう、良かった……」
不二が嬉しげに微笑んでくる。
そんなに嬉しいことなのだろうか、自分が行くと言うことは。
手塚は不思議に思いながらも、不二の後について学校を出た。















不二の家は、夜にも関わらず、誰もいなかった。
「今日はね、僕以外はみな旅行に行ってるんだ」
ドアの鍵を開けながら、不二がさりげなく言った。
「うちの家族って旅行好きでね」
「おまえは行かないのか?」
「僕も行きたかったけど、学校があったしね……」
不二がふわり、と笑う。
「上がって?」
「お邪魔する」
不二が階段をとんとん、と上がる。
手塚も不二の後から階段を上った。
「どうぞ……」
不二が部屋のドアを開ける。
中は暗かった。
先に入って、不二が部屋の灯りをつけるだろうと、入ったところで立ち止まった時、
「…………!!」
一瞬、目から火花が散った。
次の瞬間、手塚はその場に頽れていた。















ぼんやりと目を開けると、白い天井が目に入ってきた。
意識が混濁しているらしく、少しぼやけてみえた。
天井は白くて、円形の灯りが眩しかった。
瞳を細めて、光から目を背けようとして、手塚は自分の身体が動かないのに気が付いた。
はっとして、意識が戻ってくると、途端に頭痛がした。
「………気が付いたようだぜ?」
誰かの声がした。
がんがんする頭を振って、声のした方を見ると、見覚えのある人物だった。
-----誰だったか?
働かない頭を懸命に使って、手塚は考えた。
思い出した。
跡部だ。
氷帝学園の、跡部景吾。
…………どうして、跡部が?
ここは、どこだ?
不二の部屋ではなかったか?
「そんなに酷く殴らなかったよな、樺地?」
……………樺地?
視界の端に、背の高い大柄な男が目に入った。
その向こうに、不二がいた。
(…………不二?)
不二が、部屋の隅のソファに腰掛けていた。
ソファの肘宛てに右肘をかけて、頬杖をついたような格好で、瞳を細めて自分を見ていた。
「なんだかきょろきょろしているぜ?」
跡部が可笑しそうに笑った。
「まぁ、いいか。………いいんだな、周助?」
(…………周助?)
それは、不二の名前だ。
どうして、跡部が、不二を名前で呼ぶんだ?
「うん、お願い………」
不二が、聞いたこともないような、甘い声を出してきた。
驚いて不二を見た手塚の前に、跡部が進み出てきた。
「手塚さんよ、悪く思わねえでくれよ?」
「……………?」
思わず跡部を見上げた手塚の首に、跡部が手を掛けてきた。















------ビリリッ!
次の瞬間、着ていたシャツを派手に破かれて、手塚は驚愕した。
「……な、なにを?」
跡部の手を止めようとして、手塚は自分の腕が後ろ手に拘束されていることに、漸く気付いた。
手首を、がっちりと縄のようなもので縛られていた。
「………ふ、ふじ?」
驚いたまま、不二を呼ぶと、不二が悲しげに微笑んだ。
「ごめんね………」
(……………何が?)
訳が分からないままに、不二を見る。
不二が、じっと手塚を見つめていた。
悲しげな色が、目に浮かんでいた。
手塚は混乱した。
一体、何が行われているんだ?
どうして、不二の部屋に、氷帝の跡部や樺地がいるんだ?
どうして俺は縛られているんだ?
跡部はどうして、不二を名前で読んでいるんだ?
跡部は、俺に何をするつもりなんだ?
疑問が次から次へと湧き上がって、頭が更に混乱する。
呆然としている間に、跡部が次の行動を起こしてきた。
乱暴にズボンを引き下ろされ、手塚ははっと我に返った。
「……よ、よせっ!!」
ボタンが全て千切れ飛んだYシャツは、跡部によって既にはだけられ、縛られた手首に纏わりつくだけの布きれになっていた。
そこに、ズボンを下着毎引き下ろされて、手塚はあっという間にほぼ全裸にされていた。
「ふうん…………なるほどねえ………」
手塚を見下ろして、跡部が納得したかのように声をあげた。
「綺麗な身体だ、悪くないね……」
「………なっ!!」
かぁっと顔が熱くなって、手塚は思わず後ずさろうとして、
「樺地!」
跡部の鋭い声で、後ろから樺地に羽交い締めされてしまった。
「脚、広げさせとけ!」
樺地が、手塚の背後から大きな手を伸ばして手塚の両脚をがっちりと掴むと、思い切りその脚を身体の方に引きあげてきた。
胸に付くぐらいに上げさせられ、手塚は後ろ手にされた腕が痛んで、苦痛の表情を浮かべた。
「色っぽいねえ……」
跡部がくっくっと笑う。
「結構いい線いってるね、手塚さんも……」
「なんでっ、こんなっ!!」
胸を圧迫されて、苦しい息の下から、それでも跡部を睨んで言うと、跡部が肩を竦めた。
「それはあいつに言ってくれよ、あいつに……」
指差したのは、跡部の背後のソファに座っていた不二だった。
「不二………?」
思わず、縋るように不二を見ると、不二が微かに微笑んだ。
「……ごめんね……」
-------何が?
何を謝っているんだ?
分からない。
どうしたんだ、不二?
「やるぜ、周助?」
「うん………」
不意に視界が暗くなる。
跡部が手塚に覆い被さってきた。
「樺地、しっかり掴んどけよ?」
樺地に思い切り脚ごと身体を拘束されて、痛みと息苦しさで手塚は呻いた。









と、次の瞬間、身体を真っ二つに割り裂かれるような、信じがたい痛みが、手塚を襲った。


「…………………ッッ!!」


















ここは跡部×手塚です。跡部君大忙し。樺地が酷い役回りですいません。