桎梏 《1》
「く………ぅ…………ッ」
内臓が喉元まで迫り上がってくるような、表現しようのない圧迫感。
それとともに、切り裂かれるような痛みが全身を襲う。
額に脂汗が滲んで、目の前が霞む。
せめて、声を出して痛みを凌ごうとしても、口腔内には声を出させないための器具が装着されている。
ぎりぎりと異物が腸内に侵入してきて、身体が真っ二つに裂けるような衝撃が脊髄を駆け上がる。
身体を支えようと思っても、縛られてベッドの柱にくくりつけられた両手ではそうも行かず、ただ縄に擦れた手首が痛みを訴えて来るばかりだった。
「ぁ………くぅ………ッッ」
僅かに漏れるのは、くぐもった呻きばかり。
そこに容赦なく、猛った怒張が叩き込まれる。
跡部は全身を海老のように仰け反らせて、肉棒を受け入れていた。
白い背中に汗がしっとりと滲み、肩胛骨の窪みにたまって光る。
胃の奥から吐き気がこみ上げてきて、跡部は思わず身体を震わせ、許しを請うように、背後から犯している男の顔を振り返った。
涙に濡れた灰青色の瞳は、誰もが魅了されるほど美しかったが、背後の男は冷たく跡部を見下ろし、鼻先でふっと笑った。
尻の肉を痕が付くほど掴まれ、勢い良く怒張が挿入される。
「ぃ………ッ………く…………ッッ!」
脳天まで、激烈な痛みが走り抜け、跡部はたまらず首を激しく振った。
涙がこぼれ落ちて、シーツに飛び散る。
身体の中の中まで浸食するかのように異物が突き込まれ、入ってきた時よりも乱暴に引き抜かれ、また、跡部の身体を壊すかのように強く突き入れられる。
大きく脚を広げて、ひたすら男の動きに合わせて、跡部は腰を振った。
少しでも、痛みから逃れたかった。
ぎしぎしとベッドが軋み、縄に擦れた手首がひりつくような痛みを訴えてくる。
顔をシーツに擦り付けて、腰を高く上げて、男に甘えるように腰を振って、跡部は怒張を迎え入れた。
男が軽蔑したように笑って、跡部の尻をつねりながら激しく揺さぶり始めた。
「う………く…………く………ぅッッッ!」
涙の溢れ出る瞳をきつく閉じると、瞼の裏に極彩色の閃光が散った。
身体中が熱湯でも浴びせられたかのように熱く、蹂躙されている箇所は更に熱を持っていた。
痛みとも快感ともつかぬ熱い衝撃が、全身に広がる。
「ぅ…………うう………………うくッッッ!!」
男の律動が激しくなって、跡部はもはや何も考えられなかった。
体内深くに、熱い粘液が叩き付けられる。
全身が不意に燃え上がった。
絶頂が跡部にもやってきて、跡部は激しく身体を震わせながら、シーツの上に射精した。一方的なセックスはいつものことだった。
行為が終わると、榊は面倒臭そうに跡部を拘束していた縄を解き、口に装着していた器具を外した。
まだ朦朧として動けない跡部を、汚いものでも見るかのように目を眇めて一瞥し、すっと離れると、流麗な仕草で衣服を身に着ける。
跡部が意識を取り戻した時には、榊はすっかり身支度を整えていた。
怠く重い身体を漸く起こして、赤く擦れた手首をさすりながら、跡部は縋るように榊を見上げた。
「後始末しておけ」
榊が凛とした声音で言ってきた。
榊と跡部が寝ていた部屋は、氷帝学園内のテニス部コーチ室だった。
コーチ室は10畳ほどのワンルームで、テニス部の部室と同じ建物の一角にあった。
榊以外は出入り禁止の個室である。
中は、泊まる事も考えて、給湯設備からユニットバスまで備えられた、ホテルのような一室だった。
ぴしり、と身支度を整えた榊が、煙草を取り出して紫煙をくゆらす。
跡部はのろのろと起きあがった。
榊に蹂躙されていた内部が、きしきしと痛んだ。
涙がこぼれてきて、ごしごしと顔を擦りながら、跡部はティッシュを取って榊の残滓が垂れている内股を拭き、それから唾液で濡れそぼった器具を拭いた。
後始末は、跡部の役目だった。
シーツを替え、器具を洗う。
「鍵は締めておけ」
跡部がよろよろと蹌踉めきながら立ち上がったのを見て、煙草を灰皿に押し付けると、榊が言った。
それから、ふと思い出したように跡部の手首を見た。
「………手首は大丈夫か?」
「……監督………?」
いつもの事だったが、榊は行為が終わると、さっさと帰ってしまう。
跡部のことなど、まるで視界に入っていないかのように。
それなのに、今日は珍しく、自分の身体について優しい言葉をかけてきた。
いつにない榊の言葉に、跡部はつい嬉しくなって、甘えるように榊に近寄った。
優しく頭でも撫でてくれないだろうか。
少しでも優しくしてくれたら、俺は。
「……勘違いするな」
しかし、近寄ってきた跡部をよけるようにして、榊は冷たく言い放った。
「テニスに支障があると困ると思っただけだ。大丈夫のようだな」
「監督………」
つい縋るような視線を送ってしまったらしい。
榊が冷然として立ち上がった。
「おまえのような青臭い子供など、俺が真面目に相手すると思うな。……ちゃんと後始末しておけ」
--------バタン。
それだけ言うと、跡部の方など振り向きもせずに、榊は出ていってしまった。
ドアの音が、室内に響く。
「監督…………」
不意に、ぬるり、と内股を温かい液体が伝って、その感触に跡部は総毛だった。
自分の血と、榊の精液の混じった桃色の液体が、白い内股に筋を作って垂れていた。
涙で視界が霞む。
力無くその場にしゃがみ込むと、跡部は顔を覆って嗚咽を漏らした。
監督相手だとこういう感じがいいなぁとか思ってます。