「おい跡部、いい眺めだぜ」
「あっはっはッッ、テメェのこんなざまが拝めるなんてよ、生きててよかったぜ!」










桎梏 
《4》










身体中が火がついたように熱かった。
張られた頬。
蹴られた腹。
引き千切るようにして剥ぎ取られた制服が、白く滑らかな肌のそこここに擦過傷を作っていた。
汗と涙で霞んだ視界に、黒いシルエットとなって、男達の影が映る。
テニス部の上級生だった。
最後の全国大会で敗北を喫して、引退を余儀なくされた奴ら。
監督からも、もう二度とテニス部に顔を出すなと、事実上絶縁を言い渡された奴らだった。






その年の全国大会で、跡部は最後まで負けなかった。
ただ、他の部員が負けたので、3回戦までしか進出できなかった。
2年生で全国大会に出場したのは、跡部だけだった。
そして、跡部以外のレギュラーは、ほぼ全滅した。
大勢の部員の前で、監督に二度と来るな、と言われて、それでも監督には一言も言い返せず、唇を噛んで下を向いていたレギュラー達を、跡部は軽蔑したように笑って眺めていた。
その、引退を余儀なくされたレギュラー達に、跡部は襲われていた。










夏休みの、誰もいない夕方の部室。
上級生が引退して、実質、2年生の跡部が部長代行となって数日。
他の部員が帰った後、部誌を記入して部室に残っていた跡部に、突然数人の上級生が襲いかかってきたのだ。
自分が恨まれていることは承知していたが、まさかこういう実力行使に出るほど度胸が据わっている奴らだとは思っていなかったので、跡部も油断した。
彼らは、部室に入って来るなり、跡部に殴りかかってきた。
驚いて顔を上げた所に、頬を張られた。
跡部は暴力を受けたことがなかった。
他人から乱暴な仕打ちを受けたこともなかった。
跡部にとって他人とは、自分を崇拝してちやほやしてくれるか、或いは恐れ戦いて遠巻きにして眺めているだけか、そのどちらかだったのだ。
上級生たちは、後者だった。
跡部を恨んでいるだろうが、直接相対するだけの度胸がなく、遠巻きにしてひそひそと悪口を言っているだけ。
そんな人間を、跡部はバカにしていた。
実力も、努力する気力もない、口だけの軽蔑すべき奴ら。
そう思っていた。
------だから、油断していた。
もう、テニス部に居られない、となった彼らが自暴自棄になって、なんらかの行動を起こす可能性を失念していた。
そして、それが自分に向けられる可能性にも。
跡部の内心はともかく、傍目から見れば、跡部は監督のお気に入りであり、唯一監督に認められている実力の持ち主なのだ。
それに加えて、人を人とも思わぬ傲岸不遜な態度。
恨まれないはずがなかった。















「ぅ………く………ッッ!」
襲ってきた上級生は5人だった。
みな正レギュラーだったものばかりだ。
ダブルスを組んでいた4人と、シングルス1人。
全国大会で負けた奴らだ。
全国大会では、跡部はシングルス3に入っていた。
ダブルス2組が負け、その後の跡部が勝ち、次のシングルス2が負けて、そこで氷帝学園の敗北が決定したのだ。
跡部だけが勝った事で、衆目の面前で監督から絶縁を言い渡されてその場で帰らされた彼らの、傷付いたプライドと怨嗟が、彼らを愚行に駆り立てた。
殴られて蹲った跡部を押さえつけ、5人かがりで制服を剥ぎ取る。
ボタンが千切れ飛び、ズボンが引き抜かれる。
跡部を全裸に剥いて、彼らは押し殺した笑いをあげた。
「……へぇ、やっぱ綺麗なもんだな……」
「こいつ、顔だけはいいからな……」
全裸になった跡部の、白く艶やかな肌や細い腰、その中心の淡い茂みを眺めて、上級生たちが笑う。
その笑いの意味するところを察して、跡部は背筋が凍り付いた。
殴られた時は、自分をリンチにかけるのかと思ったのだが。
彼らの意図が分かったのだ。














跡部はその外見の可憐さからか、欲望の混じった眼差しで見つめられることが多かった。
それは女からの事もあったし、男からの事もあった。
テニススクールのコーチの目であったり、自分を自慢のアクセサリーとして連れ歩く母親の、友人の目であったりもした。
そんな視線に、跡部は傲然として顔を上げ、誘うように笑い描けた。
そうすると、大人達はみなどぎまぎしたように視線を逸らし、頬を赤らめる。
そういう滑稽な姿を見るのは、跡部にとって痛快だった。
とは言っても、跡部にはそれまで男性は勿論、女性との経験も無かった。
自分がその気になればいくらでも機会があるという状態が、返って跡部をそういうものから遠ざけた。
クラスメートの女生徒や、家庭教師や、……そういう機会はいくらでもあった。
しかし、自分を物欲しげに、羨望の眼差しで見つめてくる人間を、跡部は軽蔑していた。
そんな奴らと肉体関係を持つ気など更々なかった。
自分が汚れてしまうような気がした。
だから、跡部はセックスもしたことがなければ、キスのような軽い肉体的接触も経験がなかった。
それなのに、今、暴力で無理矢理犯されるのかと悟って、瞬時跡部はパニックに陥った。
「くそっ………はなせッッ!」
突然闇雲に暴れ出した跡部を、上級生達はそれぞれ手足を押さえつけて拘束した。
「おいおい、こいつのこんな怯えた所、初めて見たぜ?」
一人が嬉しげに鼻を鳴らす。
「こんな綺麗な面してるわりに、初めてなのかよ、おい?」
もう一人がひゅう、と口笛を吹いた。
「そりゃあ、光栄だぜ。俺達、景吾ちゃんの初体験の相手になれるってわけだ」
3人目がげらげら笑いながら、カチャカチャと音を立てて、制服のズボンの前をくつろげた。
「痛くしちゃ悪いからな、ちゃんと濡らしてやるから安心しな」
予め用意して置いたのだろうか、一人がバッグからチューブ状のジェルを取り出した。
両脚が二人の上級生によって思い切り広げられ、その間にジェルを持った男が入り込んでくる。
「あッッ…………やッッ!!」
もっと、冷静にならなければならない。
こんな奴らの事なんて、馬鹿にして笑えるほどに。
身体なんて、別にどうされようと、たしたことじゃない。
それより重要なのは、こいつらに心理的に負けないことだ。
頭の中では必死にそう思うものの、跡部は恐怖がおさえきれなかった。
一度恐怖に理性を席巻されると、秩序だった考えなどできなかった。
------怖い!
その思いだけが頭の中をぐるぐると駆け巡る。
「……うッッ!!」
チューブが不意に跡部の肛門に突き立てられ、冷たい内容物が腸内に侵入してきた。
全身が冷水でも浴びせかけられたかのように冷たくなった。
白い内股が細かく震え、跡部は薄青い綺麗な目を張り裂けんばかりに見開いて、チューブを突き立てている上級生を見た。
「おいおい、結構可愛いじゃねえか?」
男が苦笑する。
「そういう面してればな、結構悪くねえのによ。俺達だって、ここまでやろうなんざ思わなかったぜ?」
ぐいぐいとチューブを絞って内容物を入れながら言う。
「テメェが小憎らしい面で、俺達をさんざんバカにしなければな」
チューブが引き抜かれたかと思う間もなく、ごつい指が侵入してきて、跡部は背中を仰け反らせた。
耐え難い悪寒がした。
異物が押し込まれる感覚。
自分の内部を、好き勝手に蹂躙される感覚。
「あ………くぅッッッ!」
腸内で指を掻き回され、跡部は耐えきれず苦悶した。
「ほんとだ、可愛いな……」
脚を押さえていた上級生が、喉を鳴らして上擦った声で言う。
「おい、早くヤっちまえよ……」
腕を押さえていた上級生も、押し殺したような声で言う。
「そうだな………何しろ人数多いからなあ」
指を入れていた上級生が苦笑して、指を唐突に引き抜いた。
「あ……………」
無意識に止めていた息を吐いて跡部が瞬きをした瞬間、指とは比べものにならない太い異物が、跡部の尻に突き立てられた。
「……はッッッ!!」
ズン、と脳天まで鈍い衝撃が走る。
全身からどっと汗が吹き出し、堪えきれない痛みが血液に乗って全身を回る。
跡部は顎を仰け反らせ、激しく首を振った。
柔らかな粘膜を容赦なく引き裂かれる、耐えがたい痛み。
身体に圧し掛かってくる重み。
苦痛に歪む自分を、興味深そうに覗き込んでくる男達。
いくら大人びていると言っても、跡部はまだ中学2年生だった。
このように暴力的な虐待を、受けたこともなかった。
多勢に無勢。
圧倒的な力の差の前に、跡部の矜持やプライドは無力だった。
「や…………あッッ…………いたッ…………ッッッ!!」
ぐっぐっと押し込められる硬い異物に、跡部は涙を流しながら苦痛を訴えた。
「そそるな、結構………」
荒く息を吐きながら、跡部を犯している上級生が鼻の穴を膨らませる。
「締まりもすげえぜ……」
「おい、早く替われよ」
跡部の腕を拘束している男が、ごくりと唾を呑み込んで言ってくる。
「分かったよ、そうせっつくなって」
跡部の内部に楔を打ち込んでいる男が苦笑した。
「せっかくいい思いしてんだから、少し待ってろよ」
ぐい、と両脚を抱え上げられ、胸につくほど折り曲げられる。
露になった肛門に、容赦なく硬い肉棒が打ち込まれる。
「あ………あっあっ……………く…………ッッッ!」
目の前が霞んで、跡部は弱々しく掠れた呻きを漏らした。
身体の真ん中を太い一本の鉄棒が貫いているような、そんな焼け付くような痛み。
身体中の感覚がそこに集まり、熱痛に全身が震える。
霞んだ目に、男の下卑た笑いや、その向こうの薄暗い天井が一瞬飛び込んできた。
「あ…………ああッあッッッ!!」
奥深くまで貫かれる衝撃に、全身が総毛立つ。
「くそ、イっちまうぜ…!」」
男が忌々しげに呻いて、跡部の腰をぐいと引き寄せた。
次の瞬間、身体の奥でどくん、と男の性器がうねった。
男の満足げな吐息が跡部の首筋に掛かる。
堪えきれない吐き気が込み上げてきた。
胃から酸味の濃い胃液が逆流してくる。
男がずるり、と体内から抜ける感覚が更におぞましかった。
「じゃ、今度はオレな………」
体勢を立て直す間もなく、別の上級生に脚を抱え上げられる。
「やっ………やだっ………ッッ!」
もう跡部はなりふり構わなかった。
頭を振って、泣きながら拒絶の意志を示したが、そんな行為も、男の劣情を煽るだけだった。
「こいつ、すっげえイイな………」
欲望の滲み出た声に、鳥肌が立つ。
「…………うぁぁぁッッッ!!」
次の瞬間、傷付いた蕾にぐぐっと肉棒が打ち込まれた。
跡部は白目を剥いて苦悶した。















「何をしているんだ」
怜悧な声が聞こえた。
跡部はその時、4人目の男を受け入れていた。
もはや跡部は全く抵抗をしていなかった。
上級生たちの意のままに身体を開き、ぐったりとしたままその欲望を受け止めていた。
その朦朧とした視界に、すらりとした長身がぼやけて映った。
「か、監督…………」
跡部を押さえつけている上級生の、愕然とした掠れた声。
………ああ、この責め苦から解放される。
唐突にそう思って、跡部は涙が溢れてきた。
視界がますますぼやけて、意識がふうっと遠のいていく。
すらりとしたシルエットが近付いてくるのを、暗くなる意識の中で跡部は微かに感じていた。


















というわけで跡部のお初は強姦だったのでした……。