Without your love 《1》
「……あれぇ?」
塾の帰り、チャリに乗ったオレは、雑踏の中に珍しい人物を見付けた。
ゲームセンターなんかが立ち並ぶ一角の、ちょっと引っ込んだ所で揉めている中学生二人。
一人は、亜久津がらみでちょっと知っている、地元の公立中の不良。
亜久津が以前、地元の公立中のやつらと喧嘩しちゃって、その仲裁をした時に何回か話した事がある。
単純バカだけど、体格はいいし、力も強い。
うまくおだてればなんて事ないんだけど、一旦キレると手が付けられないから、扱いには要注意ってヤツだ。
そして。
もう一人が意外なヤツだった。
金茶色の柔らかな髪を振り乱して、灰青色の瞳を爛々と輝かせて相手を睨み付けている人物。
学校の帰りなんだろうか、帝というロゴの入ったエンブレムが付いた制服のままだった。
………なんか、マズくない?
何か言い合っていた二人が、表通りから隠れた小さな通りに入っていったのを見て、オレは慌てた。
チャリを方向転換して、二人の後を追う。
突き当たりの薄暗い路地で、二人は一触即発の状態だった。
お互い睨み合って、一歩も引かない構え。
「……おーい」
オレはできるだけ間の抜けた明るい声を出した。
二人がぎょっとして、オレの方を向く。
不良の方がオレを睨み付け、それからしばし考え込むような顔をした。
「オレ、オレ、……山吹中の千石で〜す」
オレは不良に向かって、にこにこと笑い掛けた。
「この間はども。……どしたの〜?」
「……テメェにゃ関係ねえだろ?」
不良がオレをぎろっと睨んできた。
アラ怒ってるよ…………うまく宥めなきゃ。
「あのね〜、そっちの人、オレの知り合いなの。だからさぁ、何したのか知らないけどさ。オレに免じて許してやってくんない?」
オレは不良にお願いするように手を合わせた。
不良が眉を顰める。
オレに何かあれば亜久津が出てくるって分かってるから、厄介だと思ってるんだろう。
まぁ、そこが狙い目だけど。
「……ね? お願いしま〜す。オレが彼の代わりに何かするからさ〜」
「……おい、テメェにゃ関係ねえだろ?」
その時、後ろから不機嫌な声が聞こえた。
跡部だ。
もう、折角オレがうまく事を収めようとしてるのに、場の読めないヤツ。
「マァマァ、そう言わずに、跡部クン。……はい、オレのチャリ貸すから、それで帰ってくれない?」
オレはそう言って跡部を無理矢理チャリに乗せると、追い出した。「……でさ、彼と何したの〜?」
不良と二人きりになると、オレは彼を窺いながら聞いてみた。
「別に。アイツがガン付けてきたから、テメェどこの中学だって聞いてただけだぜ」
--------あ、そう。
「アイツの態度がでけぇから、ヤキ入れてやっかと思ったのに、テメェのせいで」
「あ、ごめんごめん。……ねぇ、オレに免じて許してやってよ。……彼、一応友達なんでさぁ」
……って、オレと跡部は別に友達でもなんでもなくて、ただテニスでちょっと顔を見たことがあるぐらいだったけど、それでもその時のオレは跡部を庇いたくなっていた。
彼が何の用でこんな山吹中エリアまで来たのか知らない(きっと女の子でも追いかけてきたに違いない)けど、オレのエリア内で彼がボコられるのは嫌だった。
「…ね? オレで出来ることならなんでもするからさ?」
オレの返答を聞いて、不良は顎に手を掛けて考え込んだ。
「そういや、テメェ、……亜久津のオンナだったよな。………じゃぁ、ヤらせろよ」
-------アラ、そう来ましたか。
オレは肩を竦めた。
オレと亜久津はセックスフレンドで-----というのも実はオレが誘ったんだけど------なぜだか知らないけど、不良の間で亜久津はホモでオンナ(男だけどね)がいるって話が広がってるらしい。
で、そのオンナってのがオレ。
まぁ、別に嘘じゃないからいいけど。
「うーん、オレ、家に帰る途中なんだよね〜。……ココですぐならいいよ?」
オレが承諾するとは思ってなかったらしく、返答を聞いて不良がぎょっとしたように顔を強張らせた。
なんだ、結構ビビってんじゃん。
オレは可笑しくなって、不良のズボンのベルトを外しジッパーを下げて、中から垂れさがったペニスを取り出した。
ちょっと匂いがきついけど、それはそれでオレも興奮した。
「……お、おい、ちょっと………」
「あ、オレ千石ね。名前で呼んでね?」
実のところ、他人とセックスするのは嫌いじゃない。
というより、大好きだ。
女の子の方が柔らかくていいけど、でも男に突っ込まれるのも好きなんだよね、オレ。
だから、その時も別に構わないかな、なんて思った。
不良のペニスをパクっと咥えると、口を窄めて扱きあげる。
「ぅ………お、おい………!」
括れた部分を舌で擦ったり、先端の鈴口をちゅ、と吸いあげたりしていると、ソレはすぐに大きくなって、すっかり固くなった。
ビクビクとオレの口の中で蠢いて、なんだか危ない。
もう、出ちゃうみたいだ。
不良のくせして、経験浅いんだな、コイツ。
オレはズボンを片足だけ抜いて、それから背負っていたバッグの中からジェルとコンドームを取り出した。
こういうの、実はいっつも用意してるんだよね、オレ。
不良のペニスにコンドームを素早く装着し、自分のアナルにジェルを塗って、それから壁に手を付いて尻を突き出した。
「はい、どうぞ?」
「あ………あ、ああ………」
不良が戸惑ったような声を出して、オレの尻を掴んできた。
「……い、いいのかよ?」
「うん、だって、したいんだろ? オレもさ、友達見逃してくれたお礼に、貸し借り無しって事でちょうどいいし?」
「そ、そうかよ。……じゃぁ、いくぜ……」
そう言って不良がごくり、と唾を飲んだ。
次の瞬間、ずぶ、と不良の太い肉棒がオレのアナルに突き刺さってきた。
「う……………ッッ!」
脳天までずーんと快感が突き抜けて、オレは背筋を仰け反らせて呻いた。
気持ちがいい。
塾で頭使って結構疲れていたから、反対に身体を使うのが心地良い。
「ん………ん………ッッ!」
オレは自分から腰を振って、不良のソレを深く迎え入れた。
「う………千石………ッ」
オレの名前、覚えてくれたのかな?
不良が上擦ったような声で言いながら、オレの腰を掴んで揺さぶってくる。
何回か抜き差しすると、不良は呆気なく達した。
あんまり早すぎて、オレは後ろだけではイけなかった。事が終わると、不良はなんだかそそくさと、逃げるように立ち去ってしまった。
もっと脅してくるとか、何かしてくると思ったのにな。
ちょっと拍子抜けして、壁に凭れてオレはふうっと溜め息を吐いて、ズボンを穿いた。
まだ、オレ、中途半端なんですけど…………。
イってないオレのペニスが疼いていた。
しょうがないから、家に帰ってからマスでも掻くか。
肩を竦めて、バッグを背負う。
-----------ガタン。
その時、不意に近くで音がして、振り向くと、そこに自転車を押した跡部が立っていた。
………そう言えば、跡部クン。
自転車貸したから、そのまま逃げたのかと思っていたんだけど。
跡部はにやにやした表情でオレを凝視していた。
「跡部クン、…………いたの?」
跡部の表情を見る限り、彼が一部始終を見ていた事は確かだ。
………やばいよ。見られたんだ。
オレは跡部の顔を恐る恐る窺った。
「あ、あのね………」
オレは困ってへらへら笑って見せた。
「ヘンなとこ見られちゃったかな〜」
「おまえって、ああいうヤツだったんだな。今まで知らなかったぜ」
跡部が唇を歪めて笑った。
「…………」
跡部が酷薄な顔で笑ったので、オレは息を呑んだ。
跡部とオレは、顔は知っているけれど、個人的に話をしたことはない。
いいとこ、テニスの試合会場で試合を眺めたりするぐらいだ。
とは言っても、氷帝の跡部といえば、プレイボーイの代名詞にもなってるぐらい(テニス仲間の間では)有名で、いつも女を欠かしたことがないとか、女がらみでいざこざが絶えないいとか、そういうロクでもない噂はよく聞いていた。
まぁ、オレも人のことを言えたもんじゃないけど。
でも、跡部ほどじゃないと思う。
だって、顔も跡部みたいに綺麗じゃないし、テニスだって跡部ほど上手くないし。
オレがもし跡部みたいに綺麗だったら、今の十倍は女の子にモテそうだもんね。
「こんな所で平気で男となぁ……びっくりしたぜ、千石。しかも、用意がいいのな? いつもあんな風にやってるのか?」
跡部は興味深そうにオレをじろじろと眺めてきた。
その不躾な視線に、オレは困惑した。
「ま、でもやられたのは俺のせいなんだから、感謝しなくちゃならねえか?……それにしても、千石。テメェ、結構色っぽいよな………」
跡部がオレの目の前まで来て、オレの顔を覗き込んできた。
まるで観察するかのように、灰青色の目で。
------なんて、綺麗なんだろ。
間近で跡部の顔を見て、オレはその時の状況も忘れて、思わず跡部の顔に見入ってしまった。
アングロサクソンの血でも入っているんだろうか、色素の薄い透明な瞳と、白くて滑らかな肌と、バランスの良い造形。
………これならモテて当然だよねぇ……。
オレがほけっとして跡部の顔を見ていると、跡部は唇を吊り上げて笑って、それから急にオレのズボンのベルトに手を伸ばしてきた。
カチャカチャとベルトを外しに掛かる。
「……跡部クン!」
オレは慌てた。
跡部はにやにやしながらオレに囁いてきた。
「……おい、俺にもやらせろよ」
アンケートで跡部×千石がなにげに高得点なので、挑戦してみましたv